こんにちは。そなてぃねです。
とても残念なニュースです。大阪交響楽団が7月6日のツイートで、楽団員と事務局全員のPCR検査をすると発表したのです。
一見いいことに思えるかもしれません。
でも僕は彼らの行動を批判します。なぜなら、彼らのやったことはオーケストラ業界が再出発していく足かせになりかねないからです。
この記事では、大阪交響楽団がとった行動について、僕の考えを述べたいと思います。
▼これに先立ち6月には東京シティ・フィルが「抗体検査」を実施。迷走した挙げ句、予定してた公演をつぶしました。
東京シティ・フィルが新型コロナの「抗体検査」を実施したことは正しかったのか?大阪交響楽団 7月6日のツイート
僕が問題視しているツイートがこちらです。
PCR検査キットが届きました。
本日から楽団員と事務局全員の検査が始まります?? pic.twitter.com/JRHnSKqQzp— 大阪交響楽団(公式) (@osakakyofficial) July 6, 2020
先日、PCR検査キットが届きましたと投稿しましたが、正しくは、検査キットではなく、検体を採取し医療機関に提出するための物でした。訂正いたします。
公演再開にむけ、楽団全員で検査をいたします。
よろしくお願いいたします。— 大阪交響楽団(公式) (@osakakyofficial) July 7, 2020
身の潔白を証明!?
「スパイス」というウェブ・メディアに掲載された「堺から世界へ~堺を拠点に活動する3つの芸術団体がコラボ公演を開催」という記事(7月13日付け)に、大阪交響楽団のことが書かれています。
この記事の主題は、9月22日に予定されているバレエ、オペラとの共演(フェニーチェ堺)についてです。
コロナ以後、オーケストラがピットに入るのは関西では最初とのこと。バレエやオペラ(合唱を含む)とのコラボレーションを、いかに感染対策しながら実施するのか、という前向きな話題です。
こうした彼らの挑戦については、僕も素直に応援したいと思っています。
この記事の中で、大阪交響楽団がPCR検査を行う理由が語られています。
大阪交響楽団の赤穂正秀事務局長の発言には驚かされた。
「楽団員や事務局スタッフ全員、今週中にPCR検査を実施して、身の潔白を証明して来週の定期演奏会に臨みます。その上で、月1回ペースで検査を実施出来ればいいのですが。」
確かに、検査で感染していない事が証明出来るなら、奏者は安心して演奏に集中出来、観客にとってもこれほどの安心材料はない。しかし、一般的にも十分に浸透しているとは言えないPCR検査受診が、今後オーケストラの新型コロナ感染症対策にどのような影響を及ぼすか、これを受けての他団体の動きが気になるところだ。
事務局長が語る「身の潔白を証明するためにPCR検査を行う」という考え方は、根本的に間違っています(後述)。
そしてもう一つ愕然とするのは、「スパイス」というこのウェブ・メディアが、エンタメ全般のチケット販売を行う「イープラス」によって運営されているということです。
公演主催者と観客をつなぐ立場の企業が、大阪交響楽団の今回の行動に対して「観客にとってもこれほどの安心材料はない」と断言し、何らの問題提起もしていないことに、僕は強い失望を感じました。
PCR検査で身の潔白は証明できないし、安心材料にしてはいけないのです。
PCR検査で身の潔白は証明できない
PCR検査は万能の検査ではありません。
当然のことですが、検査時点での感染の有無しか調べることができません。ですから、感染者を本気で見つけ出すためには、頻繁に(1~2週間ごと)検査をし続けなければなりません。
感度(感染者を陽性と判定する能力)、特異度(感染していない人を陰性と判定する能力)に限界があることも重要です。
新型コロナのPCR検査の感度は、40~70%と言われています。つまり、10人の感染者のうち3~6人は見逃すことになります。これを偽陰性と言います。
大阪交響楽団は、偽陰性の問題を知っていたのでしょうか。知っていて「身の潔白を証明」などと言っていたなら、許しがたいことです。
検査の結果、仮に全員が陰性だったとしても、その中に偽陰性が含まれている可能性は否定できません。
「自分は陰性だから大丈夫!」と勘違いして、基本的な感染予防対策をおろそかにする人が出てくることは十分に予想されます。
はじめから検査などせず、全員が「自分は感染しているかもしれない」と思って、正しい行動すべきなのです。
念のために言っておきますが、僕はPCR検査そのものを否定しているわけではありません。
事前確率の高い人(発症者や濃厚接触者)に対しては、確定診断のために必要不可欠な検査です。
しかし使い方を間違えると、逆効果になりかねないことを知っておかなければなりません。
(特異度と偽陽性の問題については、検査数の規模が大きくなったときに論じるべきことなので、ここでは触れません)
PCR検査のコスト
