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【演奏会の感想】弦楽トリオ版「ゴルトベルク変奏曲」バイオリン石上真由子ほか(2018年7月 京都)

石上真由子「ゴルトベルク変奏曲」チラシ

こんにちは。そなてぃねです。

才能ある若い演奏家を発見することは、大きな喜びです。今夜はそんな喜びをたっぷりと味わってきました。

バイオリニストの石上真由子(いしがみ・まゆこ)さんが弦楽トリオを組んで、バッハの名曲ゴルトベルク変奏曲を弾きました。

関西の若手演奏家の素晴らしさに触れることができました。

演奏会の概要

【石上真由子、野澤匠、黒川冬貴 トリオ・リサイタル】

 

バッハ作曲
ゴルトベルク変奏曲(弦楽トリオ版)

 

ヴァイオリン:石上真由子
ヴィオラ:野澤匠
コントラバス:黒川冬貴

 

2018年7月12日(木)19:00~
洛陽教会(京都)

 

そなてぃね感激度 ★★★★☆

バッハのゴルトベルク変奏曲を弦楽トリオで聴く

演目は、バッハ作曲 ゴルトベルク変奏曲 BWV988。美しいアリアが冒頭とラストにあらわれ、その間に30の変奏曲が展開されます。

もともと鍵盤のために書かれた作品ですが、名バイオリニスト、ドミトリー・シトコヴェツキーが弦楽トリオのために編曲したバージョンが演奏されました。

「ゴルトベルク変奏曲」は眠るための音楽ではない

「ゴルトベルク変奏曲」は、不眠症に悩む伯爵のために書かれたという逸話が残っていますが、石上さんたちの演奏を聴いていて、僕は楽しくて仕方ありませんでした。

次から次へと新しい引き出しが開いて、変化に富んだ音楽が飛び出してくるのです。

そのすべてが生き生きしていて、居眠りどころか、逆に覚醒していく感じでした。

石上真由子さんからは音楽が溢れている

バイオリン石上真由子

石上真由子さんの演奏には、「表現したい!」という強い意志が、表情からも体の動きからも溢れています。

そのすべてが美しく、僕は目が離せませんでした。

「大好きなこの曲をいま演奏しているんだ!」という喜びが伝わってきて、こちらまで幸せな気持ちになるのです。

余計な雑念は忘れて、ただただ石上さんの音楽を全身に浴びる喜びに包まれました。

凄腕! コントラバス黒川冬貴さんの深い音色

コントラバス黒川冬貴

もうひとつ特筆すべきは、コントラバスの黒川冬貴さんです。

ゴルトベルク変奏曲の弦楽トリオ版は、本来バイオリン、ビオラ、チェロで演奏されますが、今回はチェロパートがコントラバスで演奏されました。

チェロパートは大変な難曲です。これをコントラバスで演奏するなんて、ちょっと信じられませんでした。

でも、黒川さんは深く柔らかい音色と、鮮やかなテクニックで、コントラバスにしか出せない味わいを聴かせてくれました。

黒川さんは、滋賀県出身。高校卒業後にドイツに渡って研鑽を積み、帰国後は兵庫芸術文化センター管弦楽団、大阪フィルハーモニー交響楽団のトップ、そして現在は京都市交響楽団の首席と、一貫して地元関西のオーケストラで活動を続けています。

関西を代表するコントラバスの名手といってもいいでしょう。

バイオリニスト石上真由子さんの魅力

バイオリニストの石上真由子さんを僕が最初に知ったのは、今から10年前の2008年。

高校2年生だった彼女が日本音楽コンクールで第2位になったときのドキュメンタリーがNHKで放送されたを見たのです。

本選の課題曲はブラームスのバイオリン協奏曲。荒削りながらも、圧倒的な魅力が溢れていました。表現への強い意思がみなぎっていて、日本人離れしたスケールの大きさと感性の豊かさを感じさせました。

何より音楽をする喜びに満ちていて、弾き終えた瞬間、笑顔とともに涙を流す姿を見て、僕も思わず涙ぐんでしまったものです。

あれから10年。20代後半になった彼女は素晴らしい成長を遂げていました。溢れんばかりの表現への欲求は深みを増し、演奏技術は洗練されて、彫りの深い音楽を作り出していました。

