発熱としつこい咳が特徴で、重症の肺炎になることもある「マイコプラズマ感染症」。最新のニュースで2016年10月末の患者数が過去最多だったことが報じられました。感染拡大が懸念される今、マイコプラズマ肺炎についてお伝えします。
2016年冬、患者数が過去最高に
11月1日のニュースで、マイコプラズマ肺炎の感染状況について報じられました。国立感染症研究所の統計によると、10月23日までの1週間に全国およそ500の医療機関から報告された患者の数は758人。1週間あたりの患者数としては、平成11年の統計開始以降、最多だったそうです。
「例年これからが流行のピークを迎える時期なので、今後さらに患者数が増える可能性もある。小学校や中学校に通う子どもたちを中心に、せきが続いたり声がかれたりする場合はマスクを着用し、早めに医療機関を受診してほしい」という国立感染症研究所の見理剛室長のコメントも報道されました。
患者のおよそ8割が14歳未満の子供で、重症化すると脳炎も起こす可能性があるマイコプラズマ肺炎。冬になり感染が拡大することが懸念される中、感染を防ぐために何をすべきなのか。症状や治療法など基本的な情報を見ていきましょう。
マイコプラズマ感染症とは
マイコプラズマは特殊な病原体
マイコプラズマ(Mycoplasma pneumonia)は生物学的には「細菌」に分類されますが、他の細菌と異なり細胞壁を持たず、顕微鏡で観察すると様々な形をしています。細胞の大きさが非常に小さいのも特徴で、細菌としては最小の部類に属し、ウイルスより少し大きい程度。自己増殖できる最小の微生物であり、「細菌とウイルスの間の存在」とも表現されます。
ある種の抗生物質は効かない
「ペニシリン系」「セフェム系」などの抗生物質は、細胞壁の合成を阻害することで細菌を撃退します。ところがマイコプラズマには細胞壁がありません。そのため、マイコプラズマの感染症には、これらの抗生物質が効きません。
感染力は強くない
マイコプラズマは熱に弱く、石鹸など界面活性剤でも失活するため、比較的感染しにくい病原体と言えます。地域での感染拡大の速度は遅く、学校で一気に集団感染する可能性も低いです。
マイコプラズマの感染経路
感染経路としては、主に次のふたつが挙げられます。
飛沫感染
くしゃみや咳によって病原体が飛散し、周囲の人の粘膜に付着する感染経路です。風邪、インフルエンザなど有名なウイルス性疾患と同じく、咳エチケット(マスクの着用など)の徹底が、予防のためには重要となります。
接触感染
皮膚、粘膜などの物理的な接触によって感染するものです。誰かがウイルスのついた手で触れた手すりを触り、その手で目などの粘膜をこするといった間接的な接触でも感染します。
感染後の症状の進行
マイコプラズマは体内に侵入すると、まず粘膜表面の細胞外で増殖を開始します。そして、上気道、あるいは気管、気管支、細気管支、肺胞などの下気道の粘膜上皮を破壊していきます。特に気管支、細気管支の繊毛上皮の破壊が顕著で、粘膜を剥離し、潰瘍を形成します。
このように、マイコプラズマは主に呼吸器系を破壊し、肺炎を引き起こします。
潜伏期間
マイコプラズマの潜伏期間は、通常2~3週間です。
初期症状
初発症状は主に、「発熱」、「全身倦怠」、「頭痛」などです。
3~5日後から咳が出始める
マイコプラズマ感染症のメインの症状である「咳」は、初発症状が現れて3~5日後から始まります。最初は乾いた咳で、徐々に強くなっていきます。この咳は非常にしつこく、熱が下がった後も3~4週間は長引きます。
喘息を併発
マイコプラズマによる呼吸器の破壊は著しく、喘息のような気管支炎を呈すること多くあります。急性期の患者の40%に喘鳴(喘息の「ゼーゼー」「ヒューヒュー」という胸の音)が認められます。このような症状に至ってしまうと、肺そのものの機能低下を招き、その影響は数年に及ぶと見られています。
一般的な細菌性の肺炎やウイルス性の肺炎と比較すると、マイコプラズマ肺炎は症状が軽く、肺炎にしては元気であることが特徴と言われてきました。そのため、昔から「異型肺炎」などと呼ばれてきました。
しかし重症肺炎となることもあり、胸水貯留も決して珍しいものではありません。
その他の症状
幼児を中心に、鼻炎を併発することがあります。
また25%(4人に1人)ほどの患者には、次のような症状が現れます。
- 嗄声
- 耳痛
- 咽頭痛
- 消化器症状
- 胸痛
皮膚に湿疹が現れることも、まれにあります(6~17%)。
他の併症として、以下のようなものが挙げられます。
- 中耳炎
- ウイルス性髄膜炎
- 脳炎
- 肝炎
- 膵炎
- 溶血性貧血
- 心筋炎
- 節炎
- ギラン・バレー症候群
- スティーブンス・ジョンソン症候群
他の人に感染させる期間
増殖した病原体が体外に排出されて、他の人に感染させてしまうのは、どのタイミングなのでしょうか。
気道粘液に病原体が排出されてくるのは、初発症状が現れるよりも2~8日くらい前からです。つまり、症状が現れる前から、他の人に感染させてしまうリスクがあるということです。
そして、初期症状が現れるころに排出される病原体の量はピークとなり、高いレベルが約1 週間続いたあと、4~6週間以上排出が続きます。
マイコプラズマ肺炎は学齢期の子供に多く発症する
マイコプラズマ肺炎の患者の80%は14歳未満です。もっとも多いのは7~8歳です。
乳幼児にも感染します。5歳以下の小児の場合は、肺炎として発症することは少なく、比較的軽い風邪症状で終わることが多いようです。
マイコプラズマ肺炎は、若くて健康な人が発症しやすく、重症化しやすいと言われています。これはなぜなのでしょうか。
一説には、マイコプラズマが体に侵入すると、異物を排除して体を守ろうとする免疫機能が働きますが、健康な人ほどこの免疫機能が「過剰に働く」ことがあると言われています。免疫機能が過剰に反応することで強い炎症反応が起こり、それが肺炎を引き起こし、症状を重くする、と考えられています。
マイコプラズマ肺炎の治療
先にも述べたように、細胞壁に働きかける「ペニシリン系」や「セフェム系」の抗生物質は、マイコプラズマ肺炎には効果がありません。使われるのは、「マクロライド系」、「テトラサイクリン系」、「ニューキノロン系」の抗生物質が用いられます。
一般的には、マクロライド系のエリスロマイシン、クラリスロマイシンなどを第一選択とします。学童期以降ではテトラサイクリン系のミノサイクリンも使用されます。
特別な予防方法はなく、流行期には手洗い、うがいなどの一般的な予防方法を励行するほか、患者との濃厚な接触を避けることで重要です。
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