PCR検査が万能ではないということに加えて、オーケストラ業界が安易に手を出してはいけない理由が「コスト」です。
大阪交響楽団が行った検査は、当然のことながら自由診療となります。
彼らは今回の検査のために、いったいいくらを投じたのでしょうか。
料金はクリニックごとに違いますが、概ね1件あたり2~5万円です。
大阪交響楽団の人数は、楽団員50人、事務局20人といったところでしょうか。
単純計算で、最低でも140万円はかかることが分かります。
こんな大金が、本当に楽団にあったのでしょうか。
オーケストラの経営は危機にひんしているのに…
オーケストラ業界の経営は、2月下旬以降の公演中止によって危機に瀕しています。
依頼公演はすべてキャンセル。再開の見通しは立っていません。
自主公演も客席数の50%しか集客できない現状では、開催するたびに赤字が膨らむことになるでしょう。
収入がない中で、楽団員とスタッフへの給料、事務所や練習場の家賃を払い続け、楽団にはほとんど資金が残っていないと考えられます。
そんな厳しい状況の中で、なけなしのお金を、こんな愚かな検査に使ってしまうとは…
しかも事務局長は「月1回ペースで検査を実施出来ればいいのですが」とまで言っている。
開いた口が塞がらないとはこのことです。
アドバイスをくれる医療関係者はいなかったのか
きちんとした医療関係者がアドバイスしていたら、絶対に「やめろ」と言ったはずです。
大阪交響楽団には、そういう存在がいなかったのでしょうか。
逆に、怪しげなクリニックにそそのかされて、検査費用をぼったくられたのでは… と心配してしまいます。
ただのパフォーマンスなら検査などするな
僕が「スパイス」の記事を読んで感じたのは、今回の検査はただのパフォーマンスだったのではないか、ということです。
「私たちはちゃんとコロナ対策をしています」とアピールするためだけの行為だったのではないかと。
もしそうなら、本当にやめてほしい。
ただでさえ存続の危機に立たされているオーケストラ業界に、無駄な出費を促すような悪しき前例を残した罪は重いと言わざるを得ません。
文化庁の支援をあてにしているのか
これは僕の想像ですが、もしかしたら大阪交響楽団は文化庁の支援をあてにしているのかもしれません。
補正予算でまかなわれる各種支援の中に、文化芸術団体の収益力強化事業に対して事業規模に応じた支援金を出すというものがあります。
こういった補助金をあてにしているとしたら、僕は賛同しかねます。
公金の詐取とまでは言いませんが、無意味な検査のために血税が使われることに、僕は強い違和感を抱きます。
やるなら自力でやってください。自力でできないなら、やらないでください。
僕はオーケストラ業界の再出発を応援している
こんな辛辣な記事を書かねばならず、正直とてもしんどいです。
僕はこれまでに大阪交響楽団の演奏を何度も聴きに行き、素晴らしい時間を過ごさせてもらいました。
彼らの再出発を応援したいと思っています。
今日7月16日は、彼らが数カ月ぶりに観客を入れて定期演奏会を行う日です。
僕はチケットを買うことができず聴きに行くことができませんが、いい演奏会になるよう心から祈っています。
同じように全国のオーケストラがこの苦境を乗り越えていってくれることを願っています。
だからこそ、苦言を呈さざるを得なかったのです。
新型コロナと音楽に関する記事
2020年2月ごろから世界中のオーケストラから公演の機会を奪った新型コロナウイルス。5月以降、徐々に再開される動きを追いました。
▼5月1日に行われたベルリン・フィルの無観客ライブ配信では、最大15人という小規模の編成で演奏されました。
【演奏会の感想】ペトレンコ指揮 ベルリン・フィル コロナ禍での無観客ライブ配信(2020年5月1日)▼6月2日に行われたロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団の無観客ライブ配信では、演奏者どうしの距離は175センチでした。
2020年6月2日 コンセルトヘボウ管 無観客ライブ配信 奏者どうしの距離は「175センチ」▼6月5日に行われたウィーン・フィルの3ヶ月ぶりの公演再開では、ほぼ通常の配置で演奏されました。
2020年6月5日 ウィーン・フィル 新型コロナのロックダウン後 3ヶ月ぶりに公演再開▼6月10日に行われた日本フィルハーモニー交響楽団の3ヶ月ぶりの公演は、無観客の有料ライブ配信で行われました。
2020年6月10日 日本フィル 無観客で有料ライブ配信 2メートルの距離で弦楽合奏▼6月20日に日本センチリー交響楽団が、全国に先駆けてフルオーケストラでの客入れ公演を再開しました。
2020年6月20日 日本センチュリー交響楽団 新型コロナ後、フルオーケストラで全国最初の公演再開▼東京シティ・フィルは6月26日に予定していた公演を急遽「無観客ライブ配信」に変更。その理由は「抗体検査」でした。
東京シティ・フィルが新型コロナの「抗体検査」を実施したことは正しかったのか?