【無痛分娩】2017年1月に大阪の産婦人科で起こった事故 31歳の母親が死亡 ※追記 2017年8月 担当した院長が書類送検へ

スポンサーリンク

2017年1月に大阪の産婦人科で、無痛分娩で31歳の母親が死亡したという医療事故が起こっていたことが明らかになりました。僕の妻は5年前、無痛分娩に伴う医療事故で、長期間苦しんだ経験がありますので、他人事とは思えません。今回の事故はどのようなものだったのか、考えてみます。

〔追記〕2017年8月9日 担当した院長、書類送検へ

冒頭に最新情報を追記させていただきます。2017年8月9日の報道で、この事故を起こした産婦人科の院長が書類送検されたことが報じられました。新聞記事を引用します。

<無痛分娩事故>1月女性死亡で書類送検へ 大阪・和泉
大阪府和泉市の産婦人科医院で1月、麻酔で痛みを和らげる「無痛分娩(ぶんべん)」で出産した女性(当時31歳)が死亡した事故で、適切な処置を怠ったとして大阪府警が男性院長を業務上過失致死の疑いで書類送検する方針を固めたことが9日、捜査関係者への取材で分かった。

捜査関係者によると、女性は1月、和泉市の「老木(おいき)レディスクリニック」で脊髄(せきずい)の外側に麻酔薬を注射する「硬膜外麻酔」を受けた後に呼吸困難に陥り、意識不明となった。別の病院に搬送され、10日後に低酸素脳症で死亡した。子供は搬送前に帝王切開で生まれて無事だった。

府警は、麻酔が効きすぎて呼吸困難になった女性に対し、院長が気道を確保するための気管内挿管など適切な処置をしなかったと判断。容体急変時に対処できる体制も不十分だったとみている。

クリニックの代理人弁護士は毎日新聞の取材に「麻酔注射は問題なく、呼吸不全後もやるべきことはやった」と話した。

無痛分娩を巡っては、京都府京田辺市や神戸市の産婦人科医院でも母子が死亡したり、重い障害が残ったりする医療事故が起きている。【山田毅、村田拓也】

(引用:毎日新聞

朝日新聞の記事によると、無痛分娩をめぐって医師が立件されるのは異例ということです。今後、無痛分娩の現場の体制については、より厳しい目で見られることになるでしょう。これは、お産の安全性を考えると、望ましいことだと僕は考えます。

2017年4月25日の新聞記事

無痛分娩 ママタイトル

31歳の若い母親が、赤ちゃんの顔を見ることもできず命を落としてしまった悲しい事故。やりきれない気持ちになります。命は救えなかったのか。どこに問題があったのか。近年注目度が上がっている無痛分娩に関して、今回の出来事から何が読み取れるのでしょうか。

まず、記事の内容を見てみましょう。

無痛分娩で出産中に意識失い死亡 子どもは無事 大阪

大阪府和泉市の産婦人科医院で1月、麻酔でお産の痛みを和らげる「無痛分娩(ぶんべん)」で出産中の女性(当時31)が意識不明になり、その後死亡したことが捜査関係者らへの取材でわかった。府警は院長らから事情を聴いており、業務上過失致死容疑での立件も視野に調べている。

医院の代理人弁護士らによると、女性は1月、脊髄(せきずい)を保護する硬膜の外側に細い管を入れ、麻酔薬を注入する硬膜外麻酔を受けた。この注射の後、呼吸不全に陥り、意識不明になった。堺市内の病院に搬送されたが、約10日後に死亡。子どもは無事に生まれたという。府警は医師らが人工呼吸など十分な措置を取ったかについて調べている。

無痛分娩は赤ちゃんにほとんど影響せず分娩の疲労が減って産後の育児や職場復帰がしやすい利点があるとされる。2008年度の調査では国内のお産全体の2.6%と推計されたが、現在は5~10%ほどに増えているとみられている。

(引用:朝日新聞

この記事に対する批判コメント

yahoo! ニュースのコメント欄には、ものすごい数の書き込みがなされています。その中で、かなりの割合を占めるのが、「無痛分娩を悪者にするな」という、記事に対する批判コメントです。いくつか引用してみます。

■無痛分娩の事故って、どのくらいの確率で起こっているの? 自己選択だからこそ、リスクを正確に把握する必要があると思うけれど情報は少ないよね…

■最近これ系の記事多いけど、”無痛分娩は悪”みたいな風潮に持っていきたいのか。楽するのが許せない人達がいるんだろうなー

■最近の無痛下げはどこの支持なの?これ帝王切開でも同じことだよ?しかも麻酔の量は倍以上。どれだけの人間が帝王切開してると思う?

