こんにちは。そなてぃねです。
毎年1月3日に「NHKニューイヤーオペラコンサート」を見るのが、年始の恒例行事となっています。
NHKホールでの公演チケットが手に入れば聴きに行き、行けないときはEテレの生放送を見るのです。
2020年はホールで鑑賞することができました。新年にふさわしい豪華な内容で、とても満足。
翌日には録画した放送を見直して、二度楽しませてもらいました。
この記事では、第63回NHKニューイヤーオペラコンサート2020の感想をお伝えします。
演奏会の概要
【第63回NHKニューイヤーオペラコンサート2020】
〔ソプラノ〕
大村博美
砂川涼子
田崎尚美
中村恵理
森麻季
森谷真理
〔メゾ・ソプラノ〕
中島郁子
林美智子
〔テノール〕
笛田博昭
福井敬
宮里直樹
村上敏明
〔バリトン〕
青山貴
大西宇宙
大沼徹
上江隼人
〔バス〕
妻屋秀和
〔合唱〕
新国立劇場合唱団
二期会合唱団
びわ湖ホール声楽アンサンブル
藤原歌劇団合唱部
〔ハープ〕
グザヴィエ・ド・メストレ
〔指揮〕
アンドレア・バッティストーニ
〔管弦楽〕
東京フィルハーモニー交響楽団
〔司会〕
高橋克典
高橋美鈴アナウンサー
2020年1月3日(金)19:00~
NHKホール(東京)
そなてぃね感激度 ★★★★★
大満足の華やかなステージ
今回のコンサートは、これまでに僕が見てきた中でも屈指の、素晴らしい内容でした。
指揮者バッティストーニの威力
全体の音楽的なレベルを高めた最大の功労者は、何と言っても指揮者のアンドレア・バッティストーニです。
バッティストーニは、1987年イタリア・ヴェローナ生まれ。32歳の若手(2020年1月現在)ですが、24歳でミラノ・スカラ座にデビューするなど世界の第一線で実績を積んでいます。
2016年10月に東京フィル首席指揮者に就任。3シーズンをともにしており、その信頼関係が今回の演奏にもはっきり表れていました。
「東京フィルってこんなに凄いオケだっけ!」と、度肝を抜かれました。表現の彫りの深さも、音そのものの迫力も、ここ数年で最高の演奏でした。
彼の魅力は、ささやくような繊細な弱音から、ステージが燃え上がるような劇的な感情の爆発までを堪能させてくれる、圧倒的な表現の大きさ。「これぞオペラ指揮者!」という資質に溢れています。
たった一振りで会場の空気を一変させる棒さばきは、見ているだけで音楽的です。
今回のステージでは、その指揮姿を堪能することができました。
オンステージのオーケストラが最高だった
NHKニューイヤーオペラコンサートでは、オーケストラがピットに入る年と、オンステージの年があります。
2020年はオンステージ。これが大正解! バッティストーニの指揮姿と、例年以上に熱気あふれる東京フィルの勇姿を見ることができて、観客もテレビの視聴者も大満足だったのではないでしょうか。
無駄のないシンプルな演出
NHK制作陣による演出は、どのシーンも無駄がなくシンプルで、音楽そのものに集中することができました。
オーケストラがオンステージで、アクティングエリアが限られていることもあったでしょうが、ガラ・コンサートとしては十分に満足できるものでした。
演出過多にならず、演奏者のよさを最大限に出そうとする姿勢は、非常に好感の持てるものだと感じました。
舞台美術も非常に美しく、照明も作品ごとに実にセンスのいいシーンを作り出していました。
クラシック音楽の番組では世界でも屈指の制作能力を持つNHKが、まさに総力を挙げて作り上げた舞台。とても豊かな時間を与えてくれました。
司会者の二人にも好感
司会は、俳優の高橋克典さんと、アナウンサーの高橋美鈴さん。
超硬派な演技が魅力の高橋克典さんですが、3年前からNHK「らららクラシック」の司会も務めています。
NHKニューイヤーオペラコンサートの司会は、去年に続いて2回目。生放送のステージ司会に少し慣れてきたようで、今年は去年より自然体で好感が持てました。
そして、高橋美鈴アナウンサーの美しい佇まい。たおやかで、細やかな心遣いに満ちていました。彼女は日本アナウンス界の至宝だと僕は思っています。
選びぬかれた17人の歌手たち
