こんにちは。そなてぃねです。
クラシック音楽は立派なコンサートホールだけで聴くものではありません。教会やカフェ、美術館のアトリウムなどで聴く演奏会も、一味違って楽しいものです。
昨晩は京都の小さなカフェで、とてもステキな演奏会に行ってきました。出演したのは若手ピアニスト、久末航(ひさすえ・わたる)さん。
本当にステキなひとときでした。
演奏会の概要
【カフェ・モンタージュでの1時間 ピアノ 久末航】
- フランク作曲
前奏曲、コラールとフーガ(1884年) - ラヴェル作曲
ピアノのための3つの詩曲
「夜のガスパール」(1908年)
2018年7月27日(金)20時~
カフェ・モンタージュ(京都)
そなてぃね感激度 ★★★★☆
ピアニスト 久末航(ひさすえ・わたる)
この日の演奏者は、ピアニストの久末航(ひさすえ・わたる)さん。
久末さんは滋賀県大津市の出身。高校卒業後、ドイツに渡って研鑽を積まれています。
僕が久末さんのお名前を知ったのは、2017年のミュンヘン国際音楽コンクールで第3位に入賞したというニュースでした。
ミュンヘン国際は世界最難関のコンクールとして知られ、ファイナルでは超一流のバイエルン放送交響楽団と共演することができます。
上位入賞を果たした久末さんの演奏を、いつか聴いてみたいと思っていました。今回のコンサートを知り、迷うことなく聴きに行くことを決めました。
【参考動画】 ミュンヘン国際コンクールのファイナルの模様。チャイコフスキーのピアノ協奏曲。地に深く根を張った堂々とした演奏を聴くことができます。繊細さとスケールの大きさを兼ね備えた大器であることが分かります。
フランク作曲「前奏曲、コラールとフーガ」
(カフェ・モンタージュFacebookから引用)
1曲目はセザール・フランク(1822~1890年)の「前奏曲、コラールとフーガ」でした。
胸が締め付けられるような甘く切ない旋律に満ちた美しい作品です。
誰もが知る有名曲というわけではありませんが、心が苦しいときにそっと寄り添ってくれる隠れた名曲です。
久末さんは、繊細なタッチで美しい和声を奏で、その中に旋律を深く響かせていました。
「久末さんは、とても優しい人なんだろうな…」
と思いながら、胸が苦しくなるような響きに身を委ねました。
カフェ・モンタージュの親密な空間に、慈愛に満ちた音楽が共有されているのを感じました。
【参考動画】 心に苦しみを抱えているときに、ぜひ聴いてみてください。こちら ↓ は、現代を代表するピアニスト、エフゲニー・キーシンの王道をいく演奏です。
▼フランス音楽の名手として知られるポール・クロスリーのCD。おすすめです。
ラヴェル作曲「夜のガスパール」
2曲目はモーリス・ラヴェル(1875~1937年)の「夜のガスパール」。
アロイジウス・ルイ・ベルトラン(1807~1841年)という詩人の詩集から「オンディーヌ」「絞首台」「スカルボ」という3つの詩に霊感を得て作曲された作品です。
例えば、第1曲「オンディーヌ(水の精)」は、こんな内容の詩がもとになっています。
人間の男に恋をした水の精オンディーヌが、結婚をして湖の王になってくれと愛を告白する。男がそれを断るとオンディーヌはくやしがってしばらく泣くが、やがて大声で笑い、激しい雨の中を消え去る-
このような摩訶不思議な詩を、ラヴェルは妖しくも美しい響きで描いています。
久末さんの演奏は本当にすばらしかった…!
