〈そなてぃね〉のご案内マップ

2020年6月5日 ウィーン・フィル 新型コロナのロックダウン後 3ヶ月ぶりに公演再開

200605 ウィーン・フィル公演再開1

こんにちは。そなてぃねです。

2020年6月5日に、ウィーン・フィルが3ヶ月ぶりに公演を再開しました。

NHKのニュース記事を軸に、「ウィズ・コロナ時代」のオーケストラのあり方を占う今回のコンサートについて考えます。

演奏会の概要

【ウィーン・フィル演奏会】

 

管弦楽:
ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団

ピアノ・指揮:
ダニエル・バレンボイム

 

  1. モーツァルト作曲
    ピアノ協奏曲 第27番 変ロ長調 K.595
  2. ベートーヴェン作曲
    交響曲 第5番 ハ短調 作品67

 

2020年6月5日

ウィーン楽友協会 大ホール

観客100人以下

NHKニュースで報じられたこと

NHKは、翌日6月6日(土)の「ニュース7」で、この公演について大きく報じました。

公演本番の映像取材は、外国メディアでは世界で唯一NHKだけに認められたそうです。

NHKは元日のニューイヤー・コンサートを中継するなど、ウィーン・フィルとは強い結びつきがあります。その関係性が今回の取材に結びついたのでしょう。

ちなみに今回の公演はオーストリア放送協会(ORF)が中継収録をしており、6月7日に放送されることになっています。

以下、NHKニュースウェブに掲載された記事を引用します。

■名門ウィーン・フィル 3か月ぶり公演再開 コロナ感染者が減少

新型コロナウイルスの新たな感染者が減っているオーストリアでは名門のウィーン・フィルハーモニー管弦楽団がおよそ3か月ぶりとなる公演を行い、音楽の都ウィーンにクラシックの調べが戻ってきました。

ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団は5日、ウィーン中心部にある楽友協会のホールで世界的な指揮者、ダニエル・バレンボイム氏の指揮でモーツァルトのピアノ協奏曲第27番とベートーベンの交響曲第5番「運命」を演奏しました。

公演は新型コロナウイルスの影響でことし3月中旬以降、すべて中止となっていたため、およそ3か月ぶりとなりましたが、観客数は政府の感染予防対策に従い、通常の20分の1以下の100人に限り、座る席の距離もとりました。

公演のあと観客の女性は「感動して泣いてしまった。私にとって、とても特別な夜になりました」と話していました。

また、観客の男性は「公演の感染対策は完璧だったので、怖くはありませんでした」と話していました。

団長でバイオリニストのダニエル・フロシャウアーさんは、「久しぶりに演奏できて気持ちが高ぶりました。これまでどおりの公演に向けた前向きな一歩になった」と話していました。

オーストリアでは新たな感染者が減る中、公演活動の制限が緩和され、8月1日以降、室内イベントは観客数1000人まで認められることになり、ことし100周年を迎えるザルツブルク音楽祭は中止せず、期間を短縮して行われる予定です。

■市民からは歓迎の声

公演再開について市民からは歓迎の声が相次いで聞かれました。

男性は「ウィーン・フィルはわれわれにとって、モーツァルトのような特別な存在です。演奏会が行われることは、すばらしいことですし、今後、オーストリアで公演活動が再開される象徴になると思います」と話していました。

また女性は、「音楽などの芸術活動は、とても重要なことです。みんな待ち望んでいます」と芸術関係のイベントが今後、本格的に開かれることに期待感を示していました。

■178年の歴史持つオーケストラ

ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団はオーストリアのウィーンに19世紀に設立され、178年の歴史を持つ、世界を代表するオーケストラです。

ウィーン伝統の演奏スタイルを重んじ、過去にはグスタフ・マーラーや、ヘルベルト・フォン・カラヤン、そして小澤征爾さんなど時代を代表する指揮者を迎え世界で演奏を披露してきました。

また、新年の恒例となっているニューイヤーコンサートは、日本を含む世界90か国以上で放送され、4000万人以上が視聴するなど世界のファンを魅了しています。

■ベルリン・フィルは公演できず

一方、世界最高峰のオーケストラの一つ、ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団は新型コロナウイルスの影響で、ことし3月から公演ができない状況が続いています。

本拠地のドイツ・ベルリンでは7月31日まで劇場などでのイベントが禁止されているため、ホールは閉鎖されています。

ことし8月以降の公演は予定されているものの、チケットの事前販売は行われておらず、現在は無観客での演奏会の様子がホームページを通じてオンラインで配信されています。

(2020年6月6日 10時28分 配信)

