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【書評・本の感想】高野和明著『幽霊人命救助隊』人はなぜ自殺に追い込まれるのか?

幽霊人命救助隊

こんにちは。えいぷりおです。

高野和明さんの小説『幽霊人命救助隊』を読みました。

自殺した4人が幽霊となって現世に舞い戻り、これから自殺をしようとしている人たちを救助するというストーリー。

一見、荒唐無稽なファンタジーのようでいて、実は人の心の奥底を垣間見させてくれる非常に示唆に富んだ物語でした。

この作品は「人はなぜ自殺に追い込まれるのか?」ということを考えさせてくれます。

もしあなたや、あなたの大切な人が、少しでも自らの死を選ぼうとしたことがあるのなら、ぜひ読んでもらいたい。

その絶望に救いの光を当てるヒントが、この本にはあるかもしれません。

『幽霊人命救助隊』のあらすじ

『幽霊人命救助隊』は、文庫本で600ページ近い長編です。

自殺して幽霊になった4人が、神様から命じられて、自殺をしようとしている100人を、あの手この手で救い出していきます。

その過程で、自殺に追い込まれる人の心理状況が独特の手法で描き出され、彼らが何によって救われるのかも明らかにされていきます。

『幽霊人命救助隊』

 

著者 高野和明

発行 文藝春秋(2007年4月)

えいぷりお感激度 ★★★★☆(星4つ)

 

浪人生の高岡裕一は、奇妙な断崖の上で3人の男女に出会った。老ヤクザ、気弱な中年男、アンニュイな若い女。そこへ神が現れ、天国行きの条件に、自殺志願者100人の命を救えと命令する。裕一たちは自殺した幽霊だったのだ。地上に戻った彼らが繰り広げる怒涛の救助作戦。傑作エンタテインメント、遂に文庫化。(文庫本の裏表紙から引用)

様々な自殺志願者たち

この小説には、数多くの自殺志願者たちが描かれます。

  • リストラされ身よりもなく孤独が募った中年男性
  • 地方から東京に出てきて自身を喪失した大学生
  • 真面目な性格が災いしてうつ病を患った会社員
  • 障害を持つ子供の育児に疲れ果てた母親
  • 両親の離婚と学校でのいじめで居場所を失った小学生
  • 自尊心がなく男に依存してリスカを繰り返す若い女
  • やけになって犯罪を犯し破滅的な行動に走る男
  • 不治の病の苦しみから延命措置を拒否する老女

などなど… 読者は自分と重なる誰かを、これらの登場人物の中から発見することでしょう。

客観的に彼らのエピソードを読んでいると、「なんでその程度のことで!?」と思うことが多くあります。

でも、それこそが自殺の怖さ。彼らにとっては、「その程度のこと」が世界のすべてになってしまっているのです。

これまでにない「うつ病」の描写

見事なのは、うつ病の描写。自殺志願者の心に巣食う、重い鉛玉のようなうつ病を、心の中に分け入って巧みに言語化していきます。

うつ病については、多くの参考文献があると思います。学問的なものから、体験者の声まで、様々な視点で語られてきました。

ですが、この小説では、これまでとはまた違う視点でこのやっかいな病気について描かれているのです。

感動的だったある小学生の復活劇

多くのエピソードの中で、僕がもっとも感動したのは、ある小学生の復活劇です。

彼の両親は離婚協議の最中で、家庭は冷え切っています。

その上、学校ではいじめられ、居場所を失った状態にあります。

小学生なので、気持ちをうまく言語化できず、感情だけが漂っていますが、死への憧れのようなものが芽生えています。

そんな彼を、救助隊の4人が手を尽くして救おうとします。

この章のラストで、彼が自らの殻を破り、いじめっこに立ち向かっていくシーンは、身震いするほどに感動的でした。

人は変われる! 自分の人生を自分の手でつかみ取ることができるのだ!

そんなことを教えてくれるエピソードでした。

主人公たちの自殺への後悔

主人公の4人は、それぞれの事情で実際に自殺をしてしまった人たちです。

彼らの共通点は、自殺してしまったことを後悔していること。悔やんでも悔やみきれない。その究極の気持ちを代弁しているのが彼ら4人です。

高層ビルから飛び降り自殺をした若い女性隊員。そして、富士山の麓の青木ヶ原樹海で首吊りをした中年男性隊員。

彼らは、魂が肉体を離れたときに、自分の死体の惨状を見て衝撃を受けています。

飛び降りた瞬間、首を縄にかけて踏み台を蹴った瞬間、猛烈な後悔が押し寄せても、もうどうにもできない。

彼らが語る悔恨の念を聞くと、ちょっと自殺に心が傾きそうになっている人は、ハッと我に返ることができるかもしれません。

テンポのいいリズミカルな文章そのものが救いになる

この小説そのものが、自殺志願者を救うことを目的に書かれたことは間違いないでしょう。

主人公4人の悔恨の念。自殺志願者たちのネガティブな思い込み。うつ病の実態と、治せる病気なのだという救い。

そういうことを様々な角度から語りかけることで、自殺に傾いている読者を全力で止めようとしているのだと感じました。

素晴らしいのは、これだけ重いテーマを扱っていながら、重苦しい文章にならず、徹底的にエンタテインメントに徹している点です。

テンポがよくリズムカルな文章で、主人公4人の掛け合いはユーモアが溢れていて、思わず吹き出してしまうことも。

これこそ、本当の意味で「うまい」文章なのだと感銘を受けました。

えいぷりお的まとめ

幽霊となった主人公4人は、人に取り憑いて心をモニターできるという、ファンタジックな能力を持っています。

高野和明さんは、その設定をフルに生かし切って、人の心の奥底をこれまでにはない新しい視点で描き出しました。

死を意識したことがある人はもちろん、そうでない人も、一流のエンタテインメントとして、この作品を楽しんでもらいたいです。

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