こんにちは、そなてぃねです。
2021年8月22日、大阪市の住友生命いずみホールで行われた「サマーミュージックフェスティバル大阪2021」を聴きに行きました。
「サン・サーンス没後100年、ストラヴィンスキー没後50年《同じ“S”でも大違い!》」というテーマを掲げ、3日間に渡って行われたフェスティバル。僕はその最終日の公演を聴きました。
出演者の数は、なんと一晩で26人!3時間におよぶ充実の内容でした。
めったに聴くことのできいない珍しい作品を聴くことができて楽しかったですし、関西の演奏家のレベルの高さを再認識することもできました。
演奏会の概要
【サマーミュージックフェスティバル大阪2021 サン・サーンス没後100年、ストラヴィンスキー没後50年《同じ“S”でも大違い!》】
- アルビノーニ作曲
弦楽とオルガンのためのアダージョ
・ヴァイオリン 木田雅子、菊本恭子
・ヴィオラ 中島悦子
・チェロ 池田佳子
・コントラバス 滝本恵利
・オルガン 片桐聖子 - トマジ作曲
田園のコンセール
・オーボエ 大島弥州夫
・クラリネット 篠原猛浩
・ファゴット 東口泰之 - サン・ サーンス作曲(2台4手)
アラブ奇想曲 作品96
英雄的奇想曲 作品106
・ピアノ 神尾夏希、松本晴香 - サン・サーンス作曲(2台4手)
スケルツォ 作品87
・ピアノ 今村雅子、山内愛 - サン・サーンス作曲(2台4手)
死の舞踏 作品40
・ピアノ 藤木新子、山本江利 - ストラヴィンスキー作曲/大野和子編曲(2台8手)
「火の鳥」から抜粋
・ピアノ 山内鈴子、山内結実、添田ゆみ、奥村智美 - ピアソラ作曲
アヴェ・マリア
オブリヴィオン
ブエノスアイレスの夏
リベルタンゴ
・ピアノ 木下たまみ
・ヴァイオリン ギオルギ・バブアゼ
・チェロ 大町剛 - サン・サーンス作曲
ヴァイオリン・ソナタ 第1番 ニ短調 作品75
・ヴァイオリン 田野倉雅秋
・ピアノ 木下千代 - サン・サーンス作曲
七重奏曲 変ホ長調 作品65
・トランペット 西川綾子
・ヴァイオリン 木田雅子、菊本恭子
・ヴィオラ 中島悦子
・チェロ 池田佳子
・コントラバス 滝本恵利
・ピアノ 益子明美
2021年8月22日(日)17:00~
住友生命いずみホール
そなてぃね感激度 ★★★☆☆
関西の夏の音楽祭
出演者は総勢26人、公演時間は3時間におよぶお祭り感あふれるイベント。多彩なプログラムと個性的な演奏で、飽きずに楽しむことができました。
「サマーミュージックフェスティバル大阪」は、今回で24回目となる毎年恒例のイベント。今年はコロナ禍で縮小気味とのことですが、第1夜には総勢15人、第2夜には総勢12人が出演、かなり大規模と言えます。僕はその第3夜(最終日)を聴きました。
サブタイトル「同じ”S”でも大違い!」にあるように、今年のお題は没後100年のサン・サーンスと、没後50年のストラヴィンスキー、2人の「S」を中心にした内容でした。
僕が聴いた最終日はサン・サーンスが主役になっていて、ピアノ2台4手の作品や七重奏曲など珍しい作品が並びました。ストラヴィンスキーは1曲だけでしたが、「火の鳥」の抜粋を、2台8手という特別な編曲で聴くことができました。
関西クラシック界の豊富な人材
全体を通じて、関西クラシック界の人材の豊富さにびっくりしました。
優秀な演奏家は東京に、そして海外に行ってしまうというのが、この業界の偽らざる現実でしょう。しかし、関西に拠点を置きながら、非常に質の高い活動をしている演奏家がいるということを、今回の公演を通じて知ることができました。
中でも印象に残った演奏をピックアップしてみます。
今村雅子さん、山内愛さん母娘による2台4手
僕の中でのMVPは、今村雅子さんと山内愛さんが演奏したサン・サーンスの2台4手「スケルツォ」でした。
