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【演奏会の感想】大阪交響楽団 第220回定期 川瀬賢太郎指揮「ばらの騎士」(2018年7月 ザ・シンフォニーホール)

大阪交響楽団第220回定期パンフレット

こんにちは。そなてぃねです。

大阪に単身赴任して、関西のオーケストラの演奏会を聴きに行くようになりました。

関西には6つのプロ・オーケストラがあります。

【関西の6つのプロ・オーケストラ】

  • 大阪フィルハーモニー交響楽団
  • 大阪交響楽団
  • 京都市交響楽団
  • 日本センチュリー交響楽団
  • 関西フィルハーモニー管弦楽団
  • 兵庫芸術文化センター管弦楽団

今回は大阪交響楽団の演奏会を聴きに行ってきました。演目は「ばらの騎士」。

男女の心のうつろい、若さと老い、あきらめと受容…

そんな人生の機微を、夢のような美しい響きで描いたオペラ「ばらの騎士」。リヒャルト・シュトラウスのきらびやかなオーケストレーションと、極上の声のアンサンブルに酔いしれることができる名作です。

大阪交響楽団と若きマエストロ川瀬賢太郎さんが、素晴らしい演奏を聴かせてくれました。

演奏会の概要

【大阪交響楽団 第220回定期演奏会】

  1. モーツァルト作曲
    交響曲 ニ長調 K.320
    (セレナード第9番『ポストホルン』の交響曲稿)
  2. リヒャルト・シュトラウス作曲
    楽劇「ばらの騎士」から 抜粋

 

元帥夫人 木澤佐江子(ソプラノ)
オクタヴィアン 上村智恵(ソプラノ)
ゾフィー 北野加織(ソプラノ)
ファーニナル 黒田まさき(バリトン)

 

指 揮  川瀬賢太郎
管弦楽 大阪交響楽団

 

2018年7月20日(金)
ザ・シンフォニーホール

 

そなてぃね感激度 ★★★☆☆

大阪交響楽団とは

大阪交響楽団は1980年に発足。50人規模の比較的小さなオーケストラでした。

発足当時の名称は大阪シンフォニカーで、2010年に今の名称に変わりました。もうすぐ創立40年になります。

今回が第220回ということなので、年に5~6回のペースで定期演奏会を行っているようです。定期演奏会以外にも名曲コンサートやオペラでの演奏など、1年を通じてかなりの回数の公演を行っているようです。

▼大阪シンフォニカー時代の録音。持ち前の機動力のあるアンサンブルを聴くことができます。

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指揮者は若手のホープ川瀬賢太郎

今回僕が注目していたのは、指揮者の川瀬賢太郎(かわせ・けんたろう)さんでした。

川瀬さんは1984年生まれですから、現在34歳。若手のホープです。

現在、名古屋フィルハーモニー交響楽団の指揮者と、神奈川フィルハーモニー管弦楽団の常任指揮者を務めながら、様々なオーケストラから招きを受けて活躍しています。

僕は東京にいるときに何度か彼の指揮する演奏会を聴く機会がありました。

そのとき抱いた印象は、まず若さあふれる躍動感。天空に向かってまっすぐに伸び上がっていくような健康的な音が出てきます。これは彼の師匠である広上淳一(ひろかみ・じゅんいち)さんゆずりだなぁと思ったものです。

今回、1曲目に演奏されたモーツァルトでも、その特徴がよく表れていました。聴いていて本当に気持ちいいんですよね。

川瀬さんを見ていて、もうひとつ強く感じたのは「やんちゃ」。まるで少年のように「オレはこれがやりたい!」という意欲が指揮姿からあふれていて、いたずらっ子のような表情も見せながら、オーケストラのメンバーと一緒に夢中になって遊んでいるような、そんな印象を抱きました。

カーテンコールでの楽団員の表情を見ていると、川瀬さんがとても愛されていることが伝わってきます。多くの楽団員は川瀬さんより年上だと思いますが、かわいい弟を見るような眼差しを感じました。

今回の公演でも、大阪交響楽団と川瀬さんの相性は本当によかった。一体となって夢のように美しい「ばらの騎士」の世界を作り出していました。

「ばらの騎士」を抜粋で聴く

僕はリヒャルト・シュトラウス(1864~1949)の歌劇「ばらの騎士」が大好きです。

「サロメ」「エレクトラ」といった前衛的で複雑な音楽を書いたシュトラウスが、時代のネジを巻き戻すかのようにモーツァルト的な音楽に立ち戻って作曲したのが「ばらの騎士」です。

