こんにちは。えいぷりおです。
2022年2月24日にロシアがウクライナに武力侵攻を開始してから1ヶ月以上が経ちました。ロシア軍がウクライナの民間人に対して行っている凄まじい虐殺・強姦・拷問の実態が、日々明らかになっています。
ロシアとウクライナの間にどのような歴史があったのかを語る上で、決して忘れてはならないのが「ホロドモール」と呼ばれる1932-33年に起きた悲劇です。
「ホロドモール」とは、ソ連がウクライナで起こした人為的な飢饉を指します。1年で600万人以上のウクライナ人が餓死したという、凄まじいジェノサイドでした。
その実態を描いたのが、2020年に公開された映画「赤い闇 ~スターリンの冷たい大地で~」です。
今ウクライナで起きている悲劇を考えるためにも、目を背けずに観ておくべき作品だと思います。
映画「赤い闇 ~スターリンの冷たい大地で~」とは
映画「赤い闇 ~スターリンの冷たい大地で~」
〔キャスト〕
- 英国人記者ガレス・ジョーンズ:ジェームズ・ノートン
- 女性記者エイダ・ブルックス:ヴァネッサ・カービー
- ピューリッツァー賞受賞記者ウォルター・デュランティ:ピーター・サースガード
- ジョージ・オーウェル:ジョゼフ・マウル
〔監督〕
アグニェシュカ・ホランド
〔公開〕
2019~2020年
▼映画「赤い闇」予告編
幼い子供が、死んだ兄の肉を食べ…
この作品の主人公は、英国人記者 ガレス・ジョーンズという実在の人物。アドルフ・ヒトラーにインタビューした経験のあるジャーナリストです。
物語の舞台は1933年。1929年にアメリカで始まった世界的な大恐慌が吹き荒れていた時代です。
ところが唯一、経済成長を続けていた国がありました。ソビエト連邦です。
スターリンが推進した5カ年計画の成果とされていましたが、記者ジョーンズはその資金源に疑問を抱き、モスクワに向かいます。
モスクワにたどり着いたジョーンズは資金源の秘密がウクライナにあることを聞きつけます。そして厳重な監視の目をかいくぐり、ウクライナに潜入します。
鉄道でウクライナに向かうシーンで、画面は徐々に色を失い、モノクロの世界になっていきます。降りしきる雪と、重く垂れ込めた雲に閉ざされた、牢獄のような世界へとー
そこでジョーンズが目撃したのは、寒さと飢えに震える村人たち、そして道端に転がる無数の餓死者たちでした。
ウクライナは、豊かな穀倉地帯だったはず。ソ連当局は、そこからすべての食料を収奪して外貨に変え、「偽りの経済成長」を喧伝していたのです。
僕の脳裏から離れないのは、生き残った幼い子供たちが、死んだお兄ちゃんの肉を食べるシーン。このような凄惨な出来事が、90年前に現実に起こっていたことに、激しいショックを受けました。
ソ連による大虐殺「ホロドモール」
1932~1933年にソ連が人為的に引き起こした飢饉によって、少なくとも600万人のウクライナ人が餓死したと言われています。
この大虐殺は「ホロドモール」と呼ばれます。ウクライナ語で「ホロド」は「飢え」、「モル」は「絶滅・抹殺」を意味する言葉です。
奇跡的に生還したジョーンズは目撃した事実をイギリス議会で証言しますが、誰も信用しませんでした。
なぜなら、ニューヨーク・タイムズのモスクワ支局長で、1932年にピューリッツァー賞を受賞したウォルター・デュランティという名物記者が、ジョーンズの証言を否定したからです。
デュランティは、スターリン政権下で何が起きているかを知りながら、事実を報道しませんでした。自分の立場を守るために、ソ連当局の意向に沿った情報だけを流したのです。
ニューヨーク・タイムズが否定すれば、事実もなかったことにされてしまいます。ジョーンズが必死に真実を訴えても、変人扱いされるだけでした。
独裁国家が隠蔽する不都合な真実
独裁国家の権力者は、自国で起きている不都合な真実を徹底的に隠そうとします。
日本のすぐ隣には、独裁国家が少なくとも3つも存在しています。ロシア、中国、北朝鮮です。
北朝鮮は1970年代初頭から組織的に日本人を拉致していましたが、日本の国会が初めてその事実を認めたのは1988年でした。今も正式に認定されている拉致被害者は、たった12人です(実際には100人以上いると疑われている)。
中国共産党がウイグル人、チベット人、モンゴル人に行ってきた虐待、拷問、強姦、虐殺。様々な証言や状況証拠が挙がっているにもかかわらず、日本の国会では非難決議さえ、まともにできませんでした。
映画「赤い闇」で描かれる人道の罪は、決して過去のものではありません。今も僕たちのすぐ隣で、同じことが起きているのです。
2022年 ウクライナ危機
1932-33年にソ連に大虐殺されたウクライナ。2022年2月24日、ロシアによって軍事侵攻されました。
この文章を描いているのは4月7日。侵攻から1ヶ月半が経ちました。今月に入ってから首都キーウ(キエフ)近郊のブチャという村で400人以上の民間人が虐殺されたことが判明し、世界中が大騒ぎになっています。
この大虐殺は、一時的にロシア軍が支配していた地域をウクライナ軍が奪還したことで発覚しました。
ロシアは厳しい非難を受けており、比較的ロシアと近い関係にあった中国とインドも距離を置く動きを見せています。
一方でこうした虐殺は、ウクライナ側に巣食ったネオナチ勢力が起こした自作自演だとする説も根強く、難解な情報戦の様相も呈しています。
いずれにせよ、僕たちが今起きていることの真実を知るには、彼らがどのような歴史を背負っているかを知る必要があります。
映画「赤い闇」は、90年前にウクライナの人々が味わった苦しみに触れるための、貴重な資料となるはずです。
(了)