緊張で身体と心に力が入りすぎている時、意識的にリラックスする方法があります。「漸進的筋弛緩法(ぜんしんてききんしかんほう)」です。この簡単で即効性のあるリラクゼーション法をご紹介します。
「漸進的筋弛緩法」とは
アメリカの精神生理学者エドモンド・ジェイコブソンが1938年に考案したリラクゼーション法です。
身体の各部位のこわばった感覚に注意を向けて、意識的に強く緊張させた後、一気に脱力させる
という方法です。
「身体の力を抜く」というのは、実はなかなか難しく、自分では力を抜いたつもりになっていても、実際にはまだまだ緊張状態のままのことが多々あります。
力が抜けた状態をしっかりと味わい体感することが、「漸進的筋弛緩法」の最大のポイントです。ぐーっと力を入れている時の感覚と、一気に力を抜いた時の感覚を、それぞれじっくり味わい、その差を感じ取ります。そうすることで、力を抜いた時の じわっとゆるんで、あたたかく なる感じを体感することができるのです。
この筋弛緩法を続けていくと・・・
しばらくこの筋弛緩法を続けていくと、自分の身体に対する感覚が鋭敏になってきます。力を入れたり抜いたりするときの感覚も、よりはっきりと感じ取れるようになり、身体のどこかに不必要な緊張が生じると、そのことに早く気付けるようになります。
精神的な不安や恐怖にも効果的
精神と身体は密接に関わっています。精神的な不安や恐怖が起こる時には、身体にも連動して緊張状態が起こります。その身体の変化をキャッチして適切な方法で緊張を緩めることができたら、精神的な不安や恐怖も解消することができます。
「あ、いま肩のあたりがこわばってきた」
「背中が固まってる」
「胸のあたりが締め付けられる感じ」
といった身体的な変化を感じ取り、それを解き放っていく。身体を緩めることで、精神的な緊張をも緩めていく。そのための方法が「漸進的筋弛緩法」なのです。
筋弛緩法の基本
まずは「肩」から
この筋弛緩法の効果をもっとも実感しやすいのが、「肩」です。おそらく皆さんも、すでに日常生活の中で実践しておられるかもしれません。
両肩をぐーっと耳のあたりまで寄せるように力を入れて・・・、ストンッと力を抜いて両肩を一気に落とす。やったことありませんか?
力を入れてから抜くことで、力が抜けた状態が、よりはっきり分かるでしょう。心理的な緊張や疲労は、肩の緊張として現れることが多いですから、肩の筋弛緩法は実用性が高いリラクゼーション法と言えます。
せっかくですから、この肩の筋弛緩法を、より意識的に訓練してみましょう。
筋肉の状態に意識を向ける
筋肉の状態により深く意識を向けるために効果的なのは、「部位を分けて行う」ということです。肩の場合で言うと、右肩と左肩を分けて行うのがひとつのアプローチとなります。
右肩だけにぐーっと力を入れて10秒間ほど・・・、そしてストンッと力を抜いて一気に落として20秒間ほど。この一連の動きの中で、力を入れた状態の筋肉のきしんだ感じや、力を抜いた直後に筋肉がじわ~っとあたたかくなりながら緩んでいく感じなど、右肩の筋肉に起こる変化を、顕微鏡で見るように、よりつぶさに感じ取ってみてください。これを左肩でも行います。感覚がつかめるようになってくると、左右の緊張度合いの違いも感じ取れるようになってきます。
こういった部位に分けた筋弛緩法の実践が、身体感覚を研ぎ澄ますための、素晴らしい訓練になるのです。
身体のパーツごとの筋弛緩法
肩で実感したことを、全身の様々なパーツで実践してみましょう。
顔
顔の筋肉も、心理的な緊張状態を如実に映し出して、こわばります。肩こりのように分かりやすくはないので、なかなか自覚している人は少ないかもしれませんが、頬のあたりを軽く指でマッサージしてみると、凝り固まっていることが分かります。
あまり難しく考えずに、とにかく顔を「くしゃーっ」としてみましょう。目をぎゅっとつぶって、唇をすぼめ、口角もぐっと上げて、顔中のすべてのパーツを中心に寄せるような感じで。それを10秒くらいやった後、一気に力を抜いてアホ顔になってみましょう。顔の様々な筋肉がどのように緩んでいくか、感じ取ってみてください。