オーストリアの新型コロナ感染状況

6月7日現在のオーストリアにおける新型コロナウイルスの感染状況に触れておきます。

▼米国ジョンズ・ホプキンス大学の「COVID-19 Dashboard」の統計データから引用。オーストリアの新規感染者の推移がこちら。

オーストリア新型コロナ新規感染者数グラフ(ジョンズ・ホプキンス大学)

このグラフによると、3月に入ってから新規感染者数が指数関数的に増え、3月26日には1日に約1300人が感染。これをピークに減少に転じ、4月18日以降は2桁に落ち着いています。

5月に入ってからは大型モールを含む全商店で営業が再開されるなど、経済活動が徐々に許可されるようになっています。

6月7日現在、感染者の累計は16898人、死者数は672人。こうした状況下で今回の演奏会は行われました。

ステージ上は「密」?

▼NHKの映像では、ステージ上は「コロナ前」の配置と変わらないように見えます。

200605 ウィーン・フィル公演再開2

(NHKニュースウェブから引用)

▼僕が書き起こしたステージ図面がこちら。間違っていたらごめんなさい。

200605 ウィーン・フィル配置

弦楽器は14型(第1ヴァイオリン14人、第2ヴァイオリン12人、ヴィオラ10人、チェロ8人、コントラバス6人)、管楽器は2管編成。

コロナ前と変わらない人数(全体で68人ほど)が出演していました。

ウィーン楽友協会のステージはかなり狭いですから、奏者どうしはかなり近い距離で並んでいたことになります。

「ベルリン基準」とは違う道を歩むウィーン・フィル

5月7日にベルリンの音楽関係者と医療関係者が出した「新型コロナウイルス(COVID-19)パンデミック期間中のオーケストラ演奏業務に対する共同声明」は、重要な指針として、日本のオーケストラ業界でも参考にされています。

この声明では、弦楽器は1.5m管楽器は2mの距離を空けることが推奨されています。

これはかなり厳しい基準です。例えばサントリーホールだとステージには30数人しか乗ることができません。そのため、編成の小さな曲を選ぶなどの工夫が必要となります。

今回のウィーン・フィルの公演は、ベルリン基準とは違う道を歩むと宣言したのと同じと考えていいでしょう。

裏付けはエアロゾル実験

今回のステージ配置を決断した大きな裏付けはエアロゾル実験にあるようです。

▼実験は医師監修のもとウィーン・フィルが独自に行ったもので、5月18日付けのウィーン・フィル公式HPに掲載されています。

ウィーン・フィル エアロゾル実験

(ウィーン・フィル公式HPから引用)

実験の結果は以下のようになります。

【エアロゾル実験の結果】

  • 演奏者の呼気は口と鼻の周り最大約50cmの範囲に分布。
  • 弦楽器と管楽器は同じ結果に。
  • 管楽器の開口部からはエアロゾルは出なかった。
  • フルートだけは先端から75センチの距離までエアロゾルが確認された。
  • よって演奏者の呼気は80センチを超えて拡散することはない

(エアロゾルという用語をここで使うのが医学的に正しいか疑問がありますが、元記事のまま使用しました)

本当に「80センチ」でOKだとしたら、世界中のオーケストラにとって大変な朗報です。これまでとほとんど変わらない配置で演奏できるのですから。

ただし、この実験がどのくらい精密な環境や測定機器で行われたかは不明です。やり方によっては、科学的な検証とは認められない可能性もあると思います。

客席は100人以下

▼一方、客席は100人以下という政府からの要請に従っていました。

200605 ウィーン・フィル公演再開4

ウィーン楽友協会 大ホールの収容人数は2800人ほどですから、スカスカの状態です。

ステージ上の密集具合と比較すると、アンバランスな印象はありますよね。

▼また、チケットもぎりは手渡しで行われたようです。

200605 ウィーン・フィル公演再開6(チケットもぎり)

スタッフはフェイスシールドを付けていますが、接触感染には気を使っていないのかも。

日本のイベント主催者は、チケットもぎりやプログラム配布などを手で行わないようにしていますから、ウィーン・フィルの対応を「ゆるい」と感じる人もいるでしょうね。

「出演者全員PCR検査」については疑問

NHKニュースWEBの記事によると、ウィーン・フィルは公演再開にあたり、出演者全員にPCR検査を行ったとあります。

もうひとつウィーン・フィルが取り組んだのは、楽団員の無感染を証明することだった。楽団員には抗体検査を行い、そして公演2日前には出演者全員にPCR検査も行った結果、陰性であることが確認された。