この「スケルツォ」は、あまり有名な作品ではないかもしれませんが、ラヴェルの「ラ・ヴァルス」を思わせる目が眩むような華やかさと洒脱さに彩られた、すごく素敵な作品なんです。
今村雅子さんがお母様、山内愛(まな)さんがお嬢さんということで、さすが母娘だけあって息がぴったり。音がキラキラと粒立っていて、歌いまわしもセンスにあふれていました。
真紅のドレスをまとったお母様と、濃紺のタイトなドレスをまとった娘さん。ふたりとも美しく、演奏している姿も実に音楽的でした。
母娘ともに神戸女学院大学の出身で、地元の宝塚を拠点に演奏活動をされているようです。生まれ育った土地に根ざして、じっくりと音楽を育んでこられたのでしょう。
とても上質な音楽を聴かせていただきました。
味わい深いピアソラ
他に印象に残ったのは、後半の最初に登場したピアノ/バイオリン/チェロの三重奏によるピアソラの演奏。
サン・サーンスとストラヴィンスキーの特集ではありますが、実はピアソラも生誕100年のアニバーサリーイヤーなんですよね。
バイオリンは関西フィルのコンマス、ジョージア出身のギオルギ・バブアゼさん、チェロも同じく関西フィルの大町剛さん。ピアノは木下たまみさんという女性。
最初に演奏された「アヴェ・マリア」、ほんといい曲です。この曲は、ピアノとチェロのデュオ。大町さんはスリムな長身、ツーブロックで茶髪の50代くらいのおじさん。すごく味わい深い、あたたかみのある旋律を聞かせてくれましか。た。
ギオルギさんが加わってからの「オブリヴィオン」も滋味に溢れた作品で、苦みのきいた大人の渋みを醸し出していました。
「ブエノスアイレスの夏」のアレンジもなかなかよくて、ジャズのセッションのような即興性も感じられました。
ピアノの木下さんはふくよかな女性で、見た目には俊敏な感じはしないのですが、「リベルタンゴ」ではピアノの裏板を下から叩くという予想外の動きを見せて目を引きました。
3人ともバリバリのテクニシャンではありませんが、自由さと成熟した大人の味わいが魅力的でした。
何者!?木下千代さんという凄腕ピアニスト
サン・サーンスのヴァイオリン・ソナタを演奏した田野倉雅秋さんと木下千代さんも、強烈な印象でした。
日本フィルのコンマスである田野倉さんが名手であることは知っていましたが、度肝を抜かれたのがピアノの木下千代さんでした。見事としか言いようのない、達人の域の演奏でした。
木下さんは、60歳前後くらいと思われる小柄な女性。大阪出身で、東京芸術大学大学院を修了。今は兵庫教育大学の教授として後進の指導にあたっておられるようです。
2楽章の後半のアレグロは、凄まじいスピードで音列が駆け巡るのですが、木下さんのピアノは、田野倉さんの圧巻のプレイに、寸分の狂いもなく影のようにぴったりと寄り添い続けるのでした。
音量のコントロールも絶妙で、ヴァイオリンのソロが際立つように常に気が配られていました。まさに達人の境地。
木下さんは、ソロ・リサイタルを定期的に続けておられて、1998年にはラヴェルのピアノ曲全曲演奏会をされたそうです。
あぁ… この方のラヴェルやショパンは絶品だろうなぁ。ぜひ聴いてみたい。
コロナ禍を忘れさせてくれる晩夏のひととき
この公演が行われた2021年8月22日というのは、新型コロナのデルタ株による巨大な第5波が、まさにピークを迎える時期でした。
テレビや新聞では毎日のように「新規感染者は過去最高」という報道が繰り返され、医療逼迫で発症しても入院できないと脅され、ワクチンを打たなければ人に非ずのような風潮が高まっていました。
20時以降は飲食店は軒並み閉店。友人や同僚と酒を飲むこともできない日々が長く続き、閉塞感は強まる一方。
そんな状況下で、このフェスティバルは開催されました。
3日間で出演者は50人以上、集客制限もありますから、ギャラなんてほとんど出なかったのではないかと思いますが、そのぶん「楽しいひとときを、ありがとうございました!」と声を大にして伝えたいです。