こんにちは。そなてぃねです。
2020年6月10日に、日本フィルハーモニー交響楽団が有料ライブ配信を行いました。
21人の弦楽合奏で、奏者どうしの距離は2メートル。
無観客かつ小規模編成ではありましたが、今後オーケストラが公演を再開していくための、日本における最初の一歩になりました。
演奏会の概要
【日本フィル&サントリーホール
とっておき アフタヌーン オンラインスペシャル】
〈管弦楽〉
日本フィルハーモニー交響楽団
〈ヴァイオリン〉
田野倉雅秋
〈指揮〉
広上淳一
〈司会〉
高坂はる香(音楽ライター)
- グリーグ作曲
組曲「ホルベアの時代より」作品40 より 第1曲「前奏曲」 - エルガー作曲
「愛の挨拶」作品12 - ドヴォルザーク作曲
ユーモレスク 変ト長調 作品101-7 - チャイコフスキー作曲
弦楽のためのセレナード ハ長調 作品48 - シベリウス作曲
祝祭アンダンテ
2020年6月10日(水) 14:00~
サントリーホール
無観客 有料ライブ配信
前日リハーサルを報じたNHKニュース
演奏会の前日、6月9日に行われたリハーサルを取材したNHKニュースウェブの記事を引用しておきます。
東京のオーケストラ 無観客でライブ配信
新型コロナウイルスの感染拡大の影響で音楽の公演が中止や延期に追い込まれる中、東京のオーケストラがホールと共同で無観客でのライブ配信を行うことになり、9日、演奏者どうしの距離を確認しながらリハーサルを行いました。
東京を拠点に活動している日本フィルハーモニー交響楽団は、2月末に演奏活動を取りやめ、8月までに1年間の半数近くにのぼるおよそ70公演が中止や延期となり、今後の損失も含め、4億円の赤字が見込まれるということです。
厳しい経営状況の中、再開の方法を模索した結果、東京 赤坂にあるサントリーホールと共同で、観客を入れずに有料のライブ配信を行うことになり、9日、およそ3か月ぶりに楽団員が集まってリハーサルに臨みました。
今回のライブ配信ではステージ上の「3密」を避けようと、「ソーシャルディスタンス・アンサンブル」と名付けられたヴァイオリンやチェロなどの弦楽器のみで演奏が行われます。
楽団員は、再会を喜び合ったあと楽器を手にステージに上がり、演奏者や指揮者との距離を2メートル確保しても問題なく演奏できるかどうか確認していました。
チェロ奏者の菊地知也さんは、「リハーサル前はどうなるんだろうと心配していましたが、問題なく本番に臨めそうです。本当はフルオーケストラで演奏できるのがいちばんですが、やっぱり音楽家なので、演奏できるだけでもうれしいと感じます」と話していました。
また、サントリーホールの折井雅子総支配人は、「感染対策と公演の再開を両立していくために、今回の公演を演奏者の皆さんと一緒に考えいく一歩としたい」と話しました。
このライブ配信は、10日午後2時から午後3時まで行われます。
(2020年6月9日 22時33分 配信)
ライブ配信で伝わってきたこと
ライブ配信は平日の14時… この時間設定は、サラリーマンにはちょっと厳しいもですよね。
僕はこの時間は会社にいましたが、仕事が音楽系なので「取材」と称して自分のデスクで視聴しました。でも普通の人はちょっと難しいでしょうね。
アーカイブで後から見ることもできますが(翌日14時まで視聴可能)、やはりオンタイムで視聴することに意味があるように感じました。
場所は離れていても、今この瞬間に、あのステージで彼らは演奏しているのだ…
この「誰かと音楽を共有している感じ」がライブ配信の肝のような気がします。
もちろん、会場に足を運んで得られる感動とは比べることはできないけれど、同じ時間をともに過ごす感覚には通じるものがありました。
「2メートル」という距離感
今回は弦楽器のみの編成で、第1ヴァイオリン6人、第2ヴァイオリン6人、ヴィオラ4人、チェロ3人、コントラバス2人の計21人。
彼らは前後左右に2メートルの距離を確保する形で並びました。
2メートルというのは、かなりとんでもない距離です。
慎重なベルリンの声明でも「管楽器2メートル、弦楽器1.5メートル」ですし、6月2日に行われたロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団は「1.75メートル」を採用。6月5日のウィーン・フィルに至っては「普通の配置」でした。
こうした海外の例に比べても、「弦楽器で2メートル」はやりすぎです。
でも、緊急事態宣言が解除された後の日本で、最初のオーケストラ・コンサートということで、慎重を期して、大きすぎるくらいのセーフティー・マージンをとったのでしょう。
今後、様々な実証実験が行われて、楽器ごとの「安全な距離」がクリアになり、もう少し「密」な配置もできるようになるといいですね。
▼NHKのニュースでも紹介されていましたが、ステージマネージャーさんは専用の棒を使って2メートルを測っていました。
リハーサル前の舞台セッティング中の図。斜めに置かれている棒のようなもの見えますか…?
