こんにちは。そなてぃねです。
2022年5月1日、ザ・シンフォニーホールで行われた、全日本ピアノ指導者協会(ピティナ)主催の「特級グランド・コンチェルト」を聴きました。
3人の若きピアニストがオーケストラをバックに協奏曲を披露する企画。
18歳の森本隼太さん
25歳の尾城杏奈さん
21歳の亀井聖矢さん
それぞれ三者三様の若き「今」を楽しみました。
演奏会の概要
ピティナ 特級グランド・コンチェルト
- リスト作曲
ピアノ協奏曲 第1番 変ホ長調 S.124/R.455
ピアノ:森本隼太 - ショパン作曲
ピアノ協奏曲 第1番 ホ短調 作品11
ピアノ:尾城杏奈 - ラフマニノフ作曲
ピアノ協奏曲 第3番 ニ短調 作品30
ピアノ:亀井聖矢
指揮 藤岡幸夫
管弦楽 関西フィルハーモニー管弦楽団
2022年5月1日(日)14:00~
ザ・シンフォニーホール
そなてぃね感激度 ★★★★☆
堂々たる18歳 森本隼太さん
最初に登場したのは森本隼太さん。2004年生まれということなので、今年18歳(今はまだ17歳かも)。
2020年のピティナ・ピアノコンペティション特級で銀賞および聴衆賞を受賞。今年2022年にはイギリスで開催されたヘイスティングス国際ピアノ協奏曲コンクールで優勝しています。
森本さんの演奏には、突き抜けるような「大きさ」を感じました。歌の呼吸が深く、陰影が濃く、抑揚の幅が大きい。
「僕はこう表現したいんだ…!」という溢れるような思いが、ビシビシと聴き手に届いてきます。
オーケストラを背にしても臆することなく、堂々たる演奏。まだ高校2年生? 末恐ろしい才能です。
今はイタリアのローマに留学中とのこと。多くの日本人ピアニストが留学先にフランスかドイツを選ぶ中、ローマというのは珍しいなぁと思いました。
イタリア人のピアニストと言うと、アルトゥール・ベネッティ・ミケランジェリやマウリツィオ・ポリーニが有名ですが、森本さんにも歴史に名を刻む存在になってほしいと思います。
たおやかな気品 尾城杏奈さん
尾城杏奈さんは1997年生まれということなので、今年25歳(今はまだ24歳かも)。
森本さんが銀賞を取った2020年のピティナ・ピアノコンペティション特級でグランプリを獲得しています。
上品な純白のロングドレスを身にまとって現れた尾城さん。清潔感のある美しさで、ステージに咲いた一輪のユリの花のよう。
隅々まで丁寧に織り上げられた演奏。主張しすぎない、たおやかな雰囲気が印象的でした。
ショパンの胸を締め付けられるようなロマンティシズムが、気品のある表現で奏でられていました。
ただ正直に言うと、打鍵の強さ、楽器を鳴らし切る力、表現の大きさという点で、物足りなさを感じたのも事実です。
音量的に、オーケストラに埋もれてしまって、耳に手を当てなければ聴こえないところもありました。
大ホールでのオーケストラとの共演よりも、小さめの空間でのソロの方が、尾城さんの繊細な表現力が発揮されるのかもしれないと思いました。
圧巻の名演奏 亀井聖矢
後半に登場したのが亀井聖矢さん。2001年生まれということなので、今年21歳(今はまだ20歳かも)。
2019年のピティナ・ピアノコンペティション特級でグランプリおよび聴衆賞を受賞。同年の日本音楽コンクールでも第1位および聴衆賞を獲得している、期待の星です。
これまでに、NHK「クラシック倶楽部」などで見たことはあって、高い技術と音楽性を持った逸材であることは知っていました。
しかしこの日、彼の実演を初めて体感してみて、考えを改めることになりました。
彼は「逸材」どころではなく、間違いなく世界を席巻するであろう、とてつもない「超逸材」でした。
正確無比な技術、センス抜群のリズム感、変幻自在な音色、溢れる歌心… そういったあらゆる要素が極めて高次元で結実し、しかも「ここぞ!」というところで大胆にリミッターを外し、荒々しいまでの表現者に豹変するのです。
端正な顔立ち、シュッとしたスタイルも相まって、僕は彼を「優等生的」な演奏家だと勝手に想像していました。しかし、それは間違っていました。
リミッターを外した時の、髪を振り乱し、腕を振り上げる姿は、まるで鬼神のようでした。
ラフマニノフ3番の難曲を完全に自分のものにして、縦横無尽に鍵盤の上を疾走し、オーケストラの中心で躍動する神々しい姿を、僕は一瞬も逃すまいと目に焼き付けました。
「僕は今とんでもない場面に立ち会っているのだ… 」という興奮が全身を包み、会場全体が一種異様な高揚感に満ちていました。
凄まじいクライマックスを経て、最後の音を弾ききった刹那、堰を切ったように爆発した拍手喝采…
あの濃密な40分間を、僕は忘れないでしょう。
全日本ピアノ指導者協会(ピティナ)の功績
全日本ピアノ指導者協会(ピティナ)という組織を、僕はこれまであまり知らなかったのですが、今回の演奏会を通じて、その功績の大きさを感じました。
公式サイトとによると、50年以上にわたって、ピアノ指導者(先生)の育成に務め、ピアノ学習者(生徒)に様々な場を提供してきたとのこと。
子供たちの年代に応じて目標とすべき舞台を用意し、正しく切磋琢磨させ、その結晶として、亀井聖矢さんのような才能を育て、世に送り出してきたのです。
今回のような演奏会は、後輩たちにとっては「憧れの先輩」が輝くステージ。具体的な目標を思い描ける場にもなっているのでしょう。会場を埋めた若者たちは、熱い眼差しをソリストたちに注いでいました。
あとがき
ザ・シンフォニーホールの前には「上福島北公園」という小さな公園があります。
僕はマチネを聴いた後に、この公園の木立の下、ベンチに座って余韻を味わう時間が好きです。まだ心に熱気が残っているうちに、感想を書き残すのです(このブログはそれを少しリライトしたものです)。
太陽が西に傾き、穏やかな時間が流れていきます。またこの会場で、素敵な演奏に出会えますように。
(了)