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【無痛分娩】2015年8月、神戸「母と子の上田病院」の事故 36歳の母親が死亡 ―陣痛促進剤の過剰投与で刑事告訴―

神戸でも無痛分娩に伴う死亡事故が起こっていました。大阪で1件、京都で3件、そして神戸。無痛分娩の現場の杜撰な状況が、次々に明らかになっています。36歳の母親が、赤ちゃんの顔を見ることなく亡くなりました。

2017年5月19日の新聞記事

報じたのは神戸新聞でした。記事に気付くのが遅れ、報道から約1か月が経ちましたが、僕なりにレポートすることにしました。

まずは、新聞記事を見てみましょう。

無痛分娩で医療ミス、妊婦死亡 刑事告訴へ 神戸

神戸市中央区の「母と子の上田病院」で2015年8月、麻酔を使い出産時の痛みを和らげる無痛分娩(ぶんべん)で女児を産んだ女性が、担当した男性院長のミスで亡くなり、示談金を支払うことで遺族と同病院が示談していたことが18日、分かった。遺族は19日、男性院長を業務上過失致死の疑いで刑事告訴する方針。

亡くなったのは篠原稚子(わかこ)さん=当時(36)。遺族などによると、15年8月19日、同病院で無痛分娩による出産をした際、陣痛促進剤を多量に投与され、出産後に子宮内からの大量出血により重度の低酸素脳症を発症。意識不明の重体となり、約1年後に急性循環不全で死亡した

病院側は当初、羊水が血管内に流れ、血流を遮る「羊水塞栓症(ようすいそくせんしょう)」として責任を認めなかったが、後に過強陣痛の緩和や帝王切開など適切な対応をしていなかったとして男性院長のミスを認め、示談金を支払った。

欧米などでは一般的な出産方法で、国内でも手がける医療機関が増えている無痛分娩。篠原さんの兄(42)=同市垂水区=によると、篠原さんも2人目の出産に際し「初産では陣痛がひどくて長かったので」と選択。出産の4日前、親族と食事をした時は「今回は痛くなさそうで大丈夫そう」と話していたという。

出産は午前8時半から始まり、硬膜外麻酔が開始され、陣痛促進剤「オキシトシン」が多量に投与される中で異変が生じた。「頭が痛い」。寒気や吐き気など不調を訴えたが投与は続いた。その後、子どもは取り出されるも子宮などからの出血が止まらず、別の病院に搬送。「目を開けているのに目が見えない。死にたくない」。搬送中に話した一言が最後の言葉だった。

遺族によると、搬送先の病院で男性院長が「私は産婦人科をほとんどしておらず、ひよこだった」と弁明したという。「未熟で済むのか」。篠原さんの兄はずっと引っ掛かっていた。

遺族によると、男性院長は一度も謝罪に訪れていないという。大阪府和泉市の産婦人科医院で無痛分娩出産をした女性が亡くなったとして、4月に担当医師を業務上過失致死容疑で書類送検の方針との報道もあり、刑事告訴に踏み切った。

篠原さんの兄は「無痛分娩はリスクもあると認識すべきだ。産婦人科医と麻酔医の両方が立ち会うなど、未熟な医者が出ないよう対策を取る必要がある。被害者が二度と出ないようにしてほしい」と求めた。

病院側は「個人情報に関わることであり、コメントは差し控えたい」としている。

(篠原拓真)

(引用:神戸新聞NEXT

硬膜外麻酔と陣痛促進剤の組み合わせリスク

新聞記事にあるように、今回の事故は、硬膜外麻酔をした状態で陣痛促進剤を過剰投与したことが原因と考えられます。母体に起こった異変を列記すると、こうなります。

  • 頭痛
  • 寒気
  • 吐き気
  • 子宮などからの出血
  • 目を開けているのに目が見えない

母親が搬送中に発した最後の言葉「目を開けているのに目が見えない。死にたくない」は、あまりに壮絶で、慄然とさせられます。硬膜外麻酔と陣痛促進剤の組み合わせが、このような恐るべき異変を引き起こしたのです。

陣痛促進剤の過剰投与は、過強陣痛や強直性子宮収縮を引き起こし、次のような事態を招きます。

  • 胎児仮死
  • 子宮破裂
  • 剄管裂傷
  • 羊水塞栓

といった事態に至るリスクがありますが、今回の事故では、頭痛、悪寒、吐き気などの症状が起こっていて、目が見えなくなるという神経症状まで起こっています。

これは、硬膜外麻酔の処置にも問題が起こっていたことを示していると考えられます。硬膜穿孔によって脊髄に直接的に麻酔が効きすぎてしまう「全脊髄麻酔」の状態に陥っていたか、血中の麻酔濃度が上がることによる中毒症状が起こっていたか、もしくは麻酔薬に対する強いアレルギー反応が起こっていた可能性が考えられます。

いずれにしても今回の事故で被害者が示した症状は、硬膜外麻酔と陣痛促進剤という、どちらもリスクのある二つの処置にミスが重なることによって、より重大な結果をもたらしたことを示唆しています。

今後も無痛分娩の事故例は増えていく

関西で立て続けに5件の事故が明らかになりましたが、僕は今後も同様の報道が続くのではないかと思っています。おそらく、これまでに報じられた事例は、氷山の一角です。

なぜ僕がそう考えるかというと、麻酔科医があらゆる医療現場において、圧倒的に不足しているからです。

麻酔科医の数そのものは増加傾向ですが、手術件数がそれを上回るペースで増加していて、さらに、集中治療室やペインクリニック、ホスピス緩和ケア、在宅医療など、麻酔科医が求められる場が年々ふえていて、需要に供給が追い付いていないのです。

そんな中で、産科が麻酔科医を潤沢に確保できているはずがありません。大阪の事故では、産科医の院長自身が麻酔も担当していたことが分かっています。硬膜外麻酔は、素人ができるほど簡単なものではありません。

麻酔のコントロールに不安を抱えた状況で、陣痛促進剤の繊細な管理ができるとは思えません。今回明らかになった事故がすべて中小規模の産婦人科で起こっているのは、この規模の個人病院で、より深刻な人手不足が起こっていることを示しているのではないでしょうか。

ここ最近の事故報道を受けて、僕の意見ははっきりしてきました。医療的な事情(心臓や肺に病気を抱えているなど)で、医師の判断によって無痛分娩が選択されるケースを除いては、安易に無痛分娩を選んではいけません

どうしても希望する場合は、麻酔科医が万全な体制であるかどうかをしつこく確認してください。さらに、緊急時の搬送体制についても確認してください。それは旦那さんの仕事です。奥さんを必ず守る気概で臨んでほしいと思います。

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