このコンサートに出演できる歌手は、毎年20人ほど。この人選は非常に難しいものだと思います。
日本人の声楽家は、海外で活躍する人も含めると数多くいますから、その中から絞り込むのは、見識の問われる仕事です。
今回登場したソリストは17人。初登場の歌手を数人抜擢しつつ、第一級のベテランを揃えた、納得のラインナップだと感じました。
ここからは、プログラム順に短い感想を綴っていきます。
歌劇「ナブッコ」~「行け、わが思いよ、金色の翼に乗って」(ヴェルディ作曲)
コンサートのオープニングを飾る合唱曲。華やかな「アイーダ」などで開幕する年が多いですが、今回は静かで落ち着いたスタートとなりました。
▼舞台美術は、古代の円形舞台を思わせる巨大なセットで、その中にすっぽりと東京フィルが収まった格好。
▼合唱(ざっと数えたところ80人近く)は、立体的に整列してステージ全体を埋め尽くしていました。
▼曲中、17人のソリストが次々に登場。聴衆の華やいだ気分を高めてくれます。実に美しいステージングでした。
歌劇「セビリアの理髪師」~「私は町の何でも屋」(ロッシーニ作曲)
ソリストの一人目は、バリトンの大沼徹(おおぬま・とおる)さん。
まっすぐな発声とクリアな滑舌で、楽しいフィガロを聴かせてくれました。
大沼さんの魅力は、チャーミングなキャラクター。茶目っ気のある少年のようなキラキラした瞳は、演技で出せるものではありません。
▼「フィガロ、フィガロ、フィガロ…」と数を数える場面では、指揮者バッティストーニとの絡みも。オケがオンステージである利点が生かされた小粋な演出で、楽しかったです。
歌劇「椿姫」~「ああ、そはかの人か~花から花へ」(ヴェルディ作曲)
ソプラノの森谷真理(もりや・まり)さんによるヴィオレッタ。
森谷さんと言えば、2019年11月9日に行われた「天皇陛下御即位を祝う国民祭典」で「君が代」を独唱した方です。
もう本当に、文句なしにうまい! 2006年に、レヴァイン指揮「魔笛」で夜の女王役に抜擢、鮮烈なメトロポリタン歌劇場デビューという経歴の持ち主。技術的にできないことはないのではないかと思えるほど、声のコントロール力は際立っています。
でも今回の歌は、ちょっと技術に溺れているようにも感じられました。不必要なほど声を伸ばしたりして、音楽のフォルムを崩していました。
森谷さんほどの技術は稀有なので、今後は音楽的な深みを期待したいです。
歌劇「蝶々夫人」~花の二重唱「桜の枝をゆすぶって」(プッチーニ作曲)
蝶々夫人をソプラノの砂川涼子(すなかわ・りょうこ)さんが、スズキをメゾ・ソプラノの中島郁子(なかじま・いくこ)さんが歌いました。
砂川さんは本来もう少し軽い声なので、蝶々夫人はちょっと重すぎるのではないかと危惧しましたが、年齢とともに成熟した声が、この曲では生かされていました。
永遠の少女とも言える砂川さんの可憐な容姿は、若い芸妓(年齢設定はたしか15歳くらい)を演じても違和感がなく、素敵でした。
中島郁子さんは、NHKニューイヤーオペラコンサート初登場。ふくよかな声で、砂川さんと見事なハーモニーを奏でていました。
▼ステージセンターに花台を置いただけのシンプルな演出も、ガラ・コンサートにふさわしく、ちょうどいい感じでした。
歌劇「ドン・カルロ」~友情の二重唱「われらの胸に友情を」(ヴェルディ作曲)
ドン・カルロをテノールの宮里直樹(みやさと・なおき)さんが、ロドリーゴをバリトンの大西宇宙(おおにし・たかおき)さんが演じました。
宮里さんもNHKニューイヤーオペラコンサート初登場。愛嬌のある容貌と、明るく輝かしい声の持ち主。少し音程が上ずって気になるところもありましたが、将来有望な歌手です。
大西さんは去年も同じ歌を歌いました(テノールは村上敏明さん)。柔らかくしなやかなバリトンで、ギアを上げたときの強靭な声には、底しれぬポテンシャルを感じます。
昨夏のセイジ・オザワ松本フェスティバル(旧サイトウ・キネン・フェスティバル)で、「エフゲニー・オネーギン」のタイトルロールを急な代役で務めて一躍話題になりました。
二人とも、今後のますますの活躍を期待したいです。
