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【蜜蜂と遠雷】演奏曲目リスト①風間塵 予選から本選までの全13曲の楽曲解説とおすすめの動画まとめ

風間塵イラスト

こんにちは。そなてぃねです。

2016年に出版されベストセラーとなった恩田陸の『蜂蜜と遠雷』。2019年には映画化もされて話題になりました。

国際ピアノコンクールを舞台に、4人のピアニストがそれぞれの境遇と向き合い、葛藤を乗り越えていく長編小説です。

クラシックの名曲がたくさん登場するので、実際に音楽を聴きながら読むと、より深く楽しめます。

というわけで、4人のピアニストが演奏する全曲目をリストアップし、曲ごとに簡単な解説とおすすめ動画をご紹介します。

この記事では、16歳の天才ピアニスト、風間塵の演奏曲目をまとめます。

▼小説『蜜蜂と遠雷』の書評はこちら。

恩田陸「蜜蜂と遠雷」小説【書評・本の感想】恩田陸著『蜜蜂と遠雷』クラシック音楽を文章で描ききれるのか?

▼映画『蜜蜂と遠雷』の感想はこちら。

映画「蜜蜂と遠雷」【映画の感想】松岡茉優主演『蜜蜂と遠雷』演奏シーンは迫真の出来栄えだったが…(ネタバレあり)

▼他の3人の演奏曲目リストはこちら。

栄伝亜夜イ【蜜蜂と遠雷】演奏曲目リスト②栄伝亜夜 予選から本選までの全13曲の楽曲解説とおすすめの動画まとめ高島明石イラスト【蜜蜂と遠雷】演奏曲目リスト③高島明石 予選から本選までの全13曲の楽曲解説とおすすめの動画まとめマサル・カルロス イラスト【蜜蜂と遠雷】演奏曲目リスト④マサル・カルロス 予選から本選までの全12曲の楽曲解説とおすすめの動画まとめ

風間塵の人物像

風間塵 演奏シーン

(公式トレイラーから引用)

最初に、風間塵(かざま・じん)の人物像に触れておきます。

年齢は16歳、コンテスタントの中で最年少。父親が養蜂家で、幼いころからヨーロッパを移住生活しています。

5歳のころから名ピアニスト、ユウジ・フォン=ホフマンに師事するも、自宅にピアノがないという型破りの設定。

自然児ならではの鋭い感性と、楽器を鳴り響かせる力、圧倒的なテクニックを併せ持ち、コンクールのダークホースとして審査員たちの度肝を抜きます。

映画では新人俳優の鈴鹿央士さんが演じ、ピアノ演奏は2019年のチャイコフスキー国際コンクールで第2位に入賞して話題になった藤田真央さん(20歳)が担当しました。

▼企画CDには、風間塵がコンクールで演奏した曲の一部が収録されています。

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風間塵の第1次予選

第1次予選では、バッハ、古典のソナタ、ロマン派を組み合わせて、20分以内のプログラムを組みます。

【風間塵の第1次予選】

  1. バッハ作曲
    平均律クラヴィーア曲集 第1巻 第1番 ハ長調
  2. モーツァルト作曲
    ピアノ・ソナタ 第12番 ヘ長調 K.332 から第1楽章
  3. バラキレフ作曲
    イスラメイ

バッハ作曲 平均律クラヴィーア曲集 第1巻 第1番 ハ長調

クラシック音楽をあまり知らない人でも、必ずどこかで聴いたことがある名曲。

平均律クラヴィーア曲集は、ヨハン・セバスティアン・バッハ(1685~1750年)が鍵盤楽器のために作曲し、1742年に完成した不滅の業績。

24の調性ので書かれた「前奏曲」と「フーガ」で構成されていて、風間塵は冒頭のハ長調を演奏しています。

▼旧ソ連の巨匠スヴャトスラフ・リヒテル(1915~1997年)の往年の名演奏。平均律クラヴィーア曲集 第1巻と第2巻の全曲が4時間半にわたって収録されています。

モーツァルト作曲 ピアノ・ソナタ 第12番 ヘ長調 K.332 から第1楽章

アマデウス・モーツァルト(1756~1791年)が、27歳のころに書いた作品です。

技巧的に比較的やさしく書かれていて、ピアノを習った経験のある方は弾いたことがあるかもしれません。

▼韓国出身のチョ・ソンジンの演奏。『蜜蜂と遠雷』のモデルとなった浜松国際ピアノコンクールで、2009年に最年少で優勝。その後、2011年にチャイコフスキー国際コンクール第3位、2015年にショパン国際ピアノコンクールで優勝し、国際的に脚光を集めました。