NHKニュースWEBから引用

僕はオーケストラが抗体検査やPCR検査をすることには批判的な立場です。

なぜか。

抗体検査は過去に感染歴があるかが分かるだけで、抗体があることが判明しても免疫があるとは限りません。つまり陽性でも陰性でも、行動が変わるわけではなく、個人や企業が実施しても意味がありません(疫学調査としては意味がある)。

それに検査キットの品質にはバラツキや精度の低さが指摘されていて、そもそも信頼性が低いという問題もあります。

PCR検査には感度(真の感染者を陽性と判定する能力)、特異度(感染していない人を陰性と判定する能力)の限界があり、偽陰性・偽陽性の問題が避けて通れません。

PCR検査は本来、事前確率の高い人に対して実施され、確定診断のために使われるべきものであって、スクリーニングに使うのは無理がある検査です。

もちろん「1~2週間ごとに」など高い頻度で行えば、ある程度感染者を捕まえることはできるかもしれません。

しかしそのためには、高額な検査費用を支払い続けるための財源が必要になり、その国の検査体制に余裕があることが条件となります。

ウィーン・フィルが高頻度で(公演ごとになど)検査を行うだけの財源を確保していて、ワクチンが開発されるまでの長期にわたってPCR検査を実施し続ける覚悟ならいいのですが…

もし1回限りのことならば、単なるパフォーマンスと考えた方がいいと思います。

世界をリードする楽団がこうしたパフォーマンスを行ったことが、悪しき前例とならないことを願うばかりです。

▼恐れていたことが… 東京シティ・フィルが6月26日に予定していた公演再開を、自ら行った抗体検査・PCR検査によって潰しました。最悪なことをしてくれました。

新型コロナ抗体検査東京シティ・フィルが新型コロナの「抗体検査」を実施したことは正しかったのか?

▼さらに7月には大阪交響楽団が楽団員と事務局全員にPCR検査を実施。業界の足を引っ張る愚かな判断だったと僕は思います。

大阪交響楽団 PCR検査大阪交響楽団が楽団員・スタッフ全員にPCR検査… なぜ彼らは「まやかしの安心」を求めるのか?

様々な取り組みが明日につながる

僕は今回のニュースを少し複雑な心境で見ていました。

ステージ上の密集はやはり心配です。もし楽団員にクラスター感染が発生したら「オーケストラは危険だ」と見られてしまうでしょう。

ただ、ウィーン・フィルという世界トップの名門が勇気をもって取り組んでくれたことには、素直に拍手を送りたいです。

80センチの距離でクラスター感染が起こらないことが実証されれば、世界中のオーケストラ再開が一気に早まると思います。

次の公演はフランツ・ウェルザー・メストの指揮で6月下旬(6月21日にORFで放送)。彼らの挑戦に注目していきましょう。

新型コロナと音楽に関する記事

2020年2月ごろから世界中のオーケストラから公演の機会を奪った新型コロナウイルス。5月以降、徐々に再開される動きを追いました。

▼5月1日に行われたベルリン・フィルの無観客ライブ配信では、最大15人という小規模の編成で演奏されました。

ベルリン・フィル 2020年5月1日【演奏会の感想】ペトレンコ指揮 ベルリン・フィル コロナ禍での無観客ライブ配信(2020年5月1日)

▼6月2日に行われたロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団の無観客ライブ配信では、演奏者どうしの距離は175センチでした。

200602 ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団22020年6月2日 コンセルトヘボウ管 無観客ライブ配信 奏者どうしの距離は「175センチ」

▼6月10日に行われた日本フィルハーモニー交響楽団の3ヶ月ぶりの公演は、無観客の有料ライブ配信で行われました。

2020年6月10日 日本フィル 無観客で有料ライブ配信 2メートルの距離で弦楽合奏

▼6月20日に日本センチリー交響楽団が、全国に先駆けてフルオーケストラでの客入れ公演を再開しました。

2020年6月20日 日本センチュリー交響楽団72020年6月20日 日本センチュリー交響楽団 新型コロナ後、フルオーケストラで全国最初の公演再開

▼東京シティ・フィルは6月26日に予定していた公演を急遽「無観客ライブ配信」に変更。その理由は「抗体検査」でした。

新型コロナ抗体検査東京シティ・フィルが新型コロナの「抗体検査」を実施したことは正しかったのか?

▼7月に大阪交響楽団が楽団員と事務局全員に「PCR検査」を実施。業界の足を引っ張る愚かな判断だったと僕は思います。

大阪交響楽団 PCR検査大阪交響楽団が楽団員・スタッフ全員にPCR検査… なぜ彼らは「まやかしの安心」を求めるのか?

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です