こんにちは。そなてぃねです。
2020年1月に行われた、京都市交響楽団 第641回定期演奏会を聴きに行きました。
元ベルリン・フィルの名フルート奏者、アンドレアス・ブラウを招いての、バーンスタイン作曲「ハリル」。
そしてメインは、ショスタコーヴィチの大曲、交響曲 第7番「レニングラード」。
2020年4月から首席客演指揮者に就任するジョン・アクセルロッドが、京響から極限の集中力を引き出し、ものすごい演奏を繰り広げました。
演奏会の概要
京都市交響楽団 第641回定期演奏会
- ベートーヴェン作曲
「アテネの廃墟」作品113から序曲 - バーンスタイン作曲
「ハリル」独奏フルートと弦楽オーケストラ、打楽器のためのノクターン - ショスタコーヴィチ作曲
交響曲 第7番 ハ長調「レニングラード」作品60
フルート アンドレアス・ブラウ
指揮 ジョン・アクセルロッド
管弦楽 京都市交響楽団
2020年1月19日(日)14:30~
京都コンサートホール
そなてぃね感激度 ★★★★☆
バーンスタイン「ハリル」に見た走馬灯
レナード・バーンスタイン(1918~1990)の「ハリル」は、不思議な美しさを持つ作品でした。
どのような背景の作品なのか。スコアの冒頭に記された作曲者自身の言葉をご紹介します。
この作品は「ヤディンと彼の戦死した同胞たちの魂に」捧げられている。ヤディンは19歳のイスラエルのフルーティストで、1973年に、その音楽的能力の頂点にあって、シナイ半島で、戦車の中で死んだ。この作品が書かれたとき、彼は27歳になっていたはずだった。
「ハリル」(ヘブライ語でフルートの意味)は、形式上、私の書いてきたどの作品とも似ていない。しかし調性と無調の闘争ということにおいては私の音楽の多くと共通している。
ここで私の思う闘争とは、戦争や戦争の脅威にかかわる闘争、圧倒的な生への意欲、芸術や愛や平和への希望による慰めなどである。
これはいわば夜の音楽である。冒頭の十二音音列からあいまいな全音階的な終結まで、希望の夢、悪夢、休息、不眠、夜の恐怖、「死の双子の兄弟」である眠りそのものといった夜のイメージがぶつかり続ける。
私はヤディン・タネンバウムをまったく知らなかったが、彼の魂を知っている。
レナード・バーンスタイン
バーンスタインは、19歳で戦死したフルート奏者ヤディン・タネンバウムの魂を、独奏フルートの旋律に託したのでしょうか。
そして、ソロに影のように寄り添い続けるアルトフルートは、彼を見守る存在…
ロマンティックに絡み合うハープは、彼の恋人…
多様な響きでスパイスを与える打楽器群は、彼の同胞たち…
聴いていて、そんな空想が膨らみました。
ミュージカルのような美しい旋律から、無調の不吉な響きまで、様々な要素が走馬灯のように過ぎていきます。
19年という短い生涯を駆け抜けた青年の人生を、追想するかのように…
独奏フルートのアンドレアス・ブラウは、1969年から2015年までベルリン・フィルのソロ奏者を務めた名手。
太くあたたかい音色で、楷書体の演奏を聴かせました。
アンコールには、ドビュッシーの「シランクス」を披露。調性感の希薄な幻想的な作品ですが、雰囲気に溺れることのない、折り目正しい演奏が印象的でした。
ショスタコーヴィチの超大曲「レニングラード」
ドミトリー・ショスタコーヴィチ(1906~1975)が、1941年に完成させた交響曲 第7番「レニングラード」は、計70分以上もかかる超大曲です。
ナチス・ドイツ軍によってレニングラード(現サンクトペテルブルク)が包囲され、食料や燃料の補給路が絶たれるという苦境の中で作曲されました。
この作品が何を表しているのかは、議論が分かれるところですが、ファシズム、共産主義、全体主義といった体制の非人間性を告発していると言われています。
正直に言うと、僕はこの作品のよさがよく分かりません。巨大だけど中身が空っぽなハリボテを見ているような気持ちになってしまうのです。
オケが全開で鳴っていても、なぜか温度が低く感じられて、内面から湧き上がるものが感じられないのです。今日も、作品そのもののよさは結局よく分かりませんでした。
しかし、演奏そのものは、とてつもない集中力に貫かれた素晴らしいものでした。
首席客演指揮者に就任するジョン・アクセルロッド
京響から最高のパフォーマンスを引き出したのは、2020年4月に首席客演指揮者に就任するジョン・アクセルロッドです。
ジョン・アクセルロッド(1966~)は、現代音楽を得意とする指揮者で、現在はスペイン王立セビリア交響楽団の音楽監督と、ミラノ・ジュゼッペ・ヴェルディ交響楽団の首席客演指揮者を務めています。
ハーバード大学を卒業という秀才で、指揮はバーンスタインから学んでいます。
アクセルロッドは、「レニングラード」の長大なスコアから、実に見通しのいい音楽を紡ぎ出していました。
常に全体を俯瞰する広い視野を持ち、同時に細部まで妥協なく仕上げる職人技。
そして、ステージ上で緊迫感あふれる集中状態を作り出し、楽団員から最高のパフォーマンスを引き出すライブ力。
彼のそういった能力が遺憾なく発揮され、ラストの壮大なクライマックスでは、すさまじいカタルシスが生み出されました。
演奏がここまですごいと、曲を理解できるかどうかなど関係なく、魂が揺さぶられ、全身に震えがきます。本当にすさまじい演奏でした。
▼左上のスペースに配置された計9名のバンダも効果的。抜群のバランスでホール全体に京響サウンドが鳴り響きました。
(公式サイトから引用)
アクセルロッドさん、本当にすごい指揮者です…!
京響とは2009年から共演を重ね、今回が5回目。2020年4月から首席客演指揮者に就任し、次回の9月定期では、マーラーの交響曲 第2番「復活」で登場とのこと。
今後の京響との共演がますます楽しみです。
あとがき
先日、大阪フィルの第534回定期を聴きに行き、集客の厳しさを感じたのですが、京響は集客でもかなりの成果を上げているようです。
座席数およそ1800の京都コンサートホール 大ホールで、今日は9割近くが埋まっていたのではないでしょうか。
いわゆる名曲プログラムではなく、かなり玄人好みの内容で、これだけ集客できるというのは、すごいことだと思います。
現在の関西のオーケストラ界では、京響が頭一つ抜きん出ている感があります。これからも、より質の高い演奏で、引っ張っていってもらいたいです。
▼京都市交響楽団の定期演奏会のCD。どれも聴き応えがあります。
▼京都市交響楽団 第624回定期の感想はこちら。
【演奏会の感想】京都市交響楽団 第624回定期 リオ・クオクマン指揮「悲愴」(2018年6月 京都コンサートホール)▼京響に所属するコントラバス奏者、ジュビさんのライブの感想はこちら。
【演奏会の感想】ジュビレーヌ・イデアラ「にじいろのさんぽみち。」CD発売記念ライブ(2019年12月2日 京都モダンタイムス)