2016年10月放送のNHKスペシャル「血糖値スパイクが危ない~見えた!糖尿病・心筋梗塞の新対策」では、気付かないうちに多くの現代人が、血糖値の問題を抱えていることを報じて反響を呼びました。その対策も含めて、まとめます。
血糖値スパイクとは
血糖値の急上昇と急降下
まずは、こちらのグラフを見てみましょう。画面の下の青い折れ線は、正常な人の血糖値の変化を示しています。1日の中で、3回の食事の後に、少し上昇するものの、その変化は小さくゆるやかです。
画面の上の紫色の折れ線は、「糖尿病」の患者の血糖値の変化を示しています。常に、正常値とされる140を超えていることが分かります。この状態が失明をはじめ、多くの深刻な症状をもたらすことは、よく知られていますよね。
ですが、今回取り上げられた「血糖値スパイク」は、糖尿病とはまったく異なる挙動を示します。次のグラフを見てみましょう。
赤い折れ線が「血糖値スパイク」の人の血糖値の変化を示したものです。食事の直後に急激に血糖値が上昇。正常値の140を振り切り、糖尿病と同レベルに到達しています。そして特徴的なのは、その後、その値は急降下して正常値に戻るのです。この針のような形の上昇カーブから、「スパイク」と呼ばれるようになりました。
健康診断で「正常」の人も要注意!
こうした異常は、通常の健康診断では発見することができません。なぜなら、健康診断で行われる血液検査は空腹時に採血した血液を使うため、食事の直後に現れる血糖値の急上昇を捉えることができないからです。
調査によると、日本全国で血糖値スパイクが起きている人は、推定1400万人以上と考えられています。それも、糖尿病が疑われるような肥満気味の中年男性に限らず、若くてスリムな女性、さらには子供までもが血糖値スパイクを抱えていることが分かってきているといいます。
血糖値スパイクが起こるメカニズム
食事をとると、その中に含まれる糖分が、腸から血液中に取り込まれます。この血液中の糖の量が「血糖値」です。
血糖値が上昇すると、膵臓から「インスリン」という物質が血液中に分泌されます。インスリンは、筋肉など身体の細胞に糖を送り込む役割を果たしています。この働きによって、血糖値の上昇が抑えられています。
ところが「血糖値スパイク」の人は、身体の細胞が糖を取り込む能力が低く、血液中の糖が急増します。
そこで膵臓は、さらに大量のインスリンを放出して、なんとか細胞に糖を取り込ませて血糖値を下げます。
その結果、食後に血糖値が急上昇し、その後正常に戻るという、針のような「血糖値スパイク」が起こるのです。
血糖値スパイクがもたらす深刻な病気
血糖値スパイクは、これまで「糖尿病の前段階」と考えられ、進行すると糖尿病になると考えられてきました。しかし近年、糖尿病だけでなく、様々な深刻な病気の引き金になることが分かってきたのです。どのような病気なのか、以下に挙げてみましょう。
・心筋梗塞
・認知症
・脳梗塞
・がん
血糖値スパイクが心筋梗塞を引き起こす
心筋梗塞は、心臓そのものの筋肉=心筋が死んでしまう危険な病気です。心筋に血液を送り届けている「冠動脈」が何らかのきっかけで詰まり、血液が行かなくなることで起こります。
冠動脈を詰まらせる主な原因が、「動脈硬化」です。この動脈硬化を、「血糖値スパイク」が引き起こしていることが最新の研究で分かってきました。番組では、動脈硬化と血糖値スパイクの相関を示す統計結果が紹介されました。
この円グラフは、心不全になった患者の実に半数に、血糖値スパイクが起こっていたことを示しています。
そして、この右側の写真は、血糖値スパイクの人の冠動脈の特徴を映し出しています。たくさんの赤い丸で示されているように、冠動脈のあちこちに、動脈硬化が多発しているのです。
では、血糖値スパイクは、どのようにして動脈硬化を引き起こすのでしょうか。イタリアの最新研究で、そのメカニズムが解明されました。
実験で使われたのは、血管の内側を覆っている内皮細胞です。この細胞を、糖分が多い溶液と、糖分が少ない溶液に、交互に浸します。血糖値の急激な上昇が繰り返し起こっている状態を再現しているのです。
その後、それらの細胞を特殊な顕微鏡で見てみると、細胞が赤く光っている様子が観察されました。これは、細胞内に「活性酸素」という有害物質が大量に発生していることを示しています。
血糖値の急上昇を繰り返す状態を2週間続けると、発生した活性酸素によって、なんと42%の細胞が死んでしまいました。これが、動脈硬化を多発させる原因になります。
実際の血管では、血糖値スパイクによって多くの細胞内に活性酸素が大量に発生し、細胞が痛められます。すると、それを修復しようと、免疫細胞が血管壁に張り付き、組織内に入り込みます。上の図の、黄緑色のスライムみたいなのが、免疫細胞を表しています。免疫細胞が入り込むことで、血管壁が盛り上がって、至る所で血管の内側が狭くなります。こうして動脈硬化が多発するのです。
これと同じことが脳内で起こると「脳梗塞」となるわけです。
1回1回の血糖値スパイクが血管に与えるダメージは大きくはありませんが、それが高い頻度で繰り返し起こることによって、そのダメージが蓄積されていきます。
これまでは、血糖値スパイクは糖尿病の前段階という位置づけで考えられてきました。しかし、そうではありません。血糖値スパイク自体が病気と考えるべきで、血糖値スパイクによって、循環器系をはじめとする様々な病気が起こっているのです。
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血糖値スパイクが認知症を引き起こす