▼曲中で登場する男声合唱の整然とした動きも見事。ステージ前方のソリストと、中央を埋めるオーケストラ、そして後方のセット上に並ぶ合唱団が一体となって、壮大で立体的な画面を作り出していました。
歌劇「ルサルカ」~「月に寄せる歌」(ドボルザーク作曲)
ソプラノの田崎尚美(たさき・なおみ)さんも、NHKニューイヤーオペラコンサート初登場。2017年に日生劇場で「ルサルカ」のタイトルロールを務めています。
「月に寄せる歌」は、水の精が夜空の月を見上げながら紡ぎ出す恋の歌。
田崎さんは、母性を感じさせる神々しい声で叙情的に歌い上げ、思わず涙腺が緩みました。
▼月光が注ぎ込む神秘的な照明も秀逸でした。
歌劇「タンホイザー」~夕星の歌「優しい夕べの星よ」(ワーグナー作曲)
バリトンの青山貴(あおやま・たかし)さんの演奏。タンホイザーの親友ヴォルフラムが第3幕で歌う、悲しくも美しい夕星の歌。
青山さんは、白くふっくらとした癒やし系ゆるキャラのような容貌そのままの、包容力のある滋味あふれる歌を聴かせてくれました。
歌劇「カヴァレリア・ルスティカーナ」~復活祭の合唱「主はよみがえられた」(マスカーニ作曲)
合唱団が再び登場。それまで後方のセット上に並んでいた合唱団の一部が、オーケストラの前方に配置されます。
美しい合唱のハーモニーが奏でられた後、天上から降り注ぐようなオルガンが聴こえると、前方の合唱がふたつに分かれて、メゾ・ソプラノの中島郁子さんが現れます。
「カヴァレリア・ルスティカーナ」と言えば「間奏曲」が有名ですが、復活祭の合唱では、あの感動的な祈りの旋律が合唱とソロで奏でられ、胸を打ちます。
歌劇「トゥーランドット」~第1幕フィナーレ(プッチーニ作曲)
▼リューのアリア「お聞きください」を歌ったのはソプラノの大村博美(おおむら・ひろみ)さん。
厚みのある重い声は、情感あふれる演技も相まって、聴き手の魂に訴えかけてきます。
▼続いて、カラフ役のテノール笛田博昭(ふえだ・ひろあき)さんが「泣くなリュー」を披露。上背のある堂々たる体躯から、スケールの大きな声が響きます。
昨年、大阪のいずみホールで彼のリサイタルを聴いたとき、800席のいずみホールでは飽和してしまうほどの声量に圧倒されました。今回は3000席のNHKホールに響く朗々とした歌声を堪能できました。
豊かな声量とともに、艶のある声質も魅力。これで常に安定したパフォーマンスができれば、間違いなく日本テノール界を牽引していく逸材となるでしょう。
▼笛田さんと同時に登場したのは、ティムール役のバス妻屋秀和(つまや・ひでかず)さんと、3人の大臣ピンポンパン役の大沼徹さん、村上敏明さん、宮里直樹さん。
▼彼らの織りなすアンサンブルと、東京フィルと大合唱を、バッティストーニの炎のような指揮が燃え上がらせます。
▼ドラが3発打ち鳴らされると、ステージ全体が白い光に包まれて、壮大なクライマックスが…!
僕はもう全身が震えました…!凄まじい演奏。これを聴けただけでも、このコンサートを聴きに来た甲斐がありました。
ハープ奏者グザヴィエ・ド・メストレさんのコーナー
前半が終わり、グザヴィエ・ド・メストレさんが登場。若くしてウィーンフィルで活躍した、世界トップクラスのハープ奏者です。
180センチを超える長身、均整の取れた筋肉質な肉体、彫りの深いハンサムな顔立ち… まさにハープ界の貴公子です。
最初に演奏された、ゴドフロア作曲「ベニスの謝肉祭」は、ハープの魅力が詰まった変奏曲。キラキラとした音色の美しいこと!うっとりと聴き惚れました。
▼ソロを堪能した後は、メゾ・ソプラノの林美智子(はやし・みちこ)さんとの共演でマスカーニ作曲「アヴェ・マリア」、さらにソプラノの森麻季(もり・まき)さんが加わってオッフェンバック作曲の歌劇「ホフマン物語」から「舟歌」が披露されました。
ハープと歌の共演を聴くのは初めてでしたが、素敵でした。
林美智子さんのおおらかで明るいキャラクターには、いつも元気をいただきます。
ただ、ちょっとおおらかすぎて大味な印象も。もう少しヴィブラートを抑えて、音楽の輪郭がすっきりと聴こえた方がいいと感じました。
歌劇「リゴレット」~「悪魔め、鬼め」(ヴェルディ作曲)
