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【川崎病4】後遺症の冠動脈瘤は、どのように形成されるのか

全身の血管に炎症が起こる原因不明の病気、川崎病。注意しなければならないのは「冠動脈瘤」です。これを患うと心筋梗塞のリスクを一生背負って生きていくことになります。こうした後遺症は、どのように起こるのでしょうか。

川崎病とは

このサイトでは川崎病について、5つの記事にまとめています。

【川崎病1】急増する原因不明の難病、その症状と診断【川崎病2】急性期の治療法「免疫グロブリン大量療法」【川崎病3】後遺症に苦しむ子供たち・・・NHKの報道から【川崎病4】後遺症の冠動脈瘤は、どのように形成されるのか【川崎病5】冠動脈瘤をケアし、心筋梗塞を予防する

この記事は4本目にあたります。川崎病についての基礎的な情報や急性期の治療法については、これまでの記事を参考にしてください。今回は、後遺症としてもっとも注意しなければならない「冠動脈瘤」がどのようにできるかについて詳しく解説します。

血管の構造と働き

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冠動脈瘤の話に入る前に、まず基礎的な知識として、血管の構造について触れておきます。

私たちの体は、血管を通じて糖分や酸素など生きる上で必要なものが全身に運ばれ、その一方で、炭酸ガスや体内でできた老廃物が運び出される仕組みになっています。

動脈も静脈も、大きく分けて「内膜」「中膜」「外膜」の3つの層からできています。

内膜
血管の最も内側で、血液と接しているのが「内膜」です。その表面は「内皮細胞」という細胞の層に覆われています。この内皮細胞は血液から必要な成分だけを取り込むフィルターの役目をしています。

中膜
内膜の外側の「中膜」には、血管としてのしなやかな弾力性を保つための成分(平滑筋細胞など)でできた層があります。特に動脈は、心臓から血液が送り出されるときの圧力がかかるので、この層は厚くなっています。一方、静脈は圧力の低い血流なので、この層は動脈ほど厚くありません。

外膜
中膜の外側を囲んでいるのが「外膜」の層で、ここには血管の外から細い血管を通じて栄養分などが運ばれてきます。



冠動脈は、どのように炎症を起こしていくのか

川崎病を発症し、全身の血管に炎症が起こり、急性期の様々な症状が現れる中、心臓を取り巻く冠動脈はどのような形で炎症を起こし、瘤を形成していくのでしょうか。

発症後6~8日ごろ

川崎病を発症して6〜8日が経過したころ、動脈の内膜および外膜に炎症が起こります(炎症性細胞浸潤)。

発症後10日ごろ

発症後10日ほどが経過すると、炎症が中膜にも及び、動脈壁全層が炎症を起こします。

発症後1~2週間

冠動脈の炎症の程度によって、3つのケースに分かれてきます。

〔ケース1〕
血管炎のみで炎症が治まる。適切な処置によって急性期を早い段階で乗り切ることができると、これ以上悪化することなく収束させることができます。

〔ケース2〕
血管の炎症によって血管壁の構造が破壊されてもろくなった結果、動脈の拡張が起こります。この拡張が3mm以下にとどまり、瘤が形成されません。

〔ケース3〕
血管の拡張が悪化してしまうと、血管のコブ=瘤(りゅう)が形成されます。この瘤がその後どのような経過をたどるのか、これにも3つのケースがあります。




急性期を過ぎた後の瘤の変化

急性期の症状が治まった後、できてしまった瘤はどのような変化をしていくのでしょうか。

〔ケースA〕
ひとたびできた瘤が、数か月で縮小して見えなくなることがあります。これを「一過性拡大」と呼びます。一過性拡大では、血管壁の障害は軽く、炎症がおさまるとともに冠動脈の太さが元に戻ります。

〔ケースB〕
数か月から数年という長期間をかけて瘤が退縮して見えなくなり、冠動脈造影では正常に戻ったように見えます。このケースは、一見治ったように見えるのですが、実は注意が必要です。

4mm以上の瘤ができた場合には、血管壁が強く破壊されているため、その後、血管壁の細胞が増殖して血管壁が厚くなります。この状態を「肥厚(ひこう)」といいます。瘤が退縮して表面的には正常に戻ったように見えても、血管内が肥厚して血液の通り道(血管内腔)が狭くなってしまうことがあるのです。これを「冠動脈狭窄(かんどうみゃくきょうさく)」といいます。