血糖値スパイクと認知症にも関連があることが、マウスを使った実験で分かってきました。正常のマウスと血糖値スパイクを起こさせたマウスで比較実験を行ったところ、血糖値スパイクのマウスは、記憶能力が大きく低下していることが分かったのです。
このとき、マウスの脳の中では、大きな変化が起こっていました。この写真は、マウスの脳の血管を特殊な顕微鏡で映し出したものです。血管の表面に赤いものが大量に付着していることが分かります。この赤い部分は、「アミロイドβ(ベータ)」と呼ばれるタンパク質です。
アミロイドβは、アルツハイマー型認知症の原因と見られる物質です。脳に蓄積すると、神経細胞をしに至らしめます。そのような恐ろしい物質が、血糖値スパイクによって脳内に蓄積してしまうのです。
このことから、アルツハイマー型認知症の予防には、まず血糖値スパイクを解消することが第一歩だと考えられるようになりました。
血糖値スパイク危険度チェック
番組では、血糖値スパイクの危険度を判定するテストが行われました。危険度を算出するための具体的な数値は明らかにされませんでしたが、以下の項目が掲げられ、どちらの方がリスクが高いかは示されました。
・性別 → 男性の方が女性よりリスクが高い
・年齢 → 高齢であるほどリスクが高い
・BMI → 肥満傾向であるほどリスクが高い
・親戚に糖尿病患者がいるか → 遺伝的要素
生放送されたこの番組では、オンエア中にデジタル放送のシステムを使って、危険度チェックをできる仕組みになっていました。16万人以上の視聴者がテストに参加し、その結果、およそ20%の人が血糖値スパイクの高いリスクを抱えていることが明らかになりました。決して他人事ではないのです。
血糖値スパイクを解消する3つの対策
番組のラストで、この危険な血糖値スパイクを解消することができる、簡単な対策が3つ示されました。
食べる「順番」に気をつけろ!
血糖値スパイクを起こさないために重要なのは、糖質を一気にとらないこと。食べる順番を工夫することで、糖質の取り込みをゆるやかにすることができます。
理想的な順番は、
野菜 → 肉類 → ごはん
まず、野菜に含まれる食物繊維がクッションの役割を果たして腸をコーティングし、糖質の取り込みを和らげます。そして、肉類に含まれるタンパク質と脂質が、腸において「インクレチン」という物質の分泌を促し、その働きで胃腸の動きがゆるやかになるのです。その状態でごはんを食べることで、糖質の吸収を穏やかにすることがでます。
例えば、ラーメンを食べる場合でも、
もやしやねぎ → チャーシュー → 麺(油をからめて)
という順で食べて、つゆは飲まないようにすると、糖質の吸収をが穏やかになり、血糖値スパイクのリスクを減らすことができます。
デザートには、寒天のようなものがオススメだと紹介されていました。
厳禁!「朝食」抜き
食事は3食きちんと食べることが重要です。そうすることで、血糖値の急上昇を防ぎ、1日を通じて血糖値の変化を穏やかに保つことができます。
このグラフは、3食きちんと食べたとき(水色)、朝食を抜いたとき(黄色)、朝食と昼食を抜いたとき(赤)の1日の血糖値の変化を重ね合わせたものです。
3食きちんと食べたときには血糖値の変化が穏やかなことが分かります。しかし、朝食を抜くと、昼食の後に血糖値スパイクが発生。さらに、朝食も昼食も抜いてしまうと、夕食の後にさらに大きな血糖値スパイクが現れています。
このような朝食や昼食を抜くような生活スタイルが続くと、日々起こる血糖値スパイクによって、身体がむしばまれていくのです。
「食後」にちょこちょこ動く
食後およそ15分間は、食べ物の消化吸収をよくするために、血液が胃や腸に集まります。ところが、この間に身体を動かすと、血液が手や足の筋肉に奪われ、胃腸の動きが鈍くなります。その結果、糖の吸収が遅くなり、血糖値の急上昇が抑えられるのです。
番組では、オフィスの模様替えをして、トイレまでのルートが遠回りになるようにすることで、社員が歩く距離を長くした事例が紹介されました。こうすることで、デスクワークばかりでほとんど動かない社員の運動量を、30%アップさせることができたそうです。
もうひとつの事例として、午後一の会議を、立ったまま行うことにした会社が紹介されました。皆さん、もぞもぞ足下を動かしながらの会議。ほんの小さな工夫で、身体を動かす時間を生み出すことができるんですね。たったこれだけでも、血糖値のグラフが大きく改善することが分かってきたのです。
番組に登場した専門医たち
番組には4人の専門医が出演し、コメントしました。以下のメンバーです。
・東京慈恵会医科大学
西村理明准教授
・順天堂大学医学部
河盛隆造名誉教授
・順天堂大学医学部
田村好史准教授
・慶応大学医学部
伊藤裕教授
興味のある方は、この先生方の研究を調べてみるといいかもれません。
〔補足〕低血糖症にもご注意を
血糖値に関わる疾患で、血糖値スパイクと似た特徴を持つものに「反応性低血糖症(機能性低血糖症)」があります。
反応性低血糖症では、血糖値スパイクと同様、食後に急激に血糖値が上昇し、その後急激に効果します。血糖値スパイクと違う点は、インスリンの分泌がより過剰なため、急降下した血糖値が低くなりすぎることです。この「低血糖」状態が、様々な症状を引き起こすことが分かっています。
これについては、以下の記事にまとめていますので、参考になさってください。
【反応性低血糖症の症状】「うつ傾向」「疲れやすい」は低血糖症の可能性が