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【演奏会の感想】増山頌子チェロ・リサイタル 美しい織物のようにー(2019年8月 いずみホール)

増山頌子チェロ チラシ

こんにちは。そなてぃねです。

増山頌子(ましやま・しょうこ)さんというチェリストの演奏会に行きました。

大阪交響楽団の副首席奏者を務める若い女性奏者です。

丁寧に織り上げられた美しい織物のような、ひたむきな音楽を聴かせてくれました。

今日は、2019年8月に大阪のいずみホールで行われたリサイタルの感想を書きます。

演奏会の概要

【増山頌子チェロ・リサイタル】

  1. ヴィヴァルディ作曲
    チェロ・ソナタ第5番 ホ短調 作品14-5 RV40
  2. メンデルスゾーン作曲
    チェロ・ソナタ第2番 ニ長調 作品58
  3. ショパン作曲
    序奏と華麗なるポロネーズ ハ長調 作品3
  4. ブラームス作曲
    チェロ・ソナタ第2番 へ長調 作品99

 

チェロ:増山頌子

ピアノ:久保山菜摘

 

2019年8月27日(火)19:00~

いずみホール(大阪市)

 

そなてぃね感激度 ★★★★☆

チェリスト 増山頌子さん

増山頌子(ましやま・しょうこ)さんは、5歳でチェロを始めたときから現在まで、名チェリスト毛利伯郎さんに師事。毛利さんが教授を務める桐朋学園大学を出ています。

コンクールでは大きな受賞歴があるわけではないようですが、ピーター・ウィスペルウェイやジャン・ワンといった世界的な音楽家のマスタークラスに参加。室内楽もジュリアード弦楽四重奏団など名だたる名手の指導を受けています。

2016年7月、大阪交響楽団に副首席奏者として入団。丸3年を経て、今回が初めてのソロ・リサイタルだったようです。

びわ湖ホールで聴いた無料コンサートから

僕が増山頌子さんを知ったのは、2019年5月に「びわ湖クラシック音楽祭2019」で、たまたま聴いた無料コンサートでした。

びわ湖ホールの外構が差し込む明るいロビーには仮設のステージが組まれ、音楽祭の2日間は、入れ代わり立ち代わり様々な演奏家が無料コンサートを行うのです。

増山さんは、その一人でした。ロビーのレストランでランチをとっていた僕は、ステージから聞こえてくる伸びやかなチェロの音色に気付きました。

そして、8月に行われるソロ・リサイタルのことを知り、ずっと楽しみにしていたのでした。

一晩にチェロ・ソナタを3曲!

今回のソロ・リサイタルは、チェロ・ソナタが3曲も並ぶ意欲的なプログラム。増山さんのこの演奏会にかける思いの強さが伝わってきました。

1曲目のヴィヴァルディは、気品ある悲しみを湛えた落ち着いた曲調。

2曲目のメンデルスゾーンは、若々しく天空を駆けていくような作品。

そしてメインのブラームスは、雄大なスケールと王者の風格を持つ大曲です。

これらに加えて、ショパンの華やかなポロネーズ。チェロの様々な魅了を詰め込んだ、充実した内容のリサイタルでした。

丁寧に織り上げられた美しい織物のように

増山さんは、よどみない弓の運びで、楽器を自然に響かせていました。

開け放たれた窓から、鳥たちが大空に飛び立つような音。

小柄で華奢な増山さんが、楽器と一体になっている姿は、自然体でとても美しかったです。

奏でる音楽も、力んだところがなく、丁寧に織り上げられた美しい織物のようでした。

そんな彼女の美点は、最後のブラームスで最も大きく結実していたように思います。

ブラームスを弾き切ったときの清々しい表情

チェロ・ソナタ第2番は、ブラームスが53歳の頃の作品。4つの交響曲すべてを書き上げた後の、円熟の極みともいうべき時期に書かれました。

僕は高校生のころから、ロストロポーヴィチとルドルフ・ゼルキンの名盤を愛聴してきました。

楽器の裏板がビリビリと鳴るような圧倒的な美音で奏でられる巨大な音楽。

そういう大巨匠の演奏を聴いて育ったので、増山頌子さんの少し線の細い音で、この大曲にどう立ち向かうのだろう… と実はちょっと心配していました。

ですが、その心配は杞憂に終わりました。

増山さんは、この大曲を前にしても、決して力むことなく、細部まで丁寧に「歌」を織り込んでいきました。

ひたむきな目線を前に向けて、しっかりした足取りで4つの楽章を歩んでいきました。

特に第2楽章の、涙がこぼれそうな美しい旋律は、心に深く染み入りました。深い呼吸。果てしない放物線。本当に美しい「歌」でした。

そして第4楽章の最後。長い旅路の果てに織り上げられた「歌の織物」は、紺碧の空にたなびく大きな旗のように陽光に輝いていました。

最後の一音を弾き切った瞬間の清々しい表情を、僕は忘れることができません。

特筆すべきピアニスト久保山菜摘さん

忘れてならないのは、ピアニスト久保山菜摘(くぼやま・なつみ)さんの存在です。

久保山さんは、1992年生まれの27歳。プロフィールに印象的なことが書かれていました。

5年生の平和学習で「世界中には苦しんでいる人達が沢山いる」ということを知り、6年生よりチャリティーコンサートを開催し、今年で15年目を迎える。

演奏家のプロフィールは、たいていはコンクールの受賞歴で埋め尽くされているもの。こういう経歴は初めて見ました。

小学生が自らの意思でチャリティーコンサートを開き、それを15年も継続するというのは、簡単なことではなかったはずです。

真面目に「お稽古」することが求められるクラシックの演奏家には、彼女のように「自ら道を切り開く」タイプの人は珍しいと思います。

そういう人生が反映しているのか、彼女の演奏からは、あふれるような表現意欲が伝わってきました。

特にブラームスでは、随所でキラリと光る表現が聴かれ、それが実にセンスがいいのです。

今回の公演は「増山頌子/久保山菜摘 デュオ・リサイタル」というタイトルでもよかったかもしれません。

あとがき

増山頌子さんは、決して著名なソリストというわけではありません。

大阪交響楽団という地方オーケストラの副首席奏者です。

それが、これだけ質の高いソロを聴かせてくれるというのは、大きな発見でした。

オケの仕事は多忙でしょうから、なかなかリサイタルの機会はないかもしれませんが、今後の活躍を楽しみにしています。

それにしても、長い髪の毛を結い上げて、深い紫色の衣装に身を包んだ増山頌子さんは、本当にかわいらしい方でした。

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