「反応性低血糖症」という病名をご存じでしょうか。「機能性低血糖症」と呼ばれることもあります。
おそらく、ほとんどの方にはなじみがないと思いますが、実は現代人の多くが潜在的にこの症状を抱えている可能性があります。
僕の妻は、長年にわたって「起きられない」「疲れやすい」「うつ傾向」「イライラ」「不安」などの症状を抱え、心療内科でうつと診断されて薬漬けにされてしまったという苦しい経験を持っています。
ですが、これらの症状は、「反応性低血糖症」の症状とそのまま重なるのです。もしそうだとすると、治療の方針はうつの治療とはまったく違ったものになります。
また、高校生の娘も、思春期になってから「起きられない」「忘れっぽい」「生あくびばかりしている」「いつも空腹感がある」「じとっとした態度」などの問題が出てきて、生活に支障が現れるようになりました。
ADHDなどの発達障害も疑われましたが、それだけでは説明がつかない点もありました。これらの症状もまさに「反応性低血糖症」の症状と重なるのです。
妻と娘は「反応性低血糖症」なのかどうかを診断する検査を受け、結果はまさに予想した通りでした。
「反応性低血糖症」とは、どのような病気なのか。検査や治療なども含めて、この記事をまとめることにしました。
反応性低血糖症とは
正常な人の血糖値は、だいたい70〜120mg/dlの間と言われています。食事をしたあとに一時的にゆるやかに上昇するものの、インスリンというホルモンが適切に分泌されることで、血糖値は正常値内に維持されます。
ですが、食事のあと、インスリンが適切に分泌されず異常なふるまいをすると、血糖値が乱高下し、様々な症状を引き起こします。
「反応性低血糖症」の人の場合、食事のあと、まず血糖値が急激に上昇します。そしてそれに反応する形で、今度はインスリンが異常に大量に分泌されます。その結果、急上昇した血糖値が今度は急激に降下して、もとの血糖値を大幅に下回り、70mg/dlを下回ってしまうのです。
つまり「反応性低血糖症」というのは、血糖値が低い状態を指すのではなく、インスリンの分泌異常によって、血糖値が乱高下して正常範囲内に維持できない状態ということができます。
2016年のAKB48選抜総選挙で14位に入った岡田奈々さん18歳が、そのスピーチで自分が機能性低血糖症(反応性低血糖症と同じ)であることを告白し話題になりました。彼女のケースについても記事を更新しましたので、ご覧ください。



反応性低血糖症の症状
食事のあと、一気に上昇した血糖値が急降下に転じるときに、様々な症状が現れます。
まず考えられるのは、血糖値が70mg/dlを下回り、エネルギー源が不足することによって起こる諸症状です。次のような症状が挙げられます。
- 異常な疲労感
- 起床時の無力感
- 日中特に昼食後の眠たさ
- 集中力の欠如
- めまい
- ふらつき
- 物忘れ
- 眼のかすみ
- 目前暗黒感
- 日光がまぶしい
- 甘い物を渇望する
- 口臭
- 失神発作
- 偏頭痛 ほか
次に考えられるのは、血糖値の急降下が引き金となって、アドレナリンやグルカゴンといったホルモンが異常分泌されることによって起こる諸症状です。以下のような症状が挙げられます。
- 手足の冷え
- 動機
- 頻脈
- 緊張
- 興奮
- 呼吸が浅い
- 神経過敏
- イライラ
- 攻撃的になる
- うつ
- 自律神経の乱れ
- 不眠
- 悪夢
- 恐怖感
- 焦燥感
- 感情表現の欠如
- 自殺観念
- 幻覚、幻聴
- 精神錯乱 ほか
このように症状が多岐にわたること、そして「反応性低血糖症」という概念が、いまの医療界でまだ認知されていないために、誤った診断を下されることが非常に多くなっています。
特に、統合失調症、うつ病、パニック障害、慢性疲労症候群、ADHDなどと誤診されるケースが多いと考えられます。
僕の妻も、うつ病と診断されて大量の薬を飲まされましたが、効果は上がりませんでした。むしろ薬の副作用に悩まされ、それを抑えるために、また薬が足されるという悪循環に陥りました。
心療内科や精神科の医師は、こういう患者に対して、「ほかの病気の可能性がある」とは決して言いません。どんどん強い薬を出して薬漬けにし、取り返しのつかないところまで追い込んでも平気なのです。
「これは、違う疾患なのではないか」と考えるのは、患者の家族に課された責任なのです。
上記の諸症状の多くに重なる方、これまでに様々な病院にかかっても改善しない方は、「反応性低血糖症」を疑ってみてもいいかもしれません。
反応性低血糖症は脳と精神に影響を及ぼす
脳はとても贅沢な臓器です。なぜなら、栄養源として「ブドウ糖」しか受け付けないからです。身体の他の臓器や組織は、炭水化物以外のたんぱく質や脂質などを燃焼することでもエネルギーを得ることができますが、脳だけは炭水化物の分解物であるブドウ糖のみをエネルギー源にしているのです。
ですので、血糖値の急降下は、直接的に脳の働きに影響を与えます。
血糖値が70mg/dlを下回ると、冷静な思考を保てなくなり、感情的になる、注意力が低下するなどの症状が表れます。
低下するに従って倦怠感、無気力、冷や汗、顔面蒼白、頭痛、手の震え、混乱、異常行動へと発展し、40mg/dl以下になると意識障害、昏睡の危険性も出てきます。
身体はこういった危険を回避するため、血糖値が降下する時にはアドレナリン、グルカゴン、ノルアドレナリンといった血糖を上げるホルモンを分泌します。
これらのホルモンは交感神経を興奮させ、人を「闘争」あるいは「逃避」へと向かわせます。興奮、緊張、怒り、攻撃、不安、過敏などといった感情を煽り立てるのです。
こういったホルモンの働きは、生命維持のため自然に備えられているものですが、血糖値が正常にコントロールできない人は、これらのホルモンの過剰分泌が繰り返されることになります。
ここに挙げたような脳と精神に関わるような症状を起こすため、反応性低血糖症は精神的な病気と誤診されることが後を絶たないのです。
反応性低血糖症の検査
反応性低血糖症は、検査によって診断が可能です。そういう意味で、科学的根拠があいまいな精神的な病気の診断に比べて、明確な診断が期待できます。
その検査方法といのが、「5時間糖負荷検査」です。空腹時(12時間以上、水以外を摂取しない)に採血を行い、その後75gのブドウ糖が含まれた医療用のジュースを飲みます。その後、5時間にわたり合計9回の採血を行い、血糖値とインスリンの分泌量の変化を測定します。
正常な場合の検査結果
出典:新宿溝口クリニック
ジュースを飲んだ後、血糖値はゆるやかに上昇し、30〜60分後に最高値を記録します。
それに応じてインスリンが適量分泌されます。インスリンの働きによって、その後、血糖値は緩やかに下降していきます。血糖が下がり始めるとインスリン濃度もすぐに減少します。
約3時間で空腹時の血糖と同程度まで下がり、その後はほぼ一定の値を保ちます。
反応性低血糖症の場合の検査結果
出典:新宿溝口クリニック
ジュースを飲んだ後、血糖値は急激に上昇します。最高値も正常の場合に比べて高くなります。インスリンの分泌量も、正常に比べて過剰であることが分かります。
過剰なインスリンに反応する形で、その後、血糖値は急激な下降を示します。血糖値が低下しても、インスリンの大量の分泌がしばらく止まらないのが特徴的です。急降下した血糖値は、もとの値を大きく下回り、正常値の下限である70mg/dlを下回ります。
その後も特徴的な動きを示しています。下がりすぎた血糖値に反応して、おそらくアドレナリンやグルカゴンなどの血糖値を上げるホルモンの働きによって、再び血糖値が上がりはじめます。
そして、上がった血糖値に反応する形で、またインスリンの分泌が増えて、血糖値はまたまた下がりはじめて…という乱高下を繰り返すのです。この急激な変化が、身体的にも精神的にも様々な症状を引き起こすことになるのです。
反応性低血糖症の治療法
残念ながら、確立された治療法や効果が確認されている薬は存在しません。せっかく検査を受けて診断が下されても、治療法がないのでは…と暗澹たる気持ちになりますが、嘆いてばかりもいられないので、できることを挙げていきましょう。
食事の工夫
血糖値を急激に上げないような食生活を目指します。一つには、一気にたくさん食べず、少しずつ、回数を増やして食べるという方法です。
もう一つは、すぐに分解されず、ゆっくり血糖値を上げるような食材に切り替えることです。こうした食事の工夫については、こちらの記事を参考にしてください。