モーツァルト的といっても、随所にシュトラウスならではの魔法のような響きが散りばめられ、聴くものをまばゆいウィーン貴族の世界に誘います。

指揮者の川瀬さんはプログラム・ノートに、長年もっとも指揮したかった作品は「ばらの騎士」だったと、この作品への並々ならぬ愛を語っています。

このオペラの内容についてここで語るなんてことはしないが、こんなに美しい「Yes」が出てくるオペラは、ばらの騎士の元帥夫人が言う、Ja Ja とフィガロの結婚で伯爵夫人が言う e dico di si しか僕は知らない。

川瀬さんが言う「Ja Ja」という台詞が出てくるのは、オペラの最後の場面。若い愛人オクタヴィアンが年下の娘ゾフィーに恋していることを悟った元帥夫人が、身を引くときに発する言葉です。

若さへの羨望、未練、嫉妬といった様々な思いを胸に秘めながら、すべてを受け入れる愛の深さ。あきらめと、前を向く凛とした美しさ。それがこの「Ja Ja」には込められているのです。

あえて日本語で表現するとしたら「これでよかったのよ」といった感じでしょうか。

川瀬さんは、登場人物たちのこうした複雑に揺れ動く心情を、実に丁寧に描き出していました。

それにしても、普通に上演したら3時間半もかかる長大なオペラを、約80分に抜粋する作業は、大変な苦労があったことでしょう。その苦労の甲斐あって、非常に分かりやすい形に再構成されていました。

重要人物であるオックス男爵を思い切って完全に削除したことがよかったのだと思います。元帥夫人、オクタヴィアン、ゾフィーの3人にフォーカスすることで、心情をよりクリアに描くことに成功していました

演奏面での欲を言えば、もっと目も眩むようなめくるめく官能美を感じたかったという気持ちもありました。僕の中には、かつて映像で見たカルロス・クライバーが指揮するウィーン国立歌劇場の伝説的な演奏や、ドレスデン国立歌劇場の来日公演を見に行った記憶が強く残っていたので…

でもさすがにそういった演奏と比べるのはフェアじゃないですよね。

今回の演奏では、川瀬さんが繊細に紡ぎ出した夢のように美しい世界に酔いしれることができました。

初めて聴いた大阪交響楽団の演奏は非常に質が高かったです。細部までアンサンブルが磨かれていて、管楽器のソロも素晴らしかったです。

3人の歌手も丁寧な歌唱が光っていました。オーケストラがピットではなく舞台上にいるため、音圧に負けるところがあったり、本来メゾソプラノが歌うオクタヴィアン役がソプラノ歌手だったため、声量的にちょっと厳しかったりと、気になる点もありましたが、繊細な表現で見事に歌っておられました。

ラストで歌われる三重唱では、川瀬さん、大阪交響楽団、3人の歌手のすべての思いが折り重なり、あまりの美しさに思わず涙が出てしまいました。

▼僕が愛してやまない「ばらの騎士」のDVD。カルロス・クライバー指揮/ウィーン国立歌劇場の伝説的な名盤です。第3幕のクライマックスでは、舞台上だけでなくピットで指揮するクライバーの姿も映し出されています。

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▼そしてもうひとつ。「ばらの騎士」を初演したドレスデン国立歌劇場が2007年に来日したときの映像記録です。NHKが収録してヨーロッパで発売されたレアもの。オーケストラが極上なのはもちろん、ファビオ・ルイージの指揮も歌手陣も素晴らしい。

作品への愛は必ず伝わる

僕は指揮の川瀬賢太郎さんに最大のブラボーを送りたい。

彼の「ばらの騎士」への強い愛情が、オーケストラのメンバーに伝播し、歌手たちから最高の表現を引き出したのだと思います。

カーテンコールで指揮者を称える楽団員たちの表情には「この若きマエストロと演奏できて本当に幸せだ!」と書いてあるようでした。

あとがき

「ばらの騎士」はオペラで全幕見ようと思うと、なかなかチャンスがありません。あったとしてもチケットが高くて気軽に行けるものではありません。

そういう意味で、今回のように地元のオーケストラが抜粋で上質な演奏をしてくれるというのは、とても意義のあることだと思いました。生演奏で「ばらの騎士」のエッセンスに触れることのできる貴重な機会を作ってくれた大阪交響楽団に感謝です。

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