こんにちは。そなてぃねです。
2019年2月に京都で行われた、長岡京室内アンサンブルの演奏会を聴きに行きました。
京都の長岡京市を拠点に22年間、独自の響きを育んできた楽団です。
以前から聴きに行きたいと思っていましたが、今回初めて行くことができました。
最初の音が鳴った瞬間から、プレイヤー全員の「音楽をする喜び」が溢れ出し、僕たち聴衆を至福の時間にいざなってくれました。
演奏会の概要
【長岡京室内アンサンブル 演奏会】
- モルター作曲
序曲 ト長調 MWV3.5 - スーク作曲
弦楽セレナード ホ長調 作品6 - モーツァルト作曲
バイオリン協奏曲 第1番 変ロ長調 K.207 - モーツァルト作曲
交響曲 第29番 イ長調 K.201
2019年2月2日(土)15時~
京都府 長岡京記念文化会館
そなてぃね感激度 ★★★☆☆
長岡京室内アンサンブルとは
長岡京室内アンサンブルは、1997年3月に結成。2019年で丸22年になる楽団です。
曲目によって人数は変化しますが、基本的には弦楽アンサンブルで、第1バイオリンと第2バイオリンがそれぞれ4人ずつ、ビオラとチェロがそれぞれ2人ずつ、コントラバス1人という編成のようです。
大きな特徴は指揮者がいないこと。お互いの音を聴き合ってアンサンブルを作り上げます。これは楽団員一人ひとりが、研ぎ澄まされた耳を持っていなければできません。
拠点の長岡京市は、歴史の古い町。奈良時代と平安時代に挟まれた10年間(784~794年)都が置かれた地です。
日本の原点の一つであるこの町で活動してきた長岡京室内アンサンブル。どのような音楽を奏でるのでしょうか。
▼創立20周年を記念した素晴らしいCD。有名なチャイコフスキーの弦楽セレナードと、グリーグの名曲を楽しめます。
音楽監督の森悠子さんとは
この楽団を創設したのは、バイオリニストの森悠子(もり・ゆうこ)さんです。
日本におけるクラシック音楽教育の礎を築いた斎藤秀雄の助手を務めた後、旧チェコスロバキアとフランスに留学。
1974年にパイヤール室内管弦楽団(フランス)に入団。1977~1987年にはフランス国立新放送管弦楽団に在籍しました。
教育者としては、1989~1996年にリヨン国立高等音楽院の助教授を務めました。
35年に及ぶヨーロッパでの活動を経て帰国。日本での音楽教育に人生を捧げてこられました。
森さんが「若い音楽家の育成と実践の場」として1997年に設立したのが長岡京室内アンサンブルでした。
ちなみに、森さんのお父様は、教育哲学者として著名な森昭(もり・あきら)さんです。京都帝国大学を出てドイツに留学し「人間科学」という枠組みを構築した方です。
森悠子さんの音楽教育にも、お父様の教育哲学が反映されているのかもしれませんね。
▼森悠子さんの著書。日本の弦楽界の指導者となるべく師・斎藤秀雄との約束を果たすまでの孤軍奮闘・波瀾万丈の物語です。
音楽の喜びに溢れた至福の時間
プレイヤー全員が喜びに溢れている
最初に演奏されたモルターという作曲家、僕はまったく知りませんでした。バッハとほぼ同時代のドイツの作曲家だそうです。
演奏が始まると、羽毛のように繊細な音が軽やかに舞い上がり、優美な響きが会場を満たしました。
プレイヤーの顔には笑みが浮かび、「演奏するのが楽しくて仕方ない!」という喜びが伝わってきます。
互いに呼吸を感じ合って絶妙な掛け合いを展開していく様は、聴く者の心を浮き立たせ、僕も気付けば顔がほころんでいました。
いきなり「アンコール」
モルターの後に、プログラムに書かれていない曲が、2曲も演奏されました。
実はコンサートの冒頭で森悠子さんが出てきて、曲の追加が発表されたのです。
「アンコールだけど、前半に演奏します!」
会場からは笑いが。なんて自由なコンサートなのでしょう。
追加と言っても、3楽章構成の作品が2曲です。アンコールと言うには豪華すぎますよね。
