「鉄欠乏性貧血」とは、鉄分の不足によって起こる貧血のことです。貧血は成人女性に多く見られますが、実は子供にも発症します。特に思春期には発症率が高まり、日々の生活にも影響を及ぼします。
鉄欠乏貧血とは
(他の記事にも書いているので繰り返しになってしまいますが)思春期の鉄欠乏性貧血について述べる前に、一般的な鉄欠乏性貧血の知識をお伝えしておきます。
鉄欠乏性貧血の基礎
まず「貧血」とは何でしょうか。「貧血」とは、血液中の赤血球の数やヘモグロビンの濃度が低い状態をいいます。
それでは、「鉄欠乏性貧血」とは何でしょうか。「鉄欠乏性貧血」とは、鉄分の不足が原因で起こる貧血のことです。鉄欠乏性貧血は貧血全体の7割を占める貧血ですが、必要な鉄分を摂取すればすぐに治せるのも鉄欠乏性貧血の特徴です。
(貧血の様々な種類については、こちらをご覧ください)
赤血球は酸素を運ぶ役割を持つ細胞で、細胞の中にヘモグロビンというタンパク質が存在します。ヘモグロビンは酸素と結合する性質があり、体内で酸素濃度の高い組織では酸素と結合し、酸素濃度の低い組織では酸素を手放すという特性があります。そのことによって、肺で取り込んだ酸素を体の隅々に運ぶことができます。
このヘモグロビンの構成要素として、もっとも重要なのが「鉄分」です。鉄欠乏性貧血は、鉄分の不足でヘモグロビンの合成が阻害されることによって貧血が起こるのです。
鉄欠乏性貧血の原因
鉄欠乏性貧血になる原因として、次のようなケースが挙げられます。
・消化管からの出血
・月経による出血
・偏食による鉄分の摂取不足
・胃切除などによる吸収障害
・身体の成長や妊娠に伴う鉄需要量の増大
一般的に、若い男性では胃や十二指腸の潰瘍や痔による消化管からの出血、若い女性では月経やダイエットによる鉄分の摂取不足、中年女性では子宮筋腫による月経過多が原因となることが多く、さらに男性女性ともに中高年以降では、胃癌や大腸癌が原因となることがあります。貧血の裏には、このような様々な病気が潜んでいる可能性があるので、注意が必要です。
貯蔵鉄(フェリチン)が空っぽに
貧血の症状が現れる段階に至ると、実は体内の鉄分不足はかなり深刻な状態になっています。
肝臓などの臓器には、鉄分を貯蔵する機能があります。鉄分の貯蔵を担っているのが「フェリチン」というたんぱく質です。フェリチンは鉄イオンを大量に抱え込むことができ、血液中の鉄分(鉄イオン)が減少すると、それを補うように鉄分を放出することができます。
ですので、鉄分が少しくらい減っても、貯蔵鉄が残っているうちは貧血の症状は起こりません。貧血の症状が起こるということは、貯蔵鉄がいよいよ空っぽになり、補給が間に合わなくなっているのです。
貯蔵鉄(フェリチン)の不足による貧血については、こちらの記事も参考になさってください。
【フェリチン不足による諸症状】潜在的な鉄分不足の原因と改善法
貯蔵鉄(フェリチン)を診断するための血液検査については、こちらをお読みください。
【フェリチンの血液検査】鉄分を補給する食事とサプリ
思春期の鉄欠乏性貧血
それでは、今回の本題である思春期の鉄欠乏性貧血について述べていきましょう。
(乳幼児の鉄欠乏貧血については、こちらをご覧ください)
(子供のかかる病気は、こちらにまとめています)
思春期とは何歳から何歳?
思春期とは、医学的に言うと「第二次性徴の発現の始まりから終わりまで」を意味します。始まりの年齢は、一般の平均を見ると、男子が11歳ごろ、女子が10歳ごろとなっています。終わりは18歳ごろとされています。
思春期の貧血の症状
乳幼児の鉄欠乏性貧血の場合、本人が症状を自覚できず訴えることもできないので、症状をとらえにくいのですが、思春期においては実に様々な症状が自覚されるようになります。次のような症状が挙げられます。
・顔色が悪い
・疲れやすい
・動悸
・息切れ
・注意力や集中力の低下
・持久力の低下
・記憶力の低下
・舌炎、口角炎
・あっかんべーした時、まぶたの裏が白い
・スプーン爪
・味覚異常
・粘膜萎縮による嚥下障害
・身長・体重の伸びの低下
・認知力の低下
女性に限定すると、思春期の女性のおよそ10%が治療を必要とする貧血、注意が必要な予備軍は20~30%にものぼると考えられています。
思春期の貧血の原因と特徴
思春期には男子、女子ともに、身体の急激な成長によって鉄分が不足しやすくなります。
女子では生理による失血が大きな原因となります。同時に大きな問題となるのが、無理なダイエットによる鉄分不足です。思春期には心にも大きな変化がみられ、自分の体形が気になって不適切なダイエットを行ってしまうことが多くなります。
男子はこの時期に骨や筋肉が急激に成長し、たくさんの鉄分やカルシウムが必要となります。成人男性が1日に必要とする鉄分の量は1mgですが、思春期の必要量はその2~3倍にもなります。そのため鉄分の不足が起こりやすく、貧血の発症頻度が高くなります。
また、まれにですが消化管出血(潰瘍)などが原因で貧血になることもあります。潰瘍の場合は出血のため便が黒くなります。
