こんにちは。そなてぃねです。
2020年1月にびわ湖ホールで行われた、ヨハン・シュトラウスの喜歌劇「こうもり」を観に行きました。
初めて観る日本語での上演でしたが、とても楽しむことができました。
びわ湖ホール声楽アンサンブルのメンバーを中心に、ダブルキャストで各2日ずつ、計4日にわたる意欲的な公演。
僕はどちらのキャストにも興味があり、2回も観に行っちゃいました。
演奏会の概要
喜歌劇「こうもり」
作曲:ヨハン・シュトラウス
訳詞:中山悌一
演出:中村敬一
〔キャスト〕
アイゼンシュタイン:二塚直紀/谷口耕平
ロザリンデ:森谷真理/船越亜弥
フランク:山下浩司/美代開太
オルロフスキー公爵:藤居知佳子/八木寿子
アルフレード:宮城朝陽/清水徹太郎
ファルケ博士:市川敏雅/黒田 博
アデーレ:平尾 悠/熊谷綾乃
ブリント博士:蔦谷明夫/坂東達也
イーダ:上木愛李/山田知加
フロッシュ:林 隆史(全日)
管弦楽:日本センチュリー交響楽団
合唱:びわ湖ホール声楽アンサンブル
指揮:秋山和慶
2020年1月12日/13日 14:00~
びわ湖ホール 中ホール
そなてぃね感激度 ★★★☆☆
日本語上演、楽しめた
今回の喜歌劇「こうもり」は、日本語での上演でした。
外国語オペラの日本語版を観たのは初めて。違和感がないか、ちょっと心配していたのですが、とても楽しむことができました。
オペレッタは歌だけでなく、セリフのシーンも多いのが、オペラとの大きな違い。
セリフのシーンには、地元ネタや時事ネタが盛り込まれるので、当然日本語がいいということになります。
それに合わせて、歌も日本語の方がいいという判断は正しかったように思います。
歌手にとっては、日本語の発音の方がむしろ難しかったかもしれませんが、皆さん聞き取りやすく歌ってくれました。
子供にも伝わる面白さ
会場には、小学校と思われる子供の姿があちこちに見えました。
役者たちのユーモラスなやり取りを観て、小さな子供たちが、キャッキャと声を出して笑っているのが聴こえてきました。
これって素晴らしいことですよね。
理屈抜きに子供たちが楽しめるということは、喜劇として大成功ということだと思います。
びわ湖がらみのご当地ネタも盛りだくさんで、僕も何度も笑わせてもらいました。
例えば「滋賀の人が大阪の人に喧嘩を売るときに必ず言う言葉」として「びわ湖の水、止めたろか!」というあるあるネタなど、会場は大爆笑でした。
もっとどんちゃん騒ぎが見たかった
でも、全体的にキレイにまとまりすぎている感じもして、ちょっと物足りなかったのも正直なところでした。
僕の中で、喜歌劇「こうもり」の理想像は、カルロス・クライバーとバイエルン国立歌劇場による1986年の伝説的な名舞台。
名演出家オットー・シェンクによる夜会のシーンは、気品を保ちながらも、ハメを外した貴族たちのどんちゃん騒ぎぶりが強烈でした。
▼第2幕のクライマックス、ポルカ・シュネル「雷鳴と電光」のシーンがこちら。
(1時間36分から再生されます)
これと比べるのは酷かもしれませんが、今回の舞台は、皆さんお行儀がよくて、きれいに整列して踊っているような感じがしました。
もちろん、格式の高い舞踏会ですから、このくらい上品な感じで正解なのだと思いますが、もう少しはじけた雰囲気も味わいたかったです。
1月12日のキャスト
(公式ツイッターから引用)
ほとんどのキャストをびわ湖ホール声楽アンサンブルのメンバーが務めるなか、1月10日/12日のゲストとして、次の二人が招かれました。
ロザリンデ:森谷真理
フランク:山下浩司
そして、アイゼンシュタインを演じた二塚直紀さんは、びわ湖ホール声楽アンサンブルの「ソロ登録メンバー」というお立場です。
印象に残った方について書いていきます。
圧巻だった森谷真理さんのロザリンデ
(公式ツイッターから引用)
圧巻だったのは、ロザリンデを演じた森谷真理さん。他を圧倒する風格があり、美貌の人妻という役どころに見事にはまっていました。
奥行きのある独特の声も、大人の女性の色香を放っていて、説得力がありました。
歌の上手さは抜群。ハンガリーの民族舞曲「チャールダーシュ」など、郷愁を感じさせる歌いっぷりで、素晴らしかったです。
さすがメトロポリタンやウィーン・フォルクスオーパーといった超一流の舞台を踏んできたプリマドンナ!