作曲家や作品名は忘れてしまいましたが、1曲目はビオラ協奏曲、2曲目は2つのチェロのための協奏曲でした。
ソリストはいずれも楽団のメンバー。1曲目のソロは、デヴィッド・キグルさん。大きな体で奏でるビオラの音色は、優しく、あたたかく、心にしっとりと染み渡りました。
2曲目のチェロのソロは、ラファエル・ベルさんと金子鈴太郎さん。軽やかで息のぴったり合った見事なアンサンブルを聴かせてくれました。
森悠子さんもスークから登場
前半最後のスークの弦楽セレナードから、音楽監督の森悠子さんもプレイヤーとして登場。第1バイオリンの後ろの列で弾きました。
その姿は、他の若いメンバーの誰よりも楽しそうでした。すべての団員に優しい目線を送って、一緒に演奏できる喜びが溢れていました。
この人のもとで音楽を学ぶことができたら、きっと楽しいだろうなぁ。
これこそ真の教育者だと、演奏する姿を見て思いました。
バイオリニスト石上真由子さんのオーラ
うれしかったのは、以前から注目しているバイオリニスト、石上真由子さんがメンバーだったことです。
石上さんの演奏する姿は本当に美しい。凛とした立ち姿は、楽団の中でも特別なオーラを放っていました。
彼女はつい先日(2019年1月23日)、日本コロムビアからCDのデビューしたばかり。ヤナーチェクのバイオリン・ソナタは、鋭い踏み込みで作品に肉薄する圧倒的な演奏でした。
そんな若手のホープが第2バイオリンの後方で弾いているのですから、長岡京室内アンサンブルの人材の層の厚さには驚かされます。
▼石上真由子さんのデビューCD。録音のクオリティも特筆ものです。
▼石上さんの主宰する室内楽のコンサートを聴きに行った感想です。
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モーツァルトのバイオリン協奏曲でソロを弾いたのは、1997年に長岡京室内アンサンブルが創設された時のメンバーだったという、安紀ソリエールさんでした。
その後の彼女の経歴は輝かしく、2001年からはヨーロッパ室内管弦楽団に入団。2004年からは名手ルノー・キャプソンと弦楽四重奏団を結成。2007年からはクラウディオ・アバドに招聘されてルツェルン祝祭管弦楽団のメンバーとなっています。
長岡京室内アンサンブルから、これほどのキャリアの演奏家が巣立っているというのは、誇るべきことだと思います。
今回演奏したモーツァルトのバイオリン協奏曲 第1番は、あまり演奏されることのない珍しい作品ですが、存分に楽しませてもらいました。
安紀ソリエールさんの奏でる音色には、僕の敬愛するアルトゥール・グリュミオーのような気品が感じられました。
格調が高く、高貴な調べ。本当に上質な音楽を聴かせてもらいました。
現在は、ベルギーのブリュッセル王立音楽院教授として後進の指導にあたっているそうです。
突き抜け切らなかったモーツァルト
最後に演奏されたモーツァルトの交響曲 第29番も素敵な演奏でしたが、正直に言うと少し不満が残りました。
音程の甘さ、リズムの甘さ、タイミングの甘さが気になってしまったのです。
わずかな精度のズレによって、モーツァルトの調べが空を舞うのが妨げられているように感じました。
気のせいかもしれませんが、楽団員の顔も、それまでの曲に比べて突き抜け切っていないような印象を受けました。
あとがき
ひとつの楽団が20年以上も続くというのは、それだけで貴重なことです。
しかも、単なる演奏の場としてだけでなく、世界的なプレイヤーを育てる教育の場にもなってきたのです。
それが東京でも大坂でもなく、長岡京という地で続いてきたことに、心から敬意を抱きます。
森悠子さんという偉大な教育者が、どのようにメンバーを育て、独自の響きを育んできたのかを知るためにも、これからも長岡京室内アンサンブルの演奏会に足を運びたいと思います。