思春期の子供を責めないで
このように、思春期の子供たちのかなりの割合が、鉄欠乏性貧血の症状に苦しんでいます。
子供が学校を休みがちになったり、イライラしていたり、成績が下がってきたときには、「怠けている」ととらえて叱ったり責めたりする前に、鉄欠乏性貧血を疑ってみるべきかもしれません。鉄欠乏性貧血が原因なのであれば、鉄剤の治療によって様々な症状が改善し学力も向上しますから、早めに見つけてあげることが大切です。
診断基準
思春期では、血液検査でヘモグロビンがどのぐらいであれば貧血かという明確な基準はありません。参考に、世界保健機関(WHO)による貧血の診断基準を挙げておきましょう。
思春期にある男子のヘモグロビン値は12g/dL以上、15才からは成人と同じ13g/dL以上であれば貧血ではないとされます。
女子は成人と同じ12g/dL以上が基準となります。
こうした基準値からヘモグロビン濃度が著しく低下している場合を貧血と表現します。
スポーツ貧血
スポーツ貧血は鉄欠乏性貧血とは異なり、溶血性貧血の一種になりますが、思春期に多く見られる貧血ということで、ここでご紹介します。
思春期の子供たちの中には、運動系の部活に入って、毎日激しい練習をしている人も多いことでしょう。こうした激しい運動が原因となる貧血が、「スポーツ貧血」です。これは、激しい運動によって赤血球が破壊されることで発症します。
動脈や静脈の壁はそれなりに厚みを持っていますが、酸素の受け渡しの場である毛細血管の壁は薄くなっています。足の裏などは運動によって何度も繰り返して強い衝撃が加えられる部位であるため、その中を流れる赤血球が壊されてしまいます。
足の裏に何度も強力な衝撃が加えられるスポーツといえば、長距離走や剣道、バスケットボールやバレーボールなどが挙げられます。延々と行進する軍隊で貧血に陥る兵隊が多く出たことから、「行軍貧血」と呼ばれることもあります。
スポーツ貧血は鉄欠乏性貧血と違って、鉄分を補っても、すぐに改善するわけではありません。根本的な解決作としては、運動を休止するしかありません。
本人は一日も休まずに練習に参加したいと言うかもしれませんが、貧血の症状は生活に大きな影響を及ぼしますし、発育にも問題が生じかねませんので、医師に相談して一定期間きちんと休養をとるよう、周りの大人がサポートすることが必要になります。
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思春期のダイエットは禁物
思春期には鉄分に限らず、様々な栄養素をバランスよく摂取することが必要になります。
急激に大きくなっていく身体に酸素や栄養を行きわたらせるためには、無理なダイエットをしたり、朝食を抜いたり、偏食したりすることは、絶対に避けなければなりません。
「自分はダイエットしなければ魅力的になれない」などという間違った思い込みを持たなくてもいいように、周りの大人の適切な声かけによって、本人が健全な自己肯定感を育んでいくことが重要になります。
食事療法のポイントは「ヘム鉄」
思春期の貧血を予防・改善するためのポイントは、鉄分、タンパク質、ビタミン類を十分に含んだ栄養バランスのよい食事を1日3食きちんと摂る事と、睡眠不足にならないような規則正しい生活をすることです。
食事に関して言うと、鉄欠乏性貧血の治療には、動物性食品に含まれる「ヘム鉄」が圧倒的に有効です。植物性食品に含まれれる「非ヘム鉄」は吸収率が低く、貧血の治療に即効性がありません。レバーをはじめとする動物性の食材を、しっかり食べるようにしたいものです。
薬で治す
血液検査で鉄欠乏性貧血であると診断されたら、鉄剤を3~6か月間ほど服用します。ビタミンCを豊富に含む野菜や果物を積極的に摂ることで、鉄分の吸収を高めることができます。
貧血が改善されているかどうかは、血液検査を行えば分かります。鉄剤を飲み始めて1~2か月で貧血状態そのものは改善します。ですが、そこで服用をやめてはいけません。重要なのは、貯蔵鉄(フェリチン)が十分に蓄えられているかどうかです。貯蔵鉄を十分に蓄えるためには、半年はしっかり服用を続けた方がいいとされています。医師の指示をしっかり聞くようにしましょう。
再び鉄欠乏性貧血にならないために
食事療法や鉄剤の服用によって鉄欠乏性貧血がいったん回復したとしても、再発しないためには、継続的なケアが必要になります。
鉄分の多い食材を継続的に摂るようにしたり、予防のために鉄分のサプリメントを摂取するのことも手です。サプリメント以外にも、飲みやすい青汁や鉄分を多く含んだ野菜ジュースなどもあります。取り入れてみてください。
おだいじになさってください
思春期には心身に様々な症状が起こります。その原因として、鉄欠乏性貧血やスポーツ貧血があることを、まずは知っておいていただきたいと思います。周りの大人にの知識があるだけで、「怠けているだけだ」などといった間違ったとらえ方をせしなくてすみます。不調の原因を正しく見極めてあげて、適切なケアで健康的な生活を取り戻すことができるよう、サポートしてあげてください。