■日本以外の先進国はほぼ硬膜外麻酔がスタンダードなのに今更なに??

■朝日は無痛分娩を悪者にしている。無痛分娩はごく当たり前の手技で、失敗することの方が少ないのに。偏向報道に気をつけて。

■このところ無痛分娩を害悪視するよう印象操作する狙いの偏向記事が多いな。「なにがなんでも無痛分娩を撲滅したい」という勢力でもあるかのようだ。厚労省がどっかの偉いさんで「出産は痛みを伴ってするべきだ」とか言ってるジジイでもいるのか

(引用:yahoo! ニュース

2017年現在の無痛分娩率は5~10%

この記事で僕がまず注目したのは、最後のくだりです。

「2008年度の調査では(無痛分娩を行った妊産婦の割合は)国内のお産全体の2.6%と推計されたが、現在は5~10%ほどに増えているとみられている」
※カッコ内は筆者

つい先日(2017年4月17日)、新聞にこんな記事が掲載されました。

「麻酔使った『無痛分娩』で13人死亡…厚労省、急変対応求める緊急提言」

この記事を分析してみましたが、具体的なデータに乏しく、結局のところ、無痛分娩が妊産婦の死亡率を高めているのかどうなのかが、よく分かりませんでした。

もっとも知りたい基本的な情報は、「お産をする女性のうち、どのくらいの割合が無痛分娩を選択しているのか」、つまり「無痛分娩率」でした。

その情報の一端が、今回の記事に書かれていたわけです。「5~10%」という、かなり曖昧な数値なので、統計データがきちんと整理されていない段階なのだろうと思いますが、2008年に比べて、大幅に無痛分娩率が上がっていることは確かなようです。

詳しくは、分析した投稿に書いたので省略しますが、この数値から分かることは、

「無痛分娩は死亡率を高めることはない。むしろ死亡率を低くしている可能性もある」

ということです。ですので、新聞記事のニュアンスが「無痛分娩は危険」と思わせるような書き方になっていることには、問題があると思います。

スポンサーリンク

麻酔によるアナフィラキシーショックの可能性

無痛分娩は死亡率を高めるものではない、という前提に立ちながらも、無痛分娩にはまだまだ問題点や課題があると思われます。

今回の記事で重要なポイントは、次の点にあると思います。

「硬膜外麻酔の注射の後、呼吸不全に陥り、意識不明になった」

詳細は分かりませんが、麻酔が引き金になっている可能性が高いと思われます。

呼吸不全という症状から、まず僕の頭に浮かんだのが、麻酔によるアレルギー反応、アナフィラキシーショックです。局所麻酔によるアナフィラキシーショックの頻度は非常に低いものの、リスクはゼロではなく、麻酔医はアナフィラキシーの治療には習熟しておく必要があるとされています。

日本ペインクリニック学会が発行している学会誌(vol.12 No.1 2014)に掲載されている論文「局所麻酔のアナフィラキシー」)によると、麻酔によってアナフィラキシーショックが起こってしまった場合、症状の進行は極めて早く、抗原にさらされてから呼吸停止に至る時間(中央値)は、食べ物が原因の場合は約30分、昆虫に刺された場合は約15分なのに対して、麻酔が原因の場合は約5分。処置は一刻を争うことが分かります。

論文に記載されている「アナフィラキシーの治療法」という表を引用してみましょう。

無痛分娩 アナフィラキシー

1番目の項目に「人手を集める(非常に重要)、患者の経過・治療内容を厳密に記録する」と書かれているのが印象的です。一刻を争う治療のために、マンパワーを備えた万全な体制が必要であることが明記されているのです。

さらに、酸素マスク、静脈路の確保、気管挿管、輸液、アドレナリン静注、H1/H2ブロッカー投与などの処置を迅速に行わなければなりません。しかも、出産中ともなると、投与する薬にはより慎重な判断が求められるはずです。

今回の大阪での医療事故は、大きな総合病院ではなく、個人の産婦人科病院で起こったようです。報道では、院長自ら麻酔を打ったとのことでした。麻酔のコントロールをする専門の麻酔医がついていなかった可能性もありそうです(※実際にはこの病院には複数の麻酔科医がいたようです。下に〔追記〕しています)。このような脆弱な体制で、アナフィラキシーショックが起こってしまったら、人手を集めて集中的に治療に当たることなど不可能でしょう。

