こんにちは。そなてぃねです。
僕はこのブログで誰かを非難することは避けてきました。ですが今回は少し辛辣になってしまうかもしれません。
東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団が、2020年6月26日(金)に予定していた公演を、急遽「無観客ライブ配信」に変更しました。
その理由は、同月18日に楽団員とスタッフを対象に実施された新型コロナウイルスの「抗体検査」の結果、陽性者が出たことでした。
感染防止対策を徹底したい楽団の意向は理解できなくありませんが、僕は東京シティ・フィルの今回の行動を明確に批判します。
それはなぜか。こうした形での抗体検査は、やっても無意味であるだけでなく、オーケストラ業界に悪影響を与えかねないからです。
▼7月に大阪交響楽団が「楽団員と事務局全員にPCR検査」を実施。こうした悪しき事例がこれ以上増えないことを願うばかりです。
大阪交響楽団が楽団員・スタッフ全員にPCR検査… なぜ彼らは「まやかしの安心」を求めるのか?東京シティ・フィルによる抗体検査の経緯
6月24日に公式サイトにアップされた記事「【謹告】第335回定期演奏会開催に向けての抗体検査実施についてのご報告」から、東京シティ・フィルがとった一連の行動について振り返っておきます。
抗体検査実施に至りました背景には、この新型コロナウイルス感染症の影響で2月22日(土)に開催しました第331回定期演奏会以降は定期演奏会の開催を中止または延期を余儀なくされてきたこと、また緊急事態宣言解除後の最初の定期演奏会の実施ということもあり、出演者とスタッフの健康状態を把握し、ご来場になるお客様に会場で安全にお楽しみいただける状況にあるかを確認するという意図がございまして、抗体検査の実施に至りました。
この抗体検査の結果、検査実施者72名中5名に陽性反応という結果が出ました(※注:抗体検査の陽性反応が必ずしも新型コロナウイルスに罹患していた(または現在罹患している)ことを示唆している訳ではありません)。
この結果を受けての医療機関の指示により、陽性反応がありました出演者についてはPCR検査を受けることでより精密な判断をすることとなりました。
また、同日に開催しました舞台上のソーシャル・ディスタンス検証会の場では感染予防対策を施して開催をしておりましたものの、舞台上以外の場面で、出演者間の感染予防対策が徹底されていたか疑わしい状況がありましたことが判明いたしました。
そのため、PCR検査の結果を受けての今後の行政または医療機関の指導次第では、定期演奏会の安全な開催が危ぶまれることとなりました。
このような状況を鑑みまして内部で検討を重ねました結果、お客様に会場にご来場いただいての定期演奏会開催は、お客様の安全の確保および感染拡大防止の観点から断念せざるを得ないとの結論に至りまして、その後のPCR検査の結果をもって公演中止または無観客による開催のいずれかを判断することとなりました。
対象の出演者のPCR検査は6月19日(金)と6月22日(月)に実施いたしまして、対象者全ての検査結果が陰性であることが判明し、医療機関から定期演奏会開催について問題がないことを確認いたしました。
今回の一連の経緯を医療機関や業界関係機関等と検証をいたしまして、今後の公演開催については、「クラシック音楽公演における新型コロナウイルス感染拡大予防ガイドライン」に則って、出演者およびスタッフ間の感染予防の徹底および出演者からお客さまへの感染予防対策、お客様間での感染予防対策等を徹底すると共に、感染の恐れのある事例が生じた場合は適切な処置と判断のもと、公演を安全に開催できるように努めてまいります。
この度は公演直前での公演開催形態の変更等で、お客様をはじめ関係各位に多大なるご迷惑とご心配をおかけいたしましたことを心よりお詫び申し上げます。
東京シティ・フィルの演奏再開が無観客ライブ配信という形になりましたが、是非たくさんの方にご覧いただき、弊団の演奏をお楽しみいただけますと幸甚に存じます。
今後とも何卒宜しくお願い申し上げます。
一般社団法人東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団
代表理事・楽団長 志田明子
(公式サイトから引用)
6月18日に東京シティ・フィルは「ソーシャル・ディスタンス検証会」を行いました。奏者どうしの間隔を変えながら、演奏のしやすさを検証するものです。
本日、江東区コミュニティ財団様ご協力のもと、ティアラこうとう大ホールにて高関マエストロ(@KenTakaseki )と藤岡マエストロ(@sacchiy0608)にお越しいただき、演奏会再開に向けての舞台上ソーシャルディスタンス検証を実施しました。
この検証をもとに今後の公演の開催に向けて検討してまいります。 pic.twitter.com/KBDcB2Wz5R
— 東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団【公式】 (@TokyoCityPhil) June 18, 2020
これ自体は決して悪い試みではなかったと思います。
しかし同じ日に問題の「抗体検査」が行われたのです。楽団員とスタッフ計72人が検査対象となりました。
抗体検査を実施した理由について、楽団の公式サイトには以下のように書かれています。
緊急事態宣言解除後の最初の定期演奏会の実施ということもあり、出演者とスタッフの健康状態を把握し、ご来場になるお客様に会場で安全にお楽しみいただける状況にあるかを確認するという意図がございまして、抗体検査の実施に至りました。
はっきり言いますが、抗体検査をしても安全性は確認できません。
抗体検査は過去に新型コロナウイルスに感染し、体内に抗体が作られているかどうかを調べる検査です。現在かかっているかどうかを知るためのものではありません。
一般のクリニックで受けられる抗体検査キットは精度の低さやバラツキが指摘されていて、信頼性にも疑問があります。