バラキレフ作曲 イスラメイ

ミリイ・バラキレフ(1837~1910年)は、ロシアの作曲家。同時代のムソルグスキー、リムスキー・コルサコフ、ボロディン、キュイらと「ロシア五人組」を結成。バラキレフはそのまとめ役でした。

「イスラメイ」とは、バラキレフがコーカサス地方を旅したときに出会った舞曲の名前。32歳のころの作品で、超絶技巧が必要な難曲として知られます。

▼ロシア出身のボリス・ベレゾフスキー(1969年~)の演奏。1990年のチャイコフスキー国際コンクールで優勝して、一躍世界の舞台に躍り出ました。胸をすくような輝かしいフォルテシモで、難曲中の難曲を軽々と鮮やかに弾いていて圧巻です。

風間塵の第2次予選

第2次予選(24人出場)では、より幅広い作曲家から計40分以内のプログラムを組みます。菱沼忠明という架空の作曲家による「春と修羅」という新曲を入れることが条件になっています。

【風間塵の第2次予選】

  1. ドビュッシー作曲
    12の練習曲 第1巻 第1番「5本の指のための/ツェルニー氏に倣って」
  2. バルトーク作曲
    「ミクロコスモス」第6巻から「6つのブルガリア舞曲」
  3. 菱沼忠明作曲
    「春と修羅」
  4. リスト作曲
    「2つの伝説」から「小鳥に説教するアッシジの聖フランチェスコ」
  5. ショパン作曲
    スケルツォ 第3番 嬰ハ短調

ドビュッシー作曲 12の練習曲 第1巻 第1番「5本の指のための/ツェルニー氏に倣って」

クロード・ドビュッシー(1862~1918年)は、フランスを代表する作曲家で、「印象派」に分類されます。

12の練習曲は、最晩年に作曲されたピアノ曲。風間塵が選曲した第1巻の第1番では、無機的な音形が徐々にドビュッシー独自の印象的な響きに展開していきます。

▼ドイツのピアニスト、ワルター・ギーゼキング(1895~1956年)の最晩年の録音。古い録音ですが、明晰な解釈と優れた演奏技術が伝わってきます。

バルトーク作曲 「ミクロコスモス」第6巻から「6つのブルガリア舞曲」

ベーラ・バルトーク(1881~1945年)は、ハンガリーの作曲家。母国の民族音楽を採集して、自らの作品に取り入れました。

「ミクロコスモス」は全6巻、計153曲の小品からなるピアノのための練習曲集。ひとつひとつは1~2分ほどの短い曲で、様々なキャラクターの集合体ということから「小宇宙」を意味するタイトルがつけられました。

▼風間塵が選んだのと同じ、6つの作品が収められた動画。崔理英(さい・りえ)さんという京都在住のピアニストの演奏です。

菱沼忠明作曲 「春と修羅」

架空の作曲家、菱沼忠明による課題曲「春と修羅」。宮沢賢治の同名の詩集をもとに作曲された設定になっています。

映画のための楽曲は、ロンドン在住の現代作曲家、藤倉大さんが、小説のディテールを読み込んで作曲。繊細で美しい作品に仕上がっています。

この作品の特徴は、楽曲の終盤に「自由に、宇宙を感じて」とだけ指示されたカデンツァが置かれていること。カデンツァとは、演奏者が即興で演奏することが許された白紙の部分です。