おそらく、有効な手をほとんど打てないまま、31歳の母親を意識不明の状態にしてしまったのだと想像されます。

僕の妻も無痛分娩で出産し、硬膜外麻酔の医療事故によって長期間にわたって苦しんだ経験があります。僕の妻も、今回の大阪のケースと同じような個人病院でした。専門の麻酔医はついていましたが、バックアップ要員はおらず、もしショック状態に陥ったら、何もできなかった可能性が高いと思います。

今回の記事だけでは詳細は分かりませんが、ひとつの可能性としてアナフィラキシーショックを考えてみました。

〔追記〕
浅野剛さん主演のドラマでも話題になった漫画「コウノドリ」には、無痛分娩を取り巻く産科医療の現状が描かれています。参考にぜひ読んでみてほしい作品です。
【無痛分娩】漫画「コウノドリ」第10巻を読んで(ネタバレ注意)

〔追記〕
2011年4月に京都の産院で起こった医療過誤訴訟。赤ちゃんが脳に重大な障害を持って生まれ、その後3歳で亡くなったという痛ましい事故でした。事故の原因のひとつとして「陣痛促進剤」の過剰投与が示唆されています。
【無痛分娩】2011年4月に京都の産婦人科で起こった事故 脳に障害、3歳で死亡 ―陣痛促進剤の過剰投与か―

〔追記〕
2012年11月に京都の同じ病院で起こった訴訟。母子ともに意思疎通のできない重大な障害を負いました。原因の可能性として「局所麻酔薬中毒」が挙げられました。
【無痛分娩】2012年11月に京都の産婦人科で起こった事故 母子ともに脳障害で提訴 ―局所麻酔薬中毒か―

〔追記〕
2015年8月には、神戸の病院で、36歳の母親が陣痛促進剤の過剰投与と思われる子宮からの大量出血などで亡くなる事故がありました。異変が起こった後の病院側の対応にも問題があり、刑事告訴されました。
【無痛分娩】2015年8月に神戸の産婦人科で起こった事故 36歳の母親が死亡 ―陣痛促進剤の過剰投与で刑事告訴―

〔追記〕
2015年9月には、同じく神戸の違う病院で、硬膜外麻酔の事故によって母子ともに重い障害を負い、母親は1年8か月の昏睡の末、35歳で亡くなりました。赤ちゃんは今も脳の障害を抱えています。麻酔の処置を行った後、きちんと監視をせず妊婦を放置した結果、この事故は起こりました。
【無痛分娩】2015年9月に神戸の産婦人科で起こった事故 31歳の母親が死亡 ―麻酔科医の不足が一連の事故の根底に―

〔追記〕
2016年5月にも京都の同じ病院で医療事故が起こっています。この事故でも、母子ともに意思疎通のできない重大な障害を負いました。原因として「全脊髄麻酔状態」が考えられています。
【無痛分娩】2016年5月に京都の産婦人科で起こった事故 母子ともに脳障害で提訴 ―全脊髄麻酔に陥ったか―

〔追記〕
これらの事故(2017年4月~6月に相次いで報道された)を受けて、日本産婦人科医会が全国の産婦人科に対して実態調査を行うことになりました。今後の安全性向上に生かされるよう、強く希望します。
【無痛分娩】日本産婦人科医会が実態調査を開始 ―現場の状況を把握し、これ以上の犠牲者を出すなー

〔追記〕「老木レディスクリニック」の無痛分娩への姿勢

今回の事故が起こったのは、大阪府和泉市の「老木レディスクリニック」です。同病院のウェブサイトに、事故が起こった2年前に無痛分娩に対するスタンスが書かれていました。ご覧ください。

無痛分娩の日本産婦人科学会からの提言および当院の考え方

諸外国では無痛分娩は普及していますが、日本ではまだ受け入れ施設の整備が十分ではありません。妊婦の快適性や安全性の向上にもつながることを認識するとともに、麻酔科医専門医や産科麻酔の熟練された医師の配置が必要です。

当院でも無痛分娩をご希望される方は近年著しく増加しており、老木基子麻酔科専門医を主に複数名麻酔科の在籍、産科医、スタッフなどが体制を整えております。産婦人科医師としても今後出産される方が痛みへの不安や疼痛の身体的・精神的苦痛から解放されることは現代社会において育児への展開がスムーズになることは明らかであり、痛みからの回避方法として実施することができる体制で分娩のご希望に沿うことは必要と思われます。

