こんにちは。そなてぃねです。
2020年1月に行われた、大阪フィルハーモニー交響楽団 第534回定期演奏会を聴きに行きました。
イギリスの名チェリスト、スティーヴン・イッサーリスを招いてのエルガーのチェロ協奏曲。
そして、大阪フィルの音楽監督、尾高忠明によるブルックナーの交響曲 第3番。
イッサーリスの唯一無二のガット弦の響きと、尾高忠明さんの誠実なお人柄が感じられる演奏でした。
演奏会の概要
大阪フィルハーモニー交響楽団 第534回定期演奏会
- エルガー作曲
チェロ協奏曲 ホ短調 作品85 - ブルックナー作曲
交響曲 第3番 ニ短調「ワーグナー」(第3稿)
チェロ スティーヴン・イッサーリス
指揮 尾高忠明
管弦楽 大阪フィルハーモニー交響楽団
2020年1月16日(木)19:00~
フェステバルホール
そなてぃね感激度 ★★★☆☆
イッサーリスのガット弦の音
スティーヴン・イッサーリス(1959~)を初めてテレビで見たのは、大学生の頃でした。
まるで自由におしゃべりするように弾く人だなぁと思ったのを覚えています。
右手は羽でも持つかのように軽やかに舞い、左手は指板の上をバレリーナのように駆け巡る。
脱力の極みのような動きから、しなやかな音が宙に解き放たれ、絹糸のように細く、でも決して途切れることなくホールの一番奥まで届く。
その柔らかな音を自在に操って、型にはまらず、即興性豊かに奏でる姿が、まるでおしゃべりをしているように感じられました。
そんな印象を抱いてから、20年以上が経ったでしょうか。今回、初めて実演に接することができました。
目の前で奏でられるイッサーリスの音は、僕がかつて思い描いた通りでした。
ガット弦(羊の腸で作られた弦)から紡ぎ出される音は、スチール弦と比べると、音量はかなり小さめです。
でも不思議なことに、オーケストラの中から浮き上がるように、ちゃんと耳に届くのです。
オーガニックな音の質感、語りかけるようなニュアンス、そういった彼独特のディティールが伝わってきました。
アンコールの「鳥の歌」では、ささやくような哀しい音がフェステバルホールの大空間を飛翔し、あまりの美しさに息を飲みました。
▼イッサーリスによるエルガーの協奏曲のCD。パーヴォ・ヤルヴィ指揮、フィルハーモニア管との共演です。
使用楽器はザラ・ネルソヴァのストラディバリウス
余談ですが、イッサーリスの使用楽器は、ロシア系の女流チェリスト、ザラ・ネルソヴァ(1918~2002)が使っていたストラディバリウスだそうです。
ザラ・ネルソヴァは、カザルス、ピアティゴルスキー、フォイアマンといった往年の名手たちの薫陶を受け、「チェロの女王」とも呼ばれたチェリストです。骨太な音でスケールの大きな演奏をする人だったようです。
41歳年下にあたるイッサーリスは、受け継いだ楽器にガット弦を張り、ネルソヴァとはまた違う音を奏でているのですね。
ブルックナーは大聖堂にいる気分で…
この日のメイン・プログラムは、ブルックナーの交響曲 第3番。この曲には様々な改訂稿があり、指揮者がどの稿を選ぶかも重要なポイントとなります。
尾高忠明さんが選んだのは第3稿。1873年に第1稿が完成してから16年後の1889年に出されたものです。
当初よりかなりコンパクトになっていて、演奏時間は約55分。ブルックナーの交響曲としては比較的短く、初心者には聴きやすいサイズかもしれません。
僕はブルックナーを聴くとき、あまり難しいことは考えず、大聖堂にいるような感覚を大切にしています。高い天井から降り注ぐ音を、仰ぎ見るような感じで…
今回も、奇跡的に美しい弦の響きや、金管の奏でる宇宙的な大きさを味わうことができました。
尾高忠明さんの指揮に感じること
以前、僕は仕事の関係で、尾高さんのリハーサルを何度か見学したことがあります。
細かなバランスやアーティキュレーションを、ひとつひとつ丁寧に、静かな声で指摘する姿が印象的でした。
楽団員にちゃんと聞こえているのかな…? と、ちょっと心配になるくらい小さな声。
たまに冗談を言うときも、決して声を張らず、友人に語りかけるような穏やかな声。
でも、その声が不思議と届くようで、指摘された箇所は次々と的確に修正されていきます。
そうした丁寧な確認作業を重ねていくことで、音楽の輪郭がくっきりと見えてくる。そんなリハーサルでした。
あるオケに所属する友人は、こんなことを言っていました。
「穏やかに見えるけど、尾高先生が一番怖い。すべての音を聴かれてしまっているのが分かるから、一音もおろそかにできない」
今回のブルックナーも、一音一音を大切に積み重ねるように稽古してきたのでしょう。
少し早めの引き締まったテンポ。過剰に大きく見せたり、華美に飾ることの一切ない、見通しのいいブルックナーを聴くことができました。
あとがき
イッサーリスを聴けたのは、とてもうれしかったのですが、やはり座席数2700のフェステバルホールは、ちょっと大きすぎました。
次に聴くチャンスがあったら、もっと小さな空間で、彼の音を堪能したいです。
気になったのは、大阪フィルの練度がちょっと落ちている気がしたこと。
音程が怪しい箇所が散見されたり、アインザッツ(休符後の演奏し始めるところ)の息が合っていなかったりして、全体的に精度が甘いように感じられました。
会場に空席が目立つのも残念でした。ちょっと渋いプログラムだったとは言え、何かしらの改革が必要なのかもしれません。
大阪フィルは創設70年を超える関西の雄。さらなる奮起を期待したいです。