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【演奏会の感想】いずみシンフォニエッタ大阪 マーラー「大地の歌」他(2020年2月 いずみホール)

いずみシンフォニエッタ大阪 第43回定期演奏会 マーラー「大地の歌」

こんにちは。そなてぃねです。

2020年2月に行われた、いずみシンフォニエッタ大阪の第43回定期演奏会を聴きに行きました。

メインは、マーラーの「大地の歌」。川島素晴の編曲による1管編成版です。

澄み切った湖面に過ぎし日の思い出が映し出されていくような透明度の高い響きに、深い感銘を受けました。

演奏会の概要

いずみシンフォニエッタ大阪 第43回定期演奏会

  1. 中村滋延作曲
    善と悪の果てしなき闘い 第一章(2015/2017)
    〈世界初演〉
  2. マーラー作曲
    大地の歌

テノール 望月哲也
バリトン 大西宇宙
指揮 飯森範親
管弦楽 いずみシンフォニエッタ大阪

 

2020年2月8日(土)16:00~
いずみホール(大阪市)

 

そなてぃね感激度 ★★★★☆

5年越しの世界初演 中村滋延作品

前半は中村滋延(しげのぶ)さんの新作初演。

中村滋延さんは、1950年大阪生まれ。愛知県立芸術大学大学院に在学中、ミュンヘン音楽大学にわたって音群作法、図形楽譜などを実践。「映像音響詩」という独自のスタイルで世界的に活躍されたそうです。

今回の作品は、2015年に作曲。演奏のチャンスがなく、5年越しで初演されることになったそうです。

もしかしたら、永遠に演奏されることがないかもしれないのに、何かを生み出そうとする… 作曲家というのは、すごいものだと思いました。

「善と悪の果てしなき闘い」は、バリ島の芸能「バロン・ダンス」に触発されて書かれた作品。バロン(聖獣)とランダ(魔女)の闘いに由来しています。

面白いのは、善と悪のどちらかが相手を駆逐するのではなく、共存するという世界観。

善悪がバランスよく共存することで豊穣がもたらされるというバリ島の思想に基づいて作曲されました。

「響き」の素材と、「リズム」の素材、2つが交互に現れます。

どちらを「善」と見なし、どちらを「悪」と見なすかは、聴く人に委ねられていて、それが途中で入れ替わっても構わない。面白い視点だと思いました。

現代社会は、自らの価値観に合わないものを「悪」と決めつけ、互いにヘイトし合う殺伐とした世界になっています。

中村さんは、そうした排外主義的な傾向へのアンチテーゼとして、清濁あわせのむ共存を表現したのかもしれません。

聴いてみて、2つの素材が様々に形を変えて現れるのは、面白いなぁと感じました。

ですが、感動したかと問われれば、僕の心の琴線に触れる感じではありませんでした。

もっと色々なものを感じ取れるようになりたいです。



マーラーの作曲小屋を訪れた飯森範親さん

後半は、マーラーの「大地の歌」。音楽監督の西村朗さんと、指揮者の飯森範親さんが、プレトークを行いました。

印象的だったのは、飯森さんが今回の演奏のために、マーラーの作曲小屋を訪れたという話。

イタリア北東部、オーストリアとの国境にほど近いドッビアーコ(ドイツ語でトーブラッハ)という保養地に、マーラーが晩年を過ごした作曲小屋があります。

マーラーの作曲小屋(ドッビアーコ/トーブラッハ)

(The Austin Hifi Blogから引用)

飯森さんは昨年末にここを訪問。タクシーを降りて600メートルほど歩く山道が、赤や黄色の落ち葉に覆われていたそうです。

その光景は寂寥感に満ちていて、近くの湖で入水自殺してしまうような、森の奥深くに迷い込んで、そのまま戻ってこないような、そんな重苦しさがあったといいます。

それが、まさに「大地の歌」第6楽章「告別」の世界そのものだと感じたそうです。

このように作曲家の足跡をたどることで、作品をより深く理解できるのだと思います。

マーラー晩年の孤独

作曲当時、マーラーは47歳。この3年後に50歳で亡くなります。

僕も40代になりました。マーラーと比較するのも馬鹿らしいような凡庸な人生を歩んできましたが、それでも大切なものを失ったり、傷つけたりして、孤独を知るようになりました。