平成27年3月19日
老木レディスクリニック

(引用:老木レディスクリニック

この書き込みを見る限り、同病院には常駐の麻酔科医が複数名いることが明記されています。個人病院としては、かなり整った環境と言えるでしょう。

しかし、ある報道では院長自ら麻酔を打ったとされていました。院長の老木正彰氏は産婦人科医で、麻酔の専門医は別の医師です。なぜ麻酔科医ではなく産婦人科医の院長が麻酔を打ったのか。謎は深まります。いずれにしても、事故は起こってしまいました。

その後、同病院のウェブサイトには、2017年4月の日本産婦人科学会の提言を受けて、次のような書き込みがなされ、当面の間、無痛分娩を中止することが表明されました。

無痛分娩に関する重要なお知らせ

第1回目の日本産科婦人科学会から無痛分娩の提言を受け、当院では平成27年3月19日に以下の考え方を示しました。
>>無痛分娩の日本産婦人科学会からの提言および当院の考え方(※上記の引用:ブログ筆者注)

その後、平成29年4月16日に行われた第69回 日本産婦人科学会学術講演会に参加した際、以下のような緊急提言がございました。

“無痛分娩に十分な医療体制を”日本産婦人科学会が緊急提言

麻酔を使って陣痛を和らげる「無痛分娩」について日本産婦人科学会は、麻酔によって死亡した例があるなど通常の分娩と異なる管理が求められるとして、医療機関に対し無痛分娩を行う際には十分な医療体制を整えることを求める緊急提言を行いました。無痛分娩について、こうした提言が出されるのは初めてです。

この緊急提言は16日、広島市で行われた日本産科婦人科学会で三重大学の池田智明教授が発表したものです。

研究班では、去年4月までの7年間に報告された妊産婦の死亡例298人を分析したところ、脊椎への注射で麻酔をかけて無痛分娩を行っていた死亡例が13人あり、このうち1人が麻酔による中毒症状で死亡していたということです。また、羊水が血液に入る症状や大量の出血が起きたケースもありました。

このため緊急提言では、無痛分娩は麻酔によってまれに重大な合併症が出るほか、赤ちゃんを引っ張って出す処置が必要なケースが増えるなど通常の分娩とは違った管理が求められると指摘し、無痛分娩を行う施設に対して麻酔による合併症や出血などに確実に対応できる体制を整えることを求めました。

無痛分娩についてこうした緊急提言が出されるのは初めてです。研究班では、今後、産科医や麻酔科医と共同で無痛分娩を実施する際のチェックリストを作り、産科医に対し講習などを行っていく方針です。

池田教授は「無痛分娩を望む妊婦が増えているが、実施の際には緊急の状況に対応できる技術と体制を整えることが重要だ」と話しています。

当院でも無痛分娩をご希望される方は年々著しく増加しており、過去に日本産婦人科学会が行った提言をもとに老木基子麻酔科専門医をはじめ、複数の医師やスタッフによって体制を整えてまいりましたが、この度の緊急提言により当面の間は当院での無痛分娩の中止いたします。

なお、現在通院中の方で無痛分娩をご希望の方には医師より説明がございますので、来院時にお申し出くださいませ。

平成29年4月17日
老木レディスクリニック

(引用:老木レディスクリニック

この書き込みがなされた2017年4月は、同病院で事故が起こった2017年1月よりも後のことです。無痛分娩を中止することに決めた理由として、日本産婦人科学会の提言についてしか触れられていませんが、1月に起こした事故が影響していることは想像に難くありません。ただ、業務上過失致死容疑で立件される案件だったためか、サイトには事故については一切書かれていません。

万全な体制であることを確認する

僕は、無痛分娩を一概に悪く言うつもりはありません。数字だけを見れば、無痛分娩は妊産婦の死亡率を高めてはおらず、むしろ低くしている可能性もあります。無痛分娩を選択するほとんどの女性が、その恩恵を受けることになるでしょう。

しかし、可能性は低いながらも、硬膜外麻酔によるトラブルは一定の確率で起こります。そして、僕の推測では、ひとたびトラブルが起こった時の対応力は、産科の現場では決して高くないと思われます。

ですので、無痛分娩を希望されるご夫婦は、担当医にしつこく食い下がってでも、リスク管理の体制についてはしっかり確認していただきたいと思います。

31歳の若さで、楽しみにしていた赤ちゃんと会うことができずに命を落としてしまったお母さんのことを思うと、やりきれない気持ちになります。こんな悲しいことが起こらないようにするためにも、出産に臨む妊産婦の皆さんが(そして奥さんを支える旦那さんたちが)、情報をしっかり集め、リスクを最小化するように努めるしかありません。

スポンサーリンク

コメントを残す

サブコンテンツ

このページの先頭へ