そもそも、陽性になったからといって免疫ができているかどうかは分からず、「もう感染しないから安心」ということにはなりません。
つまり、陽性になっても陰性になっても、何の判断材料にもならないのです。
では抗体検査は何のために行われるかと言えば、「疫学調査」のためです。特定の地域などを対象に、無作為にサンプルを抽出して調査することで、その地域でどのくらい感染が起こっていたかを知ることができます。
個人や企業が「安全・安心のため」に抗体検査をするという発想は、完全に間違っています。こんなことを勧める医者がいるとしたら、金儲けのためだと断言してもいいでしょう。
陽性の5人はPCR検査まで…
検査の結果、72人の被験者のうち5人に陽性反応が出ました。
この5人はPCR検査まですることになりました。公式サイトには、こう書かれています。
この結果を受けての医療機関の指示により、陽性反応がありました出演者についてはPCR検査を受けることでより精密な判断をすることとなりました。
この「医療機関」とは一体誰のことなのでしょうか? まったくの謎です。
指定感染症の検査は、医師が必要と認めた者にしか行われません。今回のように、個人や企業が勝手に行った抗体検査で陽性になった人たちに対して、公的な立場の医療機関がPCR検査を指示するとは考えられません。
おそらく、このPCR検査も自由診療で行われたのでしょう。だとしたら、ここに関わった医療関係者は極めて悪質です。楽団から多額の検査費用を受け取っている可能性が高いからです。
PCR検査の結果は、5人とも陰性。
PCR検査の感度(真の感染者を陽性と判定する能力)は30~70%程度と言われていて、最近の研究では無症状の感染者を陽性と判定できる確率は極めて低いことが分かってきています。
PCR検査とは、あくまで事前確率の高い人(covid-19と疑われる症状の人や感染者と濃厚接触した人)に対して「確定診断」のために用いられるものです。
エセ医者が金儲けのためにやっている精度の低い抗体検査で陽性になった人は、所詮は事前確率の低い人ですから、PCR検査をやる意味なんてそもそもないのです。
意味のない抗体検査をやって、意味のないPCR検査までやって、全員が陰性だったのに、直前に公演を取り止めて楽しみにしていたファンを裏切った東京シティ・フィルの事務局は愚かとしか言いようがありません。
もう本当に、いったい何がしたかったのか。まったく理解できません。
無意味な検査にかかったコスト
今回の抗体検査に、いったいどのくらいの費用がかったのでしょうか。
悪名高い某クリニックなどの例を見ると、1人あたり約5000円ですから、72人で36万円です。
これに加えて5人のPCR検査も自費診療とすると、あるクリニックでは1人あたり4万円という価格設定ですから、5人でなんと40万円もかかる計算になります(1人あたり2回実施)。
あくまで概算ですが、合計76万円。少なく見積もっても50万円以上はかかっているはずです。
4ヶ月も公演をできず財政的に厳しいはずなのに、これだけの大金をドブに捨てた東京シティ・フィルの事務局は、深く反省すべきです。
こんなことに使うなら、楽団員に少しずつでも支給してあげるか、本当に意味のある実証実験のために投資するべきでした。
オケ業界に悪影響を及ぼさないことを願う
東京シティ・フィルが勝手に無駄金を使って自らの首を締めているだけなら、自己責任ということになるでしょう。
僕がここまで批判しているのは(本当はこんな文章は書きたくない)、この悪しき前例が業界に悪影響を及ぼす可能性があるからです。
今はどこの楽団も、社会から認められる形で公演を再開しようと必死に頑張っています。
そんな中で今回のようなことが行われると、「うちも検査すべきじゃないか?」と焦る楽団が出てこないとも限りません。もしそうなったら、東京シティ・フィルの責任は重大です。
楽団は専門家を見極めなければならない
僕は、東京シティ・フィルを誤った行動に走らせた「専門家」がいたのではないか、と疑っています。
「専門家」を名乗る人たちは玉石混交です。ワイドショーには悪質な人たちが連日登場して、とんでもない主張を繰り広げています。
東京シティ・フィルにも怪しい「専門家」がついていて、今回の行動をそそのかしたのではないかと疑念を抱かざるを得ません。
この時代、楽団の事務局は、真っ当な専門家を見極めて、正しいコンサルタントを受けることが求められます。
新型コロナと音楽に関する記事
2020年2月ごろから世界中のオーケストラから公演の機会を奪った新型コロナウイルス。5月以降、徐々に再開される動きを追いました。
▼5月1日に行われたベルリン・フィルの無観客ライブ配信では、最大15人という小規模の編成で演奏されました。
【演奏会の感想】ペトレンコ指揮 ベルリン・フィル コロナ禍での無観客ライブ配信(2020年5月1日)▼6月2日に行われたロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団の無観客ライブ配信では、演奏者どうしの距離は175センチでした。
2020年6月2日 コンセルトヘボウ管 無観客ライブ配信 奏者どうしの距離は「175センチ」▼6月5日に行われたウィーン・フィルの3ヶ月ぶりの公演再開では、ほぼ通常の配置で演奏されました。
2020年6月5日 ウィーン・フィル 新型コロナのロックダウン後 3ヶ月ぶりに公演再開▼6月10日に行われた日本フィルハーモニー交響楽団の3ヶ月ぶりの公演は、無観客の有料ライブ配信で行われました。
2020年6月10日 日本フィル 無観客で有料ライブ配信 2メートルの距離で弦楽合奏▼6月20日に日本センチリー交響楽団が、全国に先駆けてフルオーケストラでの客入れ公演を再開しました。
2020年6月20日 日本センチュリー交響楽団 新型コロナ後、フルオーケストラで全国最初の公演再開▼7月に大阪交響楽団が楽団員と事務局全員に「PCR検査」を実施。業界の足を引っ張る愚かな判断だったと僕は思います。
大阪交響楽団が楽団員・スタッフ全員にPCR検査… なぜ彼らは「まやかしの安心」を求めるのか?