4人の登場人物によるカデンツァも藤倉さんが書き分けていて、それぞれの個性が際立っています。ぜひ映画を観てみてください。

風間塵のカデンツァは「修羅」の部分に焦点を当てたもの。残酷なまでの自然の厳しさを表現します。

▼藤田真央さん(1998年~)による企画CDの演奏。風間塵バージョンのカデンツァは、3:12から始まります。

リスト作曲 「2つの伝説」から「小鳥に説教するアッシジの聖フランチェスコ」

フランツ・リスト(1811~1886年)は、ハンガリー出身の作曲家。超絶技巧を持つピアニストとして一世を風靡し、ヨーロッパ各地で大活躍しました。

「2つの伝説」は、ローマに移り住んでいた50~52歳のころに作曲されたもので、キリスト教にまつわる2人の聖人を題材にしています。

▼国立音楽大学教授の今井顕(いまい・あきら)さんの演奏。16歳でウィーン国立音楽大学に入学し、四半世紀にわたってヨーロッパで活躍してきた方です。

ショパン作曲 スケルツォ 第3番 嬰ハ短調

フレデリック・ショパン(1810~1849年)は、ポーランド出身。「ピアノの詩人」と呼ばれました。

スケルツォは「冗談」を意味し、軽やかでユーモアにあふれた楽曲とされますが、ショパンの残した4つのスケルツォは、より芸術性の高いものになっています。

第3番はショパンが29歳のころに書かれたもので、激しい炎のような第1主題と、キラキラした分散和音が散りばめられたコラール風の第2主題の対比が印象的な作品です。

▼2015年のショパン国際ピアノコンクールで第3位に入賞したケイト・リュウの演奏。第2次予選のライブ映像です。

風間塵の第3次予選

第3次予選(12人出場)では、60分以内のリサイタル・プログラムを自由に組みます。

【風間塵の第3次予選】

  1. サティ作曲
    あなたがほしい
  2. メンデルスゾーン作曲
    無言歌集から「春の歌」イ長調 作品62-6
  3. ブラームス作曲
    カプリッチョロ短調 作品76-2
  4. ドビュッシー作曲
    版画
  5. ラヴェル作曲
  6. ショパン作曲
    即興曲 第3番 変ト長調 作品51
  7. サン・サーンス作曲/風間塵編曲
    アフリカ幻想曲 作品89

サティ作曲 あなたがほしい

エリック・サティ(1866~1925年)は、音楽界の異端児と呼ばれたフランスの作曲家。革新的な作風で、ドビュッシーやラヴェルに強い影響を与えました。

「あなたがほしい」は1900年に作曲されたシャンソンで、現在はピアノ独奏版でよく知られています。コンクールで弾かれることは、ほとんどありません。

小説『蜜蜂と遠雷』の中で、風間塵はこの曲を最初に演奏しつつ、他の曲の間にも、この曲の断片を演奏するという、型破りなことをします。

▼「ハネケン」の愛称で親しまれたピアニスト、羽田健太郎さん(1949~2007年)の演奏。ポップスや劇伴など幅広く活躍された方ならではの、力の抜けた軽妙洒脱な響きです。

メンデルスゾーン作曲 無言歌集から「春の歌」イ長調 作品62-6

フェリックス・メンデルスゾーン(1809~1847年)は、ドイツの作曲家で、指揮者、ピアニスト、オルガニストとしても活躍しました。

無言歌集は彼の代表的なピアノ曲。6曲からなる曲集が全8巻、計48曲で構成されています。

「春の歌」は、メンデルスゾーンが35歳のころに書かれた第5巻に収められていて、無言歌集の中でもっとも有名な曲です。

▼ダニエル・バレンボイム(1942年~)の演奏。彼のような偉大な音楽家だからこそ、こういう小品が輝きを放ちます。

ブラームス作曲 「カプリッチョ」ロ短調 作品76-2

ヨハネス・ブラームス(1833~1897年)は、ドイツの作曲家。バッハ、ベートーベンとともに「三大B」とも称されます。

「カプリッチョ」はイタリア語で「気まぐれな」という意味で、日本語では「奇想曲」と表記されます。

ブラームスが45歳のころに作曲した「8つの小品」の2曲目で、スタッカートの軽快な旋律が魅力的な作品です。

▼ポーランドの大ピアニスト、アルトゥール・ルービンシュタイン(1887~1982年)の演奏。木目調の温かい音色。僕は個人的に子供のころから一番好きなピアニストです。

ドビュッシー作曲 版画

「版画」は、先ほども登場したドビュッシー(1862~1918年)が41歳のころ作曲した、3曲からなる曲集。

1曲目の「塔(パゴダ)」は、インドシナの民族音楽から影響を受けたもの。2曲目の「グラナダの夕べ」は、スペイン情緒に満ちた作品。3曲目の「雨の庭」では、母国フランスの庭園に激しく降る雨が描写されています。

