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米津玄師『海の幽霊』の壮大なサウンドを奏でる「Ensemble FOVE」とは何者か

米津玄師「海の幽霊」イメージ くじら

こんにちは。そなてぃねです。

2019年5月27日に動画公開された米津玄師さんの新曲『海の幽霊』。

動画再生回数が3日目の今日時点(5月30日)で、早くも800万回を超えるなど、異次元の感動を呼んでいます。

この楽曲は、映画『海獣の子供』(2019年6月7日公開)のメインテーマとして書かれました。

米津玄師さんの楽曲と歌声が素晴らしいのは言うまでもありませんが、その世界観に重要な役割を果たしているのは、壮大なオーケストラサウンドです。

演奏は、Ensemble FOVE(アンサンブル・フォーヴ)。彼らは、クラシック音楽の演奏家でありながら、世界最先端とも言える新しいサウンドを生み出している現代音楽集団です。

この記事では、米津玄師さんの新たな名曲『海の幽霊』において、Ensemble FOVEが果たしている役割について述べたいと思います。

米津玄師「海の幽霊」

▼米津玄師さんが、2019年5月27日に発表した『海の幽霊』の動画がこちら。

やはり圧倒的に素晴らしい楽曲と歌声です…

映像は、2019年6月7日公開の映画『海獣の子供』です。

繊細で幻想的な描画も圧巻で、五感をフルに集中しても、味わい尽くすことができません。

ぜひ一度、目を閉じて音楽だけに耳を傾けて聴いてみてください。

壮大な音響が、どのように作り上げられているか、感じ取ってみてください。

幾重にも複雑にミキシングされた響きの中に、電子音では絶対に出すことのできいない、血の通ったオーケストラ・サウンドが聴こえてくるでしょう。

これを演奏しているのが、Ensemble FOVEなのです。

▼映画『海獣の子供』の感想です。

参考 映画『海獣の子供』感想げんきリズム

Ensemble FOVEとは

Ensemble FOVEは、現代作曲家の坂東祐大(ばんどう・ゆうた)さんが主宰する若手演奏家集団です。

坂東さんは、クラシック音楽の素養をベースとしながらも、ロックやジャズにも通じた次世代のクリエイターとして注目されています。

坂東さんの東京藝大時代の仲間を中心に、ソリスト級の腕を持つ気鋭のプレイヤーが集結したのがEnsemble FOVEです。

僕は以前から彼らのファンで、実験的な試みが話題となったライブ・パフォーマンスを、いくつか体感しました。

鋭い感性と、枠にとらわれない遊び心にあふれた彼らの演奏は、クラシック音楽の新時代を感じさせるものでした。

▼Ensemble FOVEのライブに行った感想です。

ensemble fove trans【演奏会の感想】Ensemble FOVE「TRANS」若き作曲家と演奏家たちの挑戦(2018年12月 京都芸術センター)ensemble fove sonar field【演奏会の感想】Ensemble FOVE「SONAR-FIELD」新時代の音響アトラクション(2019年3月 東京)

Ensemble FOVEのメンバー

▼『海の幽霊』のレコーディングに参加したメンバーは、Ensemble FOVEの公式サイトによると、こちら。

  • Flute : 多久 潤一朗 *
  • Oboe : 荒木 奏美 *
  • Clarinet : 三界達義
  • Bassoon : 中川ヒデ鷹 *
  • Saxophone : 上野耕平 *

 

  • Horn : 矢野健太 鈴木優
  • Trumpet : 閏間健太
  • Tenor Trombone : 高瀬新太郎
  • Bass Trombone 菅原薫
  • Tuba 田村優弥

 

  • Percussion : 大家 一将*
  • Harp : 池城菜香

 

  • 1st Violin : 戸原 直 * 伊藤 亜美* 對馬佳祐 武田桃子 高橋奈緒 前田奈緒 中村友希乃 印田千裕
  • 2nd Violin : 町田 匡 * 須山暢大 田中李々 堀真亜菜
  • Viola : 安達 真理* 多井千洋 千原正裕
  • Violoncello : 山澤慧 加藤文枝 夏秋裕一
  • Contrabass : 篠崎 和紀* 地代所 悠 * 布施砂丘彦 米光椋

 

(* Ensemble FOVE soloists)

メンバーの多くは、東京藝術大学を卒業した20代~30代前半。凄腕ぞろいで、ソリストとして世界で勝負できる人材が何人もいます。

まさに、これからの日本のクラシック音楽界・現代音楽界を背負って立つ新進気鋭の演奏家たちです。

米津玄師との共演はクラシック音楽業界の事件

Ensemble FOVEのメンバーたちにとって、米津玄師さんとの共演は、どのような出来事だったのでしょう。

彼らは、クラシック音楽の世界でいくら優秀とは言っても、世間に広く認知されているわけではありません。

そんな知られざる演奏家たちが、代表曲『Lemon』の再生回数3億8800万回(2019年5月30日現在)という前代未聞のモンスター級アーティスト米津玄師さんとコラボレーションしたのです。