そう、これがソーシャルディスタンスを測る棒(特製)。 pic.twitter.com/29ywpT3TVJ— 日本フィルハーモニー交響楽団 (@Japanphil) June 9, 2020
やっぱり音楽っていいですね…
メインプログラムとして演奏されたチャイコフスキーの弦楽セレナードは、僕の思い出の曲です。
高校時代に弦楽合奏部でチェロを弾いていたとき、定期演奏会でこの曲を演奏したことがあるのです。
あの甘美なメロディを聴くと、思春期のほろ苦い思い出が蘇ってきて、胸がキュッと締め付けられます。
高校3年生だった1992年に、小澤征爾が指揮するサイトウ・キネン・オーケストラが松本で最初のフェスティバルを行い、その記念すべき公演で演奏されたのが、やはりこの曲でした。
NHKで放送されたコンサート映像を、僕はVHSのテープが擦り切れるほど繰り返し見たものです。
今日久しぶりにライブで聴いて、30年近くも前のことを思い出したのでした。
演奏後、指揮の広上淳一さんが言いました。
「やっぱり音楽っていいです。素朴にそう思います」
理屈抜きに、ほんと、その通りですよね。
いよいよ動き出す日本のオーケストラ
今日のライブ配信を皮切りに、日本各地のオーケストラが動きはじめます。
6月13日には京都フィルハーモニー室内合奏団が、最初の客入れ公演を行います。京都府からの要請で、集客は100人まで。演奏者10人ほどの室内アンサンブルなので、フルオーケストラとは言えませんが、これも大きな一歩と言えるでしょう。
そして、フルオーケストラとして最初の客入れ公演となるのが、6月20日の日本センチュリー交響楽団です。ハイドンの交響曲を3曲。おそらく30人規模の編成となるでしょう。集客も1000人以下と基準が緩むので、何人が来場するのか注目されるところです。
6月21日には東京フィルが続きます。指揮のプレトニョフは来日できず、渡邊一正に変更して開催されることが、先日正式に発表されました。
その後は、26日に大阪フィル、27日に関西フィル… という具合に全国のオーケストラが観客を入れての公演を実施していきます。
まだ、マーラーなどの大編成の作品、第9などの合唱を伴う作品は、演奏できるメドが立ちませんが、1日も早くもとに近い形でオーケストラが公演できる日が戻ってくることを願うばかりです。
新型コロナと音楽に関する記事
2020年2月ごろから世界中のオーケストラから公演の機会を奪った新型コロナウイルス。5月以降、徐々に再開される動きを追いました。
▼5月1日に行われたベルリン・フィルの無観客ライブ配信では、最大15人という小規模の編成で演奏されました。
【演奏会の感想】ペトレンコ指揮 ベルリン・フィル コロナ禍での無観客ライブ配信(2020年5月1日)▼6月2日に行われたロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団の無観客ライブ配信では、演奏者どうしの距離は175センチでした。
2020年6月2日 コンセルトヘボウ管 無観客ライブ配信 奏者どうしの距離は「175センチ」▼6月5日に行われたウィーン・フィルの3ヶ月ぶりの公演再開では、ほぼ通常の配置で演奏されました。
2020年6月5日 ウィーン・フィル 新型コロナのロックダウン後 3ヶ月ぶりに公演再開▼6月20日に日本センチリー交響楽団が、全国に先駆けてフルオーケストラでの客入れ公演を再開しました。
2020年6月20日 日本センチュリー交響楽団 新型コロナ後、フルオーケストラで全国最初の公演再開▼東京シティ・フィルは6月26日に予定していた公演を急遽「無観客ライブ配信」に変更。その理由は「抗体検査」でした。
東京シティ・フィルが新型コロナの「抗体検査」を実施したことは正しかったのか?▼7月に大阪交響楽団が楽団員と事務局全員に「PCR検査」を実施。業界の足を引っ張る愚かな判断だったと僕は思います。
大阪交響楽団が楽団員・スタッフ全員にPCR検査… なぜ彼らは「まやかしの安心」を求めるのか?