サプリメント
反応性低血糖症の検査をしてくれる病院のほとんどが、結局のところ治療法を持っておらず、食事の指導くらいしかできない中、いくつかのクリニックがサプリメントを用いた治療を提示しています。
僕も妻の治療のために、一時検討したことがありましたが、経済的な理由で断念しました。1か月のサプリメント代が5~6万円はかかってしまうというのです。本当に効果があるのか、試してみる価値はあるかもしれませんが、一般庶民にはちょっと厳しいものがありますよね…
「治療法」としてブドウ糖を摂取してはいけない
「低血糖 治療」などと検索すると、多くのサイトで、応急的な治療法として「ブドウ糖を摂取」と書かれています。
しかし、これには注意が必要です。反応性低血糖症の場合、対症療法としてブドウ糖を摂取するというのは、絶対にやってはいけないのです。ここまでに書いてきたように、ブドウ糖を摂取してしまうと、それに反応してまたインスリンが過剰分泌されてしまい、低血糖状態がさらに悪化する恐れがあるからです。
ではなぜ「ブドウ糖を摂取」するような応急治療が記述されているかというと、これは糖尿病患者がインスリンの注射を誤って投与しすぎたりして起こる「低血糖状態」への対症療法として書かれているのです。
これを間違って解釈して、反応性低血糖に対する治療だと思ってはいけません(そのような間違いで書かれている記事もあるので要注意です)。
他の病気の可能性について
上記の症状と同じような症状を引き起こす他の病気の可能性として、次のようなケースが考えられます。
潜在的な鉄欠乏性貧血
女性に多く見られるものです。ヘモグロビンの値に異常がなくても、肝臓や腎臓の組織に貯蔵されるべき鉄分が欠乏している場合に、同じような症状を現すことがあります。以下の記事を参考にしてみてください。



月経前症候群=PMS
これは女性限定ですが、月経(生理)前に、精神的にも身体的にも様々な症状を呈する病気です。サプリメントや低容量ピルといった緩和するための選択肢もあるので、気になる方は婦人科で一度相談することをオススメします。次の記事を参考にしてみてください。



おだいじになさってください
反応性低血糖症の症状として挙げたものは、どれもとてもつらいものばかりです。これを他の病気、特に精神的な病気と誤診されてしまった場合、その損失は計り知れないくらい大きなものになってしまいます。
身体の機能的な障害である反応性低血糖症であることが検査で判明すれば、確立した治療法がないとは言え、間違った薬を飲まされるよりもずっと望みがあると思います。
あなたや、あなたの大事な人が、上記の諸症状で苦しんでいたら、糖負荷検査を受けるのは、決して無駄な選択ではないはずです。僕の妻と娘が来週この検査を受け、反応性低血糖症であることが分かりました。
皆さんのお役に立てば幸いです。