冠動脈狭窄は、川崎病を発症して1~2年後に現れることもあれば、10年以上経過してから現れることもあるため、定期的な検査を続ける必要があります。

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これは、国立循環器病研究センターのサイトからの引用で、発症から4か月の時点と16年後の時点で撮影された、冠動脈造影と血管内エコーの画像です。左上が発症4か月時点の冠動脈造影で、2か所に小さな瘤ができてるのが分かります。それに対して右側は16年後の冠動脈造影です。2つの瘤は退縮して、造影では見えなくなっています。ところが血管内エコーを見てみると、過去に瘤があった箇所では、血管壁が肥厚して血液の通り道が狭まっていることが分かります。長期間にわたって見えない形で進行する後遺症。定期的に検査を行うことで、こうした変化を把握し、対策を打つことが可能となります。

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こちらの画像では、左から順に発症後4か月、9年後、18年後の冠動脈造影が示されています。発症4か月で見られる瘤は、9年後には退縮して見えなくなっています。ところが、18年後には、かつて瘤があった箇所の血管が狭窄を起こしていることが分かります。長い年月を経て肥厚した血管壁が、ついに詰まって狭窄を起こしたのだと考えられます。この状態が続くと、心筋に血液が行かなくなり、心筋梗塞に至ります。

〔ケースC〕

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冠動脈瘤が残ってしまうケースです。川崎病に罹患した患者の0.78%が、冠動脈瘤の後遺症を持つという統計結果があります。近年は年間およそ15000人が罹患しているので、その内のおよそ117人に冠動脈の後遺症が残ると考えられます。

内径8.0mm以上の巨大冠動脈瘤を患うのは全患者の0.22%、つまり年間およそ33人が、心筋梗塞の高いリスクを抱えて生きていくことになります。

発症後2~3か月で冠動脈造影検査を受ける

川崎病発症から2~3か月が経過しても冠動脈径が4~6ミリを超えるときは、心臓カテーテル検査による冠動脈造影を受けることが推奨されます。この検査によって、急性期の冠動脈の形態と冠動脈径を把握しておくことがポイントです。

なぜなら、上記の〔ケースB〕のような場合、瘤が退縮してしまった後に、肥厚による冠動脈狭窄が数年を経過してから起こる可能性があるからです。どこにどのくらいの大きさの冠動脈瘤があったかを把握しておかなければ、どの箇所に狭窄が生じるリスクがあるのかが分からなくなってしまいます。1年以上経過してから造影しても、障害を受けた部位や程度を正確に知ることはできません。発症後2~3か月の造影検査は、以後長く続いていく予後を正確に把握するための、きわめて重要なデータを与えてくれるのです。次のような検査が行われます。

血管内エコー

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血管壁の「肥厚」を調べるには「血管内エコー」という検査を行います。これはカテーテルの先に超音波探触子を付けることで、血管の断面を観察することができます。大きな瘤が退縮して、外から見た血管造影が正常な場合でも、血管壁に「肥厚」があるかどうかを正確に見抜くことができます。

電子ビームCT

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「電子ビームCT」と呼ばれる検査では、「石灰化」(冠動脈壁が硬くなり、骨のように写る)の有無を知ることができます。石灰化がある時は、血管壁の肥厚があると考えられます。この箇所を知ることで、「狭窄」の出現に注意すべき箇所を把握することができます。

発症後1年半以内に心筋梗塞が起こる

乳幼児の冠動脈の太さは通常は2mm以下です。これが拡張して10mm以上になる場合、冠動脈の内皮細胞は大きな障害を受けています。内皮細胞はもともと血液が滞りなく流れるよう、詰まるのを防ぐ役割を果たしています。それが障害されることで、血液が詰まって血栓ができやすい状況になります。

さらに急性期と回復期には、出血を止めようとして、血液の凝固をうながす因子の活動が高まります。血栓ができるのに大きな役割を果たす血小板も増えてきます。こうした異常な状態がそろうため、大きな瘤の中に血栓ができ、血管が閉塞してしまいます。

こうして瘤の中に血栓ができて、冠動脈の血流が止まってしまうと、心筋に血液が行かなくなり、心筋細胞が障害を受けます。これが「心筋梗塞」です。

こうした状況は、川崎病の発症から1年半以内に起こることが多いとされています。急性期に7mm以上の大きさの冠動脈瘤ができてしまった時には、こうしたリスクが大きくなります。そのことを踏まえて、心筋梗塞を起こさないような治療が行われます。

川崎病を発症した患者のうち、心筋梗塞に至ってしまうのは全体の0.01%と言われています。年間およそ15000人の罹患者のうち、1.5人。数は少ないかもしれませんが、毎年確実に川崎病の後遺症である冠動脈瘤、それがもたらす心筋梗塞によって、幼い命が失われています。そしてその数は増え続けているのです。

次の記事では、この記事で解説したような冠動脈狭窄や心筋梗塞を、どうのように防いでいくのかについて記します。こちら↓をご覧ください。

【川崎病5】冠動脈瘤をケアし、心筋梗塞を予防する


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