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【映画の感想】『海獣の子供』STUDIO 4℃による壮大な生命の物語… 五感で体感する世界

映画『海獣の子供』パンフレット表紙

2019年6月に公開されたアニメ映画『海獣の子供』を見ました。

ある少女の一夏の経験を軸に、壮大な海に潜む生命誕生の神秘に迫る作品。

頭で「理解」するのではなく、五感で「体感」する映画でした。

この記事では、映画『海獣の子供』の概要と感想を述べたいと思います。

映画『海獣の子供』とは

まず、映画『海獣の子供』の概要です。

映画『海獣の子供』

 

原作:五十嵐大介

監督: 渡辺 歩

キャラクターデザイン:小西賢一

音楽:久石 譲

主題歌:米津玄師

制作:STUDIO

公開:2019年6月7日

 

えいぷりお感激度 ★★★☆☆(星3つ)

▼公式本はこちら。ストーリーはもちろん、キャラデザイン、美術まで内容を網羅。主題歌を歌う米津玄師と原作者、五十嵐大介の対談も収録されています。

▼美術監督の木村真二が監修した、圧倒的に美しい背景画集がこちら。

五十嵐大介による原作漫画

五十嵐大介「海獣の子供」単行本

映画『海獣の子供』は、五十嵐大介が小学館の『月刊IKKI』に連載(2006~2011年)した漫画『海獣の子供』を原作としています。

この物語は、本当に… 不思議としか言いようがありません。理屈を超えた神秘の世界。

ジュゴンに育てられた2人の少年。

白斑を光らせながら消えていく魚たち。

海の幽霊。

人魂と呼ばれる隕石の落下。

クジラたちが海中で発するソング。

打ち上げられるリュウグウノツカイ。

海の泡から産まれた子供たち。

世界各地で採録された海に纏わる証言。

生命誕生の奇跡が再現する壮大な「まつり」…

中学生の琉花(るか)が夏休みに経験した摩訶不思議な出来事の数々を、五十嵐大介が独特の質感の線で幻想的に表現しています。

五十嵐大介「海獣の子供」琉花

五十嵐大介「海獣の子供」最終巻

僕が原作漫画を読んで印象に残ったのは、若き天才学者アングラードが、宇宙の総質量の90%を占める暗黒物質について語るセリフ。

「僕たちは、何も見ていないのと同じだ。この世界は見えないもので満たされていて、宇宙は僕たちに見えているよりずっとずっと広いんだよ」

生命誕生の神秘が、広大な海を舞台に語られてます。そして読者は、いつの間にか宇宙にいざなわれ、そして細胞の中へといざなわれていきます。

難解な作品です。頭で理解するものではなく、ワクワクするエンターテイメントでもない。正直、僕にはどう受け止めればいいのか分かりませんでした。

一方、優れたクリエイターたちは、この作品を高く評価しています。一般大衆よりも、クリエイターに強い影響を与えてきた作品と言えるかもしれません。

映画『海獣の子供』を見て

映画『海獣の子供』映画館の看板

原作漫画が一般大衆向けの作品ではなかったように、映画『海獣の子供』も広く一般にウケるタイプの作品ではないように思いました。

たしかに、映像は圧倒的に美しい。その点は心から感動しました。

五十嵐大介の世界観を崩さずにアニメ化するのは大変なことだったはずで、期待をはるかに上回るクオリティで実現したSTUDIO 4℃は、さすがとしか言いようがありません。

ですが、単行本全5巻の内容を2時間の映画に再構成するのは、困難な仕事だったと思います。

考えに考え抜いた末にたどり着いた構成だと思いますが、僕には、原作に込められた大切な何かが抜け落ちてしまっていたような気がしました。

中学生の琉花を軸にして構成をシンプルにしようとした意図は分かるけど、地球規模の異変や、海に纏わる証言の数々といった原作の重要な要素が描かれなかったのは残念です。

映画化されることで、より難解になってしまった、というのが僕の偽らざる感想です。

2時間の映画ではなく、TVアニメのシリーズものにして、もう少し「分かりやすい」形にするなど、別のやり方もあった気がします。

でも「分かりやすい」のがいいとも限りませんよね… 分かりやすくすることで、原作の持つ神秘的な世界観を損なってしまうのかもしれませんから。

音楽は久石譲でよかったのか

作品そのものは原作の難解さを踏襲しているのに、音楽に久石譲を選んだことに、僕はちょっと違和感がありました。

久石譲は言うまでもなく映画音楽界の大巨匠ですが、何か新しいものが期待できるのだろうか… と。

全編に散りばめられていたのは、ミニマル系のオーケストラ・サウンド。親しみやすいメロディはなく、印象的なモチーフの繰り返しで、独特の世界観を作り出していました。

そういう意味で『風の谷のナウシカ』や『となりのトトロ』などの名曲のイメージとは違った、より鋭角的なものを打ち出そうとしているのを感じました。

でも僕としては、映像にこれだけの挑戦をしているのですから、音楽もさらに尖った響きに挑戦してほしかったです。

若手の現代作曲家には、新しい感覚を持った才能ある人材が多くいます。劇伴音楽の経験がなくても、これまでにないサウンドを生み出す可能性はあると思います。

例えば、米津玄師が書き下ろしたエンドテーマ『海の幽霊』で、オーケストラ・アレンジを担当した坂東祐大とEnsemble FOVEを起用していたら、誰も聴いたことのない音楽を生み出したかもしれません(次の項目も参照)。

彼らはクラシック音楽・現代音楽のスペシャリストでありながら、従来の枠を超越した音響を生み出すクリエイター集団でもあります。

久石譲のような大御所に頼るのではなく、実験精神に満ちた若手に任せるくらいの挑戦をしてほしかったと思います。

エンドテーマは米津玄師の名曲『海の幽霊』

先ほど話題に挙がった米津玄師海の幽霊は、2019年5月27日にyoutubeで公開され、約1ヶ月半が経った今(2019年7月11日現在)、再生回数は3400万回を超えています。

この楽曲は米津玄師らしい独特の歌詞と旋律を持つ名曲ですが、同時にそれまでの作品とは異なるオーケストラ・サウンドがその世界観を支えています。

耳を澄ますと、深い海底を思わせるコントラバスのロングトーンや、クジラのソングのような弦楽器の下降音型が聴こえてきます。

このアレンジを担当したのが、米津玄師と同い年の現代作曲家、坂東祐大(ばんどう・ゆうた)。演奏しているのは、彼が率いる若手演奏家集団、Ensemble FOVE(アンサンブル・フォーヴ)です。

ぜひ、このエンドテーマのサウンドにも耳を傾けてもらいたいです。

【関連記事】 米津玄師『海の幽霊』のオーケストラ・アレンジを手がけた坂東祐大とEnsemble FOVEについては、こちらの記事へ。

えいぷりお的まとめ

映画『海獣の子供』は、大変な力作であることは間違いありません。

五十嵐大介の独特の線をアニメで再現するために数年間を費やし、CGにも想像を絶する苦労をしたそうです。

僕のような素人には、どこまでがCGなのか、まったく分からないほど作画と自然に融合し、圧倒的に美しい画面を作り出していました。

色々と批判めいた生意気なことを書きましたが、本当は、ただただこの美しい映像に五感を没入させればいいのだと思います。

この映像美を味わうには、やはり大画面の映画館がおすすめです。ぜひ体感してみてください。

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