今だからこそ「大地の歌」から感じ取れるものもあるかもしれません。

西村朗さんがプログラムの序文に書いた文章も印象的でした。

「長女を亡くし、自らも心臓病を患い、ウィーン歌劇場の音楽監督の座を追われ、悲しみと諦観の中で死を予感しつつ、おそらくは自らの魂を救うために作曲したものでありましょう。ここにおいてマーラーの眼差しは彼岸の光へと向けられています」

バリトンの大西宇宙さんを起用

バリトン大西宇宙

「大地の歌」の偶数楽章は、アルトで歌われることが多いのですが、飯森さんは今回、バリトンを選択しました。

その理由は、歌詞がマーラー自身の言葉だと感じたからだといいます。歌手をマーラーの化身ととらえ、アルトよりもバリトンがふさわしいと考えたのです。

これは大正解! バリトンの大西宇宙(たかおき)さんの素晴らしい歌唱によって、マーラーの孤独が切々と表現されました。

大西さんは、まさにワールドクラス。しなやかな体幹から、大地に根を張った朗々とした声が響きます。

中でも、30分に及ぶ長大な第6楽章「告別」は、感動的でした。

「この大地にも春が訪れ、花が咲き新緑が芽吹けば、それが永遠に青く光る。いつまでも…」

僕も、妻や娘との関係を壊してしまい、失ってしまった大切なものは取り戻すことができないけれど…

傷つけてしまった妻や娘の心に、いつか春が訪れますように。

僕自身も暗闇から抜け出して、花が咲き新緑が芽吹く場所にたどり着けますように。

そんなことを思いながら、マーラー自身の独白を聴きました。

テノール望月哲也

テノールの望月哲也さんも、よかったです。

少しクセのある歌いまわしをする方ですが、今回の曲には、その独特の語り口が合っているように思いました。



澄み切った湖面のような響き

今回の「大地の歌」の最大の功労者は、編曲の川島素晴さんだったと思います。

澄み切った湖面に過ぎし日の思い出が映し出されていくような、透明度の高い響き。

原曲は3管編成の大オーケストラのために書かれていますが、それを1管編成にアレンジしています。

大事なのは、マーラー自身が初演を聴かずに亡くなっていること。もし聴いていたら、ソリストとのバランスを考慮して、かなりの改訂を加えた可能性が高いのです。

川島さんの編曲は、「マーラーが生きていたら、こう仕上げたのではないか」と思えるくらいに、響きの純度が高められいていました。

「永遠に…」と繰り返しながら消えるように終わるラスト。サスペンドシンバルをコントラバスの弓で弾く神秘的な響きは、深い孤独に差し込む一筋の光のようでした。

いずみシンフォニエッタ大阪のクオリティの高さ

いずみシンフォニエッタ大阪の、演奏のクオリティの高さにも感服しました。

結成から20年。コンサートマスターの小栗まち絵さんやオーボエの古部賢一さんをはじめとするベテランと、優秀な若手たちが、絶妙なバランスで在籍しています。

現代音楽を専門にする室内オーケストラが、20年にわたって活動を続け、質を高めてきたことは、すごいことだと思います。

優秀な作曲家を発掘し、新作を委嘱し、年に2回の定期公演を重ねてきたのです。

しかも東京ではなく、大阪発信。プレイヤーの多くも関西にゆかりのある人たち。もっと評価されていいはずです。

「大地の歌」では、特に木管4人のソロに魂が震えました。金管4人の洗練された響き、弦楽器の精度の高さも、心に刻まれました。

あとがき

いずみシンフォニエッタ大阪の実演を初めて聴いたのは、2019年7月の定期演奏会でした。

三ツ橋敬子さんの指揮で、薮田翔一さんの新作初演の他、ストラヴィンスキーやラヴェルといったプログラム。切れのあるスマートな演奏を聴かせてくれました。

それから半年。マーラーの大曲を、いずみシンフォニエッタ大阪でしか聴けない編曲で聴くことができ、貴重な時間となりました。

今後も楽しみに通いたいと思います。

【参考動画】 レナード・バーンスタイン指揮、ウィーン・フィルによる演奏。テノールはジェームズ・キング、バリトンはディートリヒ・フィッシャー=ディースカウです。

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