バリトンの上江隼人(かみえ・はやと)さんの登場。鬼気迫る前半から、滋味あふれる後半へと、難しいアリアを立派に表現していて、聴き応えがありました。
▼この曲ではドライアイスが使われました。ステージ上を雲海のような白煙が立ち込め、客席への階段を滝のように流れ落ちます。そこに赤い照明が当たって、印象的なシーンを作り上げていました。
おそらく全体を通じて特殊効果が使われたのは、この曲だけでした。こうした演出は、ワンポイントで使うからこそ効果的なのだということが、よく分かりました。
歌劇「シモン・ボッカネグラ」~「悲しい胸の思いは」(ヴェルディ作曲)
バスの妻屋秀和(つまや・ひでかず)さんの、素晴らしい低音。フィエスコという役の複雑な心理を、悲しみをたたえた深い声で見事に描き出しました。
日本人の本格的なバスは、貴重な存在。NHKニューイヤーオペラコンサートには10回連続の出場で、まさに余人を持って代えがたい人材と言えます。
▼185センチを超えると思われるガッチリとした体格と、ちょっと怖そうな顔立ちも唯一無二の魅力。ステージが小さく感じるほど、その存在感は大きく感じられます。これから年を重ねていく妻屋さんが楽しみです。
▼女声合唱が持っていたろうそくも、厳粛な曲調を引き立てていました。
歌劇「オテロ」~「アヴェ・マリア」(ヴェルディ作曲)
先ほどのリューに続き、再び大村博美さんの登場。夫に殺されることを予感したデズデーモナの、最後の祈りの音楽です。
一筋の望みが消えてゆくような繊細なラストでは、オーケストラも極上のピアニッシモを奏で、忘れがたい印象を残しました。
歌劇「運命の力」~「神よ、平和を与えたまえ」(ヴェルディ作曲)
ソプラノの中村恵理(なかむら・えり)さんによるレオノーラ。僕の中では、今回のコンサートのMVPは、迷いなく彼女でした。
中村さんの歌声には鉄の意志が宿っていて、それが聴き手の心を一直線に射抜きます。
一つ一つのフレーズに魂が漲り、一瞬も緩むことがありません。
細部まで精緻に彫琢された表現は圧巻で、ラストはまさに絶唱…!僕は完全に魂を抜かれてしまい、しばらく拍手もできませんでした。
2009年に英国ロイヤル・オペラでアンナ・ネトレプコの代役を務めて注目され、2010年にはバイエルン国立歌劇場とソリスト専属契約。2016年にはウィーン国立歌劇場にデビューと、もの凄い経歴を重ねています。
今回、ライブで中村さんの歌唱を体感して、ワールドクラスの実力に圧倒されました。これからの、ますますの活躍に期待したいです。
歌劇「ウェルテル」~ オシアンの歌「春風よ、なぜ私を目ざますのか」(マスネ作曲)
先ほどの「トゥーランドット」カラフ役に続き、再びテノールの笛田博昭さんが登場。
孤独と絶望の極みのようなオシアンの歌を、朗々と歌い上げました。
本当にいい声だなぁ… 喉ではなく体全体が会場の空間と一体となって豊かに響く。こういう鳴らし方ができるテノールは、なかなかいません。
ただ、この手のテノールは繊細で、もろく崩れやすいもの。安定せず、若くして輝きを失ってしまうケースもあります。
笛田さんには、この素晴らしい楽器を大切に育ててもらいたいです。
歌劇「ファウスト」~「宝石の歌」(グノー作曲)
「蝶々夫人」花の二重唱に続き、砂川涼子さんが再登場。
僕はもうかれこれ10年以上、ずっと砂川さんの大ファンです。初めて舞台を見たのは、藤原歌劇団の「ボエーム」でした。
隅々まで丁寧に磨かれた誠実な歌い方が、僕の好みに合っているのだと思います。正統派であると同時に、一声聴けば「砂川さんだ」と分かる個性的な声。
そして、いつまでも変わらない少女のような可憐な立ち姿にも魅了されます。
今回の「宝石の歌」には、そんな砂川さんの魅力が溢れていました。宝石箱を開けたマルガレーテの浮き立つ心が、実に自然に表現されていました。
▼宝石箱をひっくり返したような、色彩感豊かな照明演出もよかったです。
歌劇「愛の妙薬」~「人知れぬ涙」(ドニゼッティ作曲)
テノールの村上敏明(むらかみ・としあき)さんのソロ。名曲中の名曲ですね。
村上さんの声は、声帯をキュッと絞ったような不思議な響きがします。豊かに響くというよりも、喉の強さでホールの奥まで直線的に飛ばすような感じの声。