これは、彼らにとってだけでなく、クラシック音楽業界にとって、ひとつの「事件」ではないかと思います。

僕は、この事件を喜びたい。

才能に溢れた若手プレイヤーたちが、クラシック音楽の枠を超えた最前線の音楽シーンで、存在感を見せつけてくれたのだから。

鍛え上げられたクラシックの音楽家が、いかにクリエイティブな存在かを、示してくれたのだから。

メンバーのツイート

Ensemble FOVEのメンバーは、米津玄師さんとの共演についてツイートをしています。

先ほどのメンバー表で「*」印のついたコアメンバーを中心に、ご紹介していきます。

作曲家・坂東祐大さん

まず、Ensemble FOVEの主宰であり、今回のオーケストラ・アレンジを担当した、作曲家・坂東祐大さんのツイート。

ツイートはあっさりしていますが、オーケストラ・アレンジでは抜群の才能を発揮しています。

坂東さんは米津玄師さんと同じ1991年生まれの28歳。同い年の二人の天才が、どんなやり取りをしながら楽曲を作り上げていったのか、想像するだけでドキドキしちゃいます。

フルート 多久 潤一朗さん

米津さんの新曲をご一緒させていただきました。坂東くんのアレンジが光る今作品。キックとスネアの硬派な使い方やジョージ・クラム<鯨の歌>ばりの弦楽器ホエールトーンが大量に鳴り響く2:20~が素敵。僕も特殊奏法(差音クジラ)で鯨の声を出してるんですけど自分でどれかわからない(涙)

多久さんは特殊奏法の鬼みたいな人で、独自の境地を切り開いている変態的な凄腕フルーティストです。

彼がツイートしているように、2:20からの短い間奏で、弦楽器群がグリッサンドで下降していくところは重要な聴きどころです。

海底に吸い込まれていくかのような感覚は、電子音では絶対に出せない、オーケストラだからこそ表現できる響きだと思います。

ファゴット 中川ヒデ鷹 さん

さらっとしたツイートですが、中川さんご自身はかなりインパクトの強烈な方です。

現代音楽のスペシャリストで、ファゴット1本で複雑な和音を吹いたり、楽器の先にアルミホイルを巻いて宇宙人みたいな音を出したりできる人です。

その腕前は世界屈指のレベル。以前ソロリサイタルに行ったときは、トークで何をしゃべっているのか全然分かりませんでした。

こういう超個性的なプレイヤーが、米津玄師さんの作品に参加していることを、知ってもらいたいです。

サクソフォン 上野耕平さん

上野さんは今もっとも売れっ子のサクソフォン奏者のひとり。バッハから現代音楽まで、切れ味鋭いテクニックとセンスで聴かせます。

彼のソロは、おそらく3:40からの後奏と思われます。ぜひ耳を傾けてみてください。

パーカッション 大家 一将さん

随所で聴こえてくる硬めの打音は、大家さんによるものでしょうか。すごくエッジの効いた音が聴こえてきます。

バイオリン 伊藤亜美さん

Ensemble FOVEの顔とも言える華のある方で、弦楽四重奏を聴きに行ったことがありますが、ほんと素晴らしいバイオリニストです。

SONAR-FIELD」のライブでは、笛をピーピー吹きながら会場をぐるぐる走り回ったりして、かなりはじけた一面も持っておられます。

「未来に希望が持てる創作現場」って、どんな現場だったんだろう…!

ビオラ 安達 真理さん

長年ヨーロッパで活躍された方で、艶のある、いい香りの音色を持ったビオラ奏者。

目立つポジションではありませんが、安達さんの美しい音が中音域を支えているというのは、実は全体のサウンドに大きく影響していると思います。

コントラバス 地代所 悠さん

コントラバスでゴジラの鳴き声をやらせたら右に出る者はいないと言われている方です。

曲の冒頭から、低音のロングトーンが楽曲の世界観を支えています。

遠く深海から聴こえてくるような響きは、『海の幽霊』を象徴しているように感じます。

米津玄師さんの歌声が炸裂するサビでは、4人のコントラバスが地響きのように鳴って、壮大な世界を描いています。

Ensemble FOVEでなければならなかった

ここまで紹介したツイートは、Ensemble FOVEのメンバーのごく一部のものです。他にも、鋭い感覚を持ったプレイヤーたちが、「海の幽霊」に関わっていることを知ってほしいです。

もちろん、ポップスの多くの楽曲には、ホーンセクション(金管楽器)やストリングス(弦楽器)が当たり前に使われています。

ですが『海の幽霊』におけるEnsemble FOVEの位置づけは、通常とは違うような気がします。

楽曲の世界観の構築に、彼らはより主体的に関わっているのではないでしょうか。

クラシック音楽の一流の演奏家であり、現代音楽のスペシャリストであり、新たなライブ・パフォーマンスの開拓者でもあるEnsemble FOVEは、唯一無二の存在です。

米津玄師という時代の寵児とのコラボレーションは、Ensemble FOVEだからこそできたのだと、僕は思います。

あとがき

この記事を書くたった数時間のうちにも、『海の幽霊』の再生回数は信じられない速度で上がっていきます。

この楽曲をきっかけに、Ensemble FOVEの存在は多くの人に知られることになるでしょう。

僕はそれがすごくうれしい。彼らの表現力は、ポップスの楽曲制作のあり方に、新たな可能性を提示したのではないかと思います。

そして、近い将来、彼らのパフォーマンスは、世界を驚かせることになるでしょう。

▼映画『海獣の子供』の感想はこちら。

参考 映画『海獣の子供』感想げんきリズム

▼Ensemble FOVEのライブに行った感想です。

ensemble fove trans【演奏会の感想】Ensemble FOVE「TRANS」若き作曲家と演奏家たちの挑戦(2018年12月 京都芸術センター)ensemble fove sonar field【演奏会の感想】Ensemble FOVE「SONAR-FIELD」新時代の音響アトラクション(2019年3月 東京)

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