▼フランスを代表するピアニスト、サンソン・フランソワ(1924~1970年)の演奏。天才としか言いようのない唯一無二のセンスです。

ラヴェル作曲 鏡

モーリス・ラヴェル(1875~1937年)は、ドビュッシーの一回り下の世代にあたるフランスの作曲家。

「スイスの時計職人」とも称された精緻な書法で、色彩豊かな作品を残しました。

「鏡」は、30歳のころの作品。5曲からなる組曲で、第1曲「蛾」、第2曲「悲しげな鳥たち」、第3曲「海原の小舟」、第4曲「道化師の朝の歌」、第5曲「鐘の谷」。

▼現代フランスの凄腕ピアニスト、ジャン=エフラム・バヴゼ(1962年~)の演奏。魔術的な輝きを放つ響きをお聴きください。

ショパン作曲 即興曲 第3番 変ト長調 作品51

即興曲 第3番は、ショパン(1810~1849年)が、32歳のころの作品。

この時期のショパンは、健康状態を悪化させながらも、恋人ジョルジュ・サンドとの日々の中で、数々の傑作を生み出しました。

▼2015年のショパン国際コンクールで第2位となった、シャルル・リシャール=アムラン(カナダ)の演奏。豊かな表現力で魅力的な演奏を聴かせてくれます。

サン・サーンス作曲/風間塵編曲 アフリカ幻想曲 作品89

カミーユ・サン=サーンス(1835~1921年)は、ドビュッシーやラヴェルよりも30~40歳ほど先輩にあたるフランスの作曲家。オルガニストとしても著名で国際的に活躍しました。

彼はアフリカへの憧れが強く、「エジプト風」と題したピアノ協奏曲や「アルジェリア組曲」などを作曲。「アフリカ幻想曲」は、1891年に旅行先のカイロで書き上げました。

ピアノとオーケストラのための10分ほどの作品ですが、『蜜蜂と遠雷』の中で風間塵は、自らアレンジしたピアノ独奏版を演奏します。

▼ジャン=フィリップ・コラールの独奏、アンドレ・プレヴィン指揮、ロイヤル・フィルによる演奏。風間塵がどんなふうにアレンジしたのか想像しながら聴いてみましょう。

風間塵の本選

本選(6人出場)では、オーケストラとの共演で、ピアノ協奏曲を1曲選びます。

【風間塵の本選】

  1. バルトーク作曲
    協奏曲 第3番

バルトーク作曲 ピアノ協奏曲 第3番

先ほども登場したハンガリーの作曲家、バルトーク(1881~1945年)が、亡命先のアメリカで書いた最後の作品が、ピアノ協奏曲 第3番です。

白血病の末期症状の中、病床で必死にオーケストレーションの仕上げを続ける中、完成を目前にして世を去りました。

▼ハンガリーの名手、アンドラーシュ・シフ(1953年~)と、マーク・エルダー指揮、ハレ管弦楽団による演奏です。

あとがき

第1次予選から本選まで、こうして全作品を並べてみると、国際コンクールへの挑戦がいかに過酷なものなのかが分かります。

これだけの作品を、膨大な時間をかけて仕上げても、予選落ちしてしまえば、残りの作品は披露するチャンスを失うのですから…

それにしても、16歳の型破りの天才、風間塵のプログラムは、本当に個性的だなぁと感じました。ぜひ音源を聴きながら、小説を読んでみてください。

▼余談ですが、アイキャッチのこの画像、風と光の中にいる風間塵の姿をイメージして描いてみたのですが、いかがでしょうか…?

風間塵 アイキャッチ画像2

▼このイラストについては、個人ブログ「げんきリズム」のこちらの記事をご覧ください。

参考 『蜜蜂と遠雷』のアイキャッチ画像を描いてみたげんきリズム

▼小説『蜜蜂と遠雷』の書評はこちら。

恩田陸「蜜蜂と遠雷」小説【書評・本の感想】恩田陸著『蜜蜂と遠雷』クラシック音楽を文章で描ききれるのか?

▼映画『蜜蜂と遠雷』の感想はこちら。

映画「蜜蜂と遠雷」【映画の感想】松岡茉優主演『蜜蜂と遠雷』演奏シーンは迫真の出来栄えだったが…(ネタバレあり)

▼他の3人の演奏曲目リストはこちら。

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