アイゼンシュタインの二塚直紀さんも好演
(公式ツイッターから引用)
アイゼンシュタインの二塚直紀さん(写真の左側)も素晴らしい演唱でした。
力強くブリリアントな声は、日本でも貴重なテノールなのではないでしょうか。もっと全国区で活躍すべき人材だと思いました。
ファルケ博士(写真の右側)が仕掛ける壮大なドッキリに引っかかる、愛すべきスケベ親父を、実にコミカルに演じていました。
平成15~22年度に、びわ湖ホール声楽アンサンブルに所属し、現在はソロ登録メンバーとして後輩たちをサポートしているようです。
びわ湖ホールが今回のような自主公演を続けられるのは、二塚さんのような実力ある歌手がバックアップしているからなのでしょうね。
可愛らしいアデーレ、平尾 悠さん
びわ湖ホール声楽アンサンブルのメンバーの中で、ひときわ印象に残ったのは、アデーレを演じた平尾 悠(はるか)さんでした。
明るくおてんばな女中役。すごく可愛らしかったです。
第2幕のアリア「公爵様、あなたのようなお方は」など、伸びやかな声も素敵でした。
アルフレードを歌った宮城朝陽さんも、パリッとした声とシュッとした容姿で魅力的。
ファルケ博士の市川敏雅さんも、艶のある声とスマートな長身で、男の色気を感じさせました。
びわ湖ホール声楽アンサンブルの水準の高さを感じる配役でした。
1月13日のキャスト
1月11日と13日のゲストには、次の二人が招かれました。
ファルケ博士:黒田博
オルロフスキー公爵:八木寿子
アルフレード役の清水徹太郎さんと、フロッシュ役の林隆史さんは、びわ湖ホール声楽アンサンブルのソロ登録メンバーです。
印象に残った方について書いていきます。
さすがの芸達者、黒田博さん
(公式ツイッターから引用)
バリトンの黒田博さん(写真の右側)は、二期会を中心に数多くの舞台を踏んできたベテラン。今回も百戦錬磨の芸達者ぶりを見ることができました。
びわ湖ホール声楽アンサンブルのメンバーは、30歳前後の若手たちですから、黒田さんのような経験豊富な先輩と同じ舞台を踏むのは、いい勉強になるでしょうね。
フロッシュの林 隆史さんのエンターテイナー精神
(公式ツイッターから引用)
刑務所の看守フロッシュを演じた林隆史さんは、4日間すべてに登場。
この役には歌がなく、俳優が演じることも多いのですが、林さんは見事なエンターテイナーぶりで会場を沸かせました。
「サンタ・ルチア」を歌いながら千鳥足で現れて、「樽ごと飲みます。1樽、2樽、3樽チーア!」で大ウケ!
僕は後半の2日間に行ったのですが、アドリブのご当地ネタを日によってちゃんと変えているのには感心しました。
熊谷綾乃さんのアデーレも可愛かった
前日のアデーレ役、平尾悠さんもよかったですが、この日の熊谷綾乃さんも素敵でした。
明瞭な発声でセリフも歌も聴きやすく、明るいキャラクターに元気をもらいました。
ロザリンデを歌った船越亜弥さんも、張りのある豊かな声で存在感を示していました。前日に同役を歌った森谷真理さんからの刺激もあったことでしょう。
アイゼンシュタイン役の谷口耕平さんも、フランク役の美代開太さんも、愛すべきキャラクターで好感が持てました。これからさらに声が成熟していくのを期待したいと思います。
びわ湖ホール声楽アンサンブルは地域文化の鏡
びわ湖ホール声楽アンサンブルは、ホールが開館した1998年に設立。20年以上の歴史を刻みながら、地域の文化創造を担ってきました。
滋賀県大津市という比較的小さな地方都市で、自主企画のオペラ公演を継続するのは、大変なことだったでしょう。
ただ続けるだけでも評価すべきですが、それをここまで芸術的な水準を高めてきたのは、驚くべき成果だと思います。
こうした創作活動を支えてきたのは、地元のファンなのだということが、今回、2公演に通ってみて、よく分かりました。
約700席の中ホールが4日間ほぼ満席。子供からお年寄りまで幅広い観客が集まり、おかかえの歌手が地元ネタを披露すれば、会場は大喜び! このあたたかい空気に感動しました。
まさに、地域文化の理想形を見る思いでした。
あとがき
ホワイエには、地元のぶどうで作られた「こうもり」特別限定ワインが!
こういうところにも、地元とのいい関係が現れているようでした。
これからも、びわ湖ホールの自主企画オペラを楽しみにしたいと思います。
▼「近江の春 びわ湖クラシック音楽祭2019」の感想はこちら。
【演奏会の感想】近江の春 びわ湖クラシック音楽祭2019(2019年4月 びわ湖ホール)▼2020年1月に行われた山海塾「ARC 薄明・薄暮」の感想はこちら。
【ダンスの感想】山海塾「ARC 薄明・薄暮」永遠にめぐる円環(2020年1月 びわ湖ホール)▼絶対に聴くべき!カルロス・クライバー指揮、バイエルン国立歌劇場による超名盤。
▼ドミンゴ指揮、英国ロイヤル・オペラのDVD。ヘルマン・プライ、キリ・テ・カナワの名演技を楽しめます。