ゴルトベルク変奏曲で曲想が変化していくごとに、彼女の新しい引き出しが次々に開いていくようでした。

実は石上さん、プロのバイオリニストとしてはかなり異色の経歴を持っています。音楽大学ではなく京都府立医科大学に進んで医者を志していたのです。

2016年にNHK-FM「リサイタル・ノヴァ」にゲスト出演した彼女は、幼いころから音楽家よりも医者を目指していたと語っていました。

その後、医師免許を取ったのかどうかは分かりませんが、医学の勉強とバイオリンを両立していたことには驚くばかりです。

彼女はいま京都在住。音楽事務所には所属せず、演奏会のマネジメントは自分自身でやっているようです。

これはとても不思議なことに思えました。

演奏家としてのポテンシャルはもちろん、美しさも兼ね備えた彼女は、もっと国内外を飛び回って活躍していてもおかしくありません。

生まれ育った京都で、じっくりと自分のペースで音楽を育む道を選んだのでしょうか。

ちょっともったいないような気もしますが、これからも石上さんにしかできない演奏活動を続けてくれることを、応援したいと思います。

ところで、先ほど触れた「リサイタル・ノヴァ」の中で彼女は、ラフマニノフの名曲「ヴォカリーズ」について、こんなことを話していました。

「医学部の受験勉強のために数ヶ月バイオリンから離れていた時期があった。そのとき、恩師が弾くヴォカリーズを聴いて、あまりの美しさに涙が溢れた。

成人になったとき、この曲に初めて取り組んだが、自分の表現を見いだせず苦しみぬいた。それだけに思い入れの深い曲」

今回のゴルトベルク変奏曲の演奏会から話がそれてしまいますが、彼女の弾くヴォカリーズの音源をご紹介します。石上真由子さんの音楽性がよく感じられると思います。

〔追記〕石上さんがツィッターにお返事くれました!

このブログ記事を、慣れないツィッターでアップしてみたところ…

そうしたら、なんと石上真由子さんご本人が返信してくれました!

すごいですね! バイオリニストとして研鑽を積みながら、医師免許を取得!! 持って生まれた才能もさることながら、どれほどの努力をしたことでしょう。

医師としてお仕事をされているのか…?? 謎は深まるばかり。そしてミステリアスな魅力も深まるばかりです。

会場は京都の教会

今回のコンサート会場は京都市の洛陽教会。京都御所の近くにある美しい教会です。

演奏会が行われた2018年7月12日(木)は、記録的な豪雨災害が起こった数日後。教会の近くを流れる鴨川は、少し穏やかさを取り戻しているようでした。

(洛陽教会サイトから引用)

100席くらいでしょうか。普通のコンサートホールとは一味違う、親密で穏やかな空気に満たされた空間でした。

石上真由子さんは、こうした地元に根付いた場所で、月に1回ほど、室内楽のコンサートをされています。

気軽に入ることができるけど、内容は決して生易しいものではなく、エッジの効いた唯一無二のプログラム。

「石上さんは次のコンサートで何を企んでいるんだろう?」とワクワクできる京都の聴衆は幸せですね。

▼石上真由子さんの他のコンサートを聴いた感想はこちら。

長岡京室内アンサンブル プログラム【演奏会の感想】長岡京室内アンサンブル 音楽の喜びに溢れた至福の時間(2019年2月 京都)石上真由子・諸岡拓見デュオ・リサイタル【演奏会の感想】バイオリン石上真由子&チェロ諸岡拓見デュオ・コンサート(2019年2月 京都)石上真由子シェーンベルク「浄夜」【演奏会の感想】シェーンベルク「浄夜」バイオリン石上真由子さん他(2019年8月 京都)

▼石上真由子さんのデビューCD。踏み込みの鋭い圧巻のヤナーチェクを聴けます。

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あとがき

石上真由子さんのような才能あふれる奏者が京都を拠点にソリストとして活動し、黒川冬貴さんのような名手が関西のオーケストラ一筋で活動していることは、東京の音楽シーンしか知らなかった僕には新鮮な発見でした。

今後も関西でしか聴けない演奏会に足を運び、魅力的な若手演奏家を知っていきたいです。

▼「ゴルトベルク変奏曲」弦楽トリオ版のおすすめCD。ジュリアン・ラクリン(ヴァイオリン)、今井信子(ヴィオラ)、ミッシャ・マイスキー(チェロ)による演奏です。

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