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【演劇の感想】三谷幸喜『愛と哀しみのシャーロック・ホームズ』(2019年9月 世田谷パブリックシアター)

こんにちは。えいぷりおです。

2019年9月1日(日)、三谷幸喜脚本・演出愛と哀しみのシャーロック・ホームズを観に行きました。

若き日の名探偵の、ある一晩の出来事を描いた成長の物語。楽しくも切ない、素晴らしい舞台でした。

この記事では、ネタバレにならない範囲で、僕の感想を書き留めます。

舞台の概要

『愛と哀しみのシャーロック・ホームズ』

 

作・演出:三谷幸喜

 

キャスト
柿澤勇人:シャーロック・ホームズ
佐藤二朗:ジョン・H・ワトソン
広瀬アリス:ヴァイオレット
八木亜希子:ミセス・ワトソン
横田栄司:マイクロフト・ホームズ
はいだしょうこ:ハドソン夫人
迫田孝也:レストレイド警部

 

音楽・演奏:荻野清子

 

2019年9月1日(日)18:00~
世田谷パブリックシアター

 

えいぷりお満足度 ★★★★★(星5つ)

若き日のシャーロック・ホームズの物語

公式サイトには、この作品の内容について、次のように書かれています。

ホームズとワトソンがベーカー街221bで同居を始めたのは、1881年の1月といわれています。これは、彼ら名コンビが出会ってから、「緋色の研究」で描かれた最初の事件に遭遇するまでの数ヶ月間の物語。

ホームズはまだ二十代の若者。

人間としても探偵としても未完成のシャーロックが直面する、人生最初で最大の試練とは?

コナン・ドイルが描いた名探偵シャーロック・ホームズが、いかにして名探偵になったのか。その知られざる原点に光を当てたのが、今回の三谷作品です。

7人の役者が最高だった

7人の役者が、それぞれの持ち味を存分に発揮して、本当に素晴らしかったです。

シャーロック・ホームズ:柿澤勇人

三谷幸喜さんの描くシャーロック・ホームズのイメージは、公式サイトにこう書かれています。

風変わりで、天真爛漫で、天才肌で、自己中心的で、尊大で、ナイーブで、心に闇を秘めている、若き名探偵

柿澤勇人さんは、このシャーロック像を見事に演じきっていました。ほんと、圧巻でした。

物語のラスト、相棒ワトソンの誰にも打ち明けられなかった苦悩を知って涙を流すシーンは、もはや演技ではありませんでした。魂からあふれる涙でした。

コミュニケーションに難のあるシャーロックが、大切な友人を心の底から思って「僕に相談してほしかった。僕ももっと早く気付いてあげたかった」と感情を吐露する。その姿に胸を打たれました。

シャーロックを、ただの天才としてではなく、発達障害の傾向がある人物と捉えた設定は新鮮でした。

彼と同じように生きづらさを抱える多くの人たち、そしてそういう人のそばにいて悩んでいる人たちには、共感を呼ぶ人物像だったと思います。

ワトソン:佐藤二朗

佐藤二朗さん、最高でした。存在そのものに父性が満ちていて、どんな瞬間も優しさを湛えていました。

終盤で明らかになる彼の知られざる苦悩も、佐藤さんの朴訥とした佇まいだからこそ、より雄弁に表現されていて、胸に迫ってくるものがありました。

ヴァイオレット:広瀬アリス

彼女は最高のコメディエンヌでした。要所で見せる彼女のユーモラスな表情に、会場は大いにほころんでいました。爆笑を誘うシーンがいくつもありました。

三谷幸喜さんが「無防備な笑顔」と評した広瀬アリスさんの人柄が、そのまま生かされた自然体の演技に、心から楽しませてもらいました。

ミセス・ワトソン:八木亜希子

ワトソンの妻。優秀な女医でありながら、裏の顔を持つ美魔女です。背筋の伸びた彼女の凛とした存在感は、舞台をぐっと引き締めていました。

2幕の冒頭では、これまでに見たことのないチャーミングな八木亜希子さんを見ることができますよ。

マイクロフト・ホームズ:横田栄司

すごい迫力。横田さんはテレビの画面よりも生の舞台の方が、全身から放射されるエナジーが伝わってきて、魅力的です。

シャーロックの兄。弟への愛情と嫉妬の間で葛藤する心理が、ごく自然に表現されていて、しっかりと腹に落ちました。

オペラで言うところのバス・バリトンあたりの役どころでしょうか。軽やかに舞うシャーロックの対となる存在として、舞台に重厚感を与えていました。

ハドソン夫人:はいだしょうこ

僕の長女が幼いころの「おかあさんといっしょ」歌のお姉さん(2003~2008年)。その後の活躍はあまり知りませんでしたが、特徴ある声が懐かしかったです。

あまり目立つ役ではなかったけれど、的確な芝居で安心感がありました。「ワトソン」と「ハドソン」が分かりにくいのは、彼女のせいじゃありません。

レストレイド警部:迫田孝也

コミカルな警部。いい感じのボケで、舞台を明るく照らしていました。

ストーリー上あまり重要な意味はない役かもしれないけど、パンチの効いた香辛料のように、彼が舞台に現れるたびに、他の登場人物を際立たせていました。

音楽の荻野清子も秀逸

音楽を担当した荻野清子さんは、劇伴を中心に活躍する作曲家・ピアニスト。今回も素晴らしい仕事でした。

舞台下手に置かれた小さなピアノ。今回の劇伴は、この楽器ひとつで奏でられました。

プロローグで音が鳴った瞬間、調律の狂った古色蒼然としたその音色に、会場は瞬時に1881年のロンドンにいざなわれました。

必要最小限に留められた音楽が、7人の演技を引き立てていました。これぞ劇伴!と拍手を送りたいです。

それぞれの成長の物語

今回の作品のテーマは「シャーロック・ホームズは如何にして、僕らの知っている偉大なる名探偵になったのか?」。

最初から最後まで、このテーマが軸としてブレることなく、笑いも涙もすべての要素が一つの方向を指し示していました。その方向性とは「人としての成長」です。

たった一晩の出来事が、登場人物ひとりひとりに変化をもたらしていきます。

発達障害傾向のあるシャーロックは兄との確執を乗り越え、自分の弱点を受け入れながらも、自分らしく生きることを決意します。

その兄も、弟への嫉妬を克服し、ずっとフタをしてきた自分の本当の気持ちを受け入れます。

誰にも言えない苦悩を抱えていたワトソンは若き相棒に救われ、見て見ぬ振りをしてきた悲しみに向き合います。

美しい依頼人ヴァイオレットも、シャーロックに自分自身を重ね、新しい一歩を踏み出そうと決心します。

彼らに共通するのは「自分に正直であろう」と覚悟を決めたことです。その姿に僕は胸を打たれました。

コナン・ドイル著『シャーロック・ホームズ』シリーズ

今回の舞台を見て、コナン・ドイルの名作『シャーロック・ホームズ』シリーズを、改めて読み直したくなりました。

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えいぷりお的まとめ

演劇はいいものですね。生の芝居に接すると、テレビドラマにはないライブの迫力にゾクゾクします。

特に今日は、2ヶ月にわたるロングランの初日!まさに作品が産声を上げる瞬間に立ち会うことができて感激でした。

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