首
肩と同じくらい精神的な影響を受けて凝り固まりやすいのが首です。首の筋弛緩法は、力を入れるというよりも、一種のストレッチと捉えた方がやりやすいと思います。
まず、首をぐーっと後ろに反らせます。すると後頭部のあたりに筋肉が寄せ集められたような状態になりますね。その状態を10秒ほどキープした後、首を今度は前方に傾けます。
このとき注意していただきたいのは、「首は一気に動かさない」ことです。他のパーツでは「一気に弛緩させる」というのがポイントになりますが、首は非常にデリケートな部位で、急激に動かすと痛めてしまう危険性があります。ですので、「首はゆっくり」を守ってください。
先ほどの続きですが、首を前方に傾けると、それまで凝縮していた後頭部の筋肉が伸ばされます。その「伸ばされた感じ」を、じっくりと味わってください。
これを前後方向に5回、左右に首を倒す動きで5回、左右に首をひねる動きで5回、それぞれ10秒ずつくらい、ゆっくりと数えながらやってみてください。これは首のコリをほぐす究極の方法です。頭への血流がよくなり、すーっと視界が開けていくでしょう。
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背中
肩、首ときたら、やはり「背中」ですね。心理的な緊張は、背中にも明確に現れます。背中の筋肉がガチガチに固まると、だんだん猫背のような状態になって、知らず知らずのうちに胸を圧迫します。そうすると、心臓の活動が抑圧されて血流が低下し、肺も圧迫されて呼吸が浅くなります。その結果、ますます心身が萎縮するという悪循環に至ってしまいます。
ですので、背中のコリに気付いたら、ぐーっと肩甲骨を近寄せるような感じで胸を開きます。背中の筋肉をすべて肩甲骨の間に凝縮させるような感じです。この状態を10秒間キープして、一気にストンッと肩甲骨を開きます。これを何度か繰り返すと、背中が軽くなり、胸がはれるようになってきます。浅くなっていた呼吸が、深く吸い込めるようになっていることに気付くでしょう。
脚(あし)
おしりをついて座り、両足を伸ばして、おしりからかかとまで(脚の裏側)の筋肉をぐーっと伸ばすような感じで力を入れます。アキレス腱を思いっきり伸ばすような感じです。
実は脚の裏側の筋肉というのは、疲労が蓄積すると、収縮しきった状態になってしまいます。すると、身体全体の柔軟性が失われ、前に踏み出す気持ちをも萎縮させます。
ですので、常に「脚の裏側を柔らかく弛緩させる」ことを、覚えておいてください。
先ほどの続きですが、ぐーっと伸ばした脚の裏側の筋肉を10秒ほどキープしたら、一気に力を抜きます。これを何度か繰り替えすと、身体全体がしなやかさを取り戻して、気持ちも前向きになっていきます。
おしりをつけて座れない状況の場合は、アキレス腱を伸ばすような姿勢であったり、立位体前屈のような姿勢であったり、とにかく脚の裏側を伸ばす運動をしてみてください。収縮と弛緩をしっかり味わうことができていれば、様々な形での筋弛緩法が可能となります。
その他
ここまでに挙げた、「肩」、「顔」、「首」、「背中」、「足」は、心理的な影響が筋肉の緊張に現れるのが感じ取りやすく、筋弛緩法による即効性のあるリラクゼーション効果が得られます。
これらのパーツ以外の部位は、感じ取るのが難しいかもしれませんが、その時々の症状によって、実践することが可能です。
例えば「手」、「腕」、「腹部」、「おしり」などの部位です。上級編として、試してみるといいでしょう。
身体を弛緩させて、心もリラックス
心と身体は密接に結びついています。心を常にいい状態に保つためには、身体のケアが非常に重要になります。
「漸進的筋弛緩法」の概念を知り、実践することで、心身の状態を敏感にキャッチして緩めることができるようになります。これはまさに、「人生の質」を向上させるためのメソッドといえるでしょう。