水の精の幻想的な世界へ…
死体の下がった絞首台、執拗に鐘が鳴り続ける陰惨な光景へ…
小さな悪魔が嬌声をあげながら飛び回る寝室へ…
久末さんの演奏は僕たちをいざなってくれました。
ものすごい難曲なんですよ、この曲。それを技術的な困難を一切感じさせずに描き切る。久末さんの実力は本物でした。
【参考動画】 僕が高校時代に擦り切れるほど聴いていたのが、鬼才イーヴォ・ポゴレリチの演奏でした。凄まじいまでの音色のコントロールと、リミッターが外れたかのような巨大な表現を、ぜひ聴いてみてください。
1905年製作のニューヨーク・スタインウェイ
(カフェ・モンタージュHPから引用)
カフェ・モンタージュに置かれたピアノは、とても印象的な音がしました。
芯が強く、ちょっとクセのある個性的な響き。決して弾きやすそうな楽器ではなく、奏者の腕を試しているかのような揺るがない存在感を漂わせていました。
終演後に見てみたら、かなりのヴィンテージ感。マスターがお客さんと会話しているのを聞いていたら、なんと1905年製作のニューヨーク・スタインウェイだそうです。
1905年! ラヴェルが「夜のガスパール」を作曲したのは1908年ですから、ちょうど同時代のもの。100年の時を超えた響きだったんですね。
日本のホールに入っているスタインウェイは、ほとんどがハンブルク製です。ニューヨーク製は珍しく、なかなか聴くチャンスはありません。そういう意味でも、今回は特別な時間となりました。
プログラムにはレンブラントの絵が
▼会場で配られたプログラム。A5の小さな紙にモノクロで印刷された簡素なものですが、マスターのセンスがにじみ出ています。
この紙には曲目解説も演奏者のプロフィールも一切書かれていません。
背景画はレンブラントの「三本の木」(1643年)。深い陰影が刻まれた空が印象的です。レンブラントはこの作品を描く前年に妻を失っています。その悲しみが彫り込まれているのでしょうか。
この版画が今回のコンサートのプログラムに選ばれた理由は何なのか… 想像力が掻き立てられます。
演奏されるラヴェルの「夜のガスパール」は3つの詩をもとに作られた曲なので、それを「三本の木」に見立てているのかな… などと想像しました。
この1枚の紙が、演奏へのイマジネーションを膨らませてくれる。素敵なはからいです。
京都御所の近く、カフェ・モンタージュ
(カフェ・モンタージュHPから引用)
コンサートが行われたのは、カフェ・モンタージュという趣のあるカフェ。京都御所から徒歩5分ほどの静かな住宅街の中にあります。
普段は15時から22時までカフェを営むかたわら、月に数回(多いときには10回以上!)クラシック音楽のコンサートを行っています。
いや、逆かもしれませんね。コンサートがメインで、それ以外の日にカフェをやっているというのが本当かもしれません(笑)
昨晩、僕がうかがった時の様子がこちら。
通常は40席ほどのようですが、この日は階段まで座席が増設されて60席以上ありました。
20代と思われる若い聴衆が多いのが印象的でした。京都市立芸術大学などの学生さんかもしれませんね。
開演直前までピアノの調律をしていたのはカフェのマスター。
ネットで調べてみると、マスターは高田伸也(たかだ・しんや)さんという方で、京都生まれ。高校卒業後、音響会社、ピアノ修理工房を経て、2003年にアンティーク楽器専門店をオープン。2012年3月にカフェ・モンタージュを作られたそうです。
カフェを始めて6年半。コンサートには国際的に活躍するソリストやプロオーケストラの首席奏者など、一流の演奏家が数多く出演しています。
音楽だけでなく、地元で活動している劇団なども個性的な舞台を行っているそうです。
コンサートは夜8時から1時間
カフェ・モンタージュのコンサートは、夜8時から1時間。料金は2000円で統一されています。
普通、夜のコンサートは19時開演が主流ですから、20時開演は珍しいですよね。
でもこの時間設定は絶妙で、働き盛りのサラリーマンでも仕事帰りに立ち寄りやすい。大阪に住んでいる僕も、定時の18時半に仕事を終えれば駆けつけられる時間です。
そして演奏時間が1時間というのも絶妙。配られる1枚の紙(後述)には「カフェ・モンタージュでの1時間」という小さな文字が添えられています。非日常の1時間をともに味わいましょう、というマスターの思いが感じられます。
2000円という料金もうれしいですよね。気楽に芸術に触れられる場が日常生活の中にあるというのは、人生をとても豊かにしてくれます。
カフェならではの親密な空気
(カフェ・モンタージュHPから引用)
終演後には冷たいお茶や赤ワインが無料で振る舞われます。お客さんはピアノの周りに集い、マスターや演奏者も一緒になって自由に語らいます。いいなぁ、この感じ。
常連さんも多いようで、会話に花が咲いていました。
僕も常連になりたいなぁ。あの輪に入って、音楽や演劇の話で盛り上がれたら楽しいだろうなぁと思いました。
あとがき
ピアニスト久末航さんが目当てで行った演奏会。素晴らしい演奏に大満足するとともに、カフェ・モンタージュという場所に巡り会えたことは大きな収穫でした。
今後も魅力的な演奏会や演劇・朗読などが予定されているようです。
知らないアーティストや演目であっても「カフェ・モンタージュがプロデュースするものなら行ってみようかな」と思える。
これって、すごく大事なことです。これこそ文化を育み発信するということではないでしょうか。