僕はあまり好きなタイプではないけれど、安定感と説得力はさすがです。
歌劇「ボエーム」~ ムゼッタのワルツ「私が町を歩くと」(プッチーニ作曲)
ソプラノの森麻季さんが、ハープコーナーに続いて登場。
森さんの発声は独特で、ヴィブラートをかけずにすっと放たれる透明な声が、しなやかに旋律を描きます。その妖艶な歌い口が、ムゼッタのワルツにぴったり。
そして、ますます磨きのかかった美貌に、蠱惑的なボディライン。確かに彼女が町を歩けば、男たちは振り返らずにはいられないでしょう。
▼指揮者のバッティストーニを誘惑するような動きも、さらりと自然に演じていて、楽しませてもらいました。
歌劇「アンドレア・シェニエ」~「ある日、青空をながめて」(ジョルダーノ作曲)
いよいよ大トリ。テノールの大御所、福井敬(ふくい・けい)さんの登場です。
出演者の中で最年長の57歳。その声にはいささかの衰えもなく、依然として若手たちを寄せ付けない輝きを放っています。
ぐっとギアを入れた瞬間の力強い声は圧巻。脳天から突き抜けるような響きは唯一無二のものです。
独特の説得力ある歌いまわしで、この難曲を完全に自分のものにしていました。
歌劇「椿姫」~ 乾杯の歌「友よ、さあ飲みあかそう」(ヴェルディ作曲)
定番のフィナーレ「乾杯の歌」。全出演者がステージに勢揃いして、交代に一節ずつ歌っていきます。
▼指揮者バッティストーニさん、2時間お疲れ様!こうして見ると、NHKホールって本当に広いですね…!
僕は、このフィナーレの歌自慢を、いつも楽しみにしています。一人ひとりの歌手の際立つ個性を、一気に味わうことができるからです。
▼1組目は大トリを飾った福井敬さん。
▼2組目は「トゥーランドット」と「オテロ」を披露した大村博美さん。
▼3組目は「愛の妙薬」の名アリアを歌った村上敏明さん。
▼4組目は「ホフマン物語」と「ムゼッタのワルツ」でつややかな声を聴かせた森麻季さん。
▼5組目は「トゥーランドット」と「オシアンの歌」を朗々と歌い上げた笛田博昭さん。
▼6組目は今回の僕的MVP、「運命の力」レオノーラの絶唱が忘れられない中村恵理さん。
▼7組目は「リゴレット」の深みのある歌唱が印象的だった上江隼人さん。
▼8組目は「蝶々夫人」「宝石の歌」の砂川涼子さんと、「シモン・ボッカネグラ」の妻屋秀和さん。
▼9組目は「タンホイザー」の青山貴さん、そしてハープと共演した林美智子さん。
▼10組目は「椿姫」ヴィオレッタの森谷真理さん。
▼11組目は「セビリアの理髪師」の大沼徹さんと「ルサルカ」の田崎尚美さん。
▼12組目は「蝶々夫人」「カヴァレリア・ルスティカーナ」の中島郁子さん、そして「ドン・カルロ」の二重唱を歌った宮里直樹さんと大西宇宙さん。
▼最後の音が鳴り響いた瞬間に、華やかに金銀のテープが打ち放たれ、客席から歓声が上がりました。何という華やかさ!
こうして、17人のソリスト、80人近い大合唱、ハープの名手、そして若き名指揮者率いる素晴らしいオーケストラによる、贅沢な2時間が幕を閉じたのでした。
あとがき
NHKニューイヤーオペラコンサートのもう一つの面白さは、生放送できっちり2時間に収めるところにもあります。
僕には、これがなぜ可能なのか、不思議でなりません。
クラシックの楽曲、特にオペラアリアは、曲の伸び縮みが激しく、リハーサルと本番で演奏時間が大きく変わります。
それに加えて、舞台美術の転換や、大人数の合唱団の移動なども含めて、秒単位で時間を合わせるというのは、とてつもなく緻密な準備があってのことなのでしょう。
NHKは世界でも屈指のクラシック音楽番組の制作能力を持つ放送局です。そのノウハウが結集した奇跡のような2時間なのだと思うと、演奏者だけでなく、スタッフにも「ブラボー!」を送りたくなります。
紅白歌合戦のような視聴率はないかもしれませんが、63年間も続いてきたこの素晴らしいイベントを、NHKがこれからも続けていってくれることを心から望みます。
【オペラの感想】第64回 NHKニューイヤーオペラコンサート2021(NHKホールでのライブと放送を見て)