こんにちは。そなてぃねです
2020年8月24日、大阪市中央公会堂で行われた日本テレマン協会の第268回定期演奏会を聴きに行きました。
関西を拠点にバロック音楽の分野で独自の歩みを続けてきた指揮者の延原武春さんとテレマン室内オーケストラ。
ベートーヴェン生誕250年の今年、新型コロナの影響下だからこそとも言える、最高にエキサイティングな演奏を聴かせてくれました。
日本テレマン協会第268回定期演奏会
ご来場誠にありがとうございました。
ベートーヴェン交響曲第3&4番
大阪市中央公会堂 中集会室#ベートーヴェンが初演する前に貴族邸宅で行った試演を再現 pic.twitter.com/3xqGHxfspX— テレマン室内オーケストラ?? (@since1963_osaka) August 24, 2020
演奏会の概要
【日本テレマン協会 第268回定期演奏会】
- サリエリ作曲
歌劇「トロフォーニオの洞窟」序曲 - ベートーヴェン作曲
交響曲 第4番 変ロ長調 作品60 - ベートーヴェン作曲
交響曲 第3番 変ホ長調 作品55「英雄」
指揮 延原武春
管弦楽 テレマン室内オーケストラ
2020年8月24日(月)18:30~
大阪市中央公会堂 中集会室
そなてぃね感激度 ★★★★★
コロナ禍の世界に希望を与えるコンサート
新型コロナの脅威が明らかになって7ヶ月。今回のコンサートは、うつむきがちな日々に希望を与えてくれる、最高にエキサイティングな時間でした。
今回のテレマン室内オーケストラの編成は、おそらくベートーヴェンの交響曲を演奏できる最小限度の規模だったと思います。
弦楽器はなんと8人のみ(第1ヴァイオリン2人、第2ヴァイオリン2人、ヴィオラ2人、チェロ1人、コントラバス1人)。
普通に考えると、管楽器の音にかき消されてしまいそうな人数ですよね。
でも、聴いてびっくり!
「本当はこれが正解なのでは!?」と思えるほどに絶妙なバランスで鳴り響いたのです。
まるで魔法…! 今まで聴いたことがないような音色があちこちから飛び出し、最初から最後まで発見の連続でした。
知られざる作品を発掘する努力
最初に演奏されたサリエリの歌劇「トロフォーニオの洞窟」序曲。初めて聴く曲でした。
それもそのはず。指揮者の延原武春さんが1曲目の後にしてくれた解説によると、「本邦初演」とのことでした。
今から235年前、1785年に作曲された知られざる歌劇。それを見つけ出し、苦労して楽譜を入手して現代に蘇らせる。
日本テレマン協会は、こうした地道な努力を50年以上続けてきたのだと思います。
5分ほどの序曲は、引き締まった構成のかっこいい曲でした。荘重な序奏に始まり、明るく開放的な音楽が駆け抜けていきます。
これを機に、もっと演奏されてもいい作品だと思いました。
▼珍しい作品なので参考に動画を。トーマス・ファイ指揮 マンハイム・モーツァルト管弦楽団の演奏です。
貴族の邸宅での試演を再現
前半に演奏された交響曲 第4番は、ベートーヴェンの交響曲の中で最も編成の小さな作品。
フルートが1本という特殊な編成は、注文主だったオッペルスドルフ伯爵が持っていた私設オーケストラの規模に合わせたものだそうです。
ここで今回の公演のコンセプトが重要になります。題して…
「貴族の邸宅での小編成の試演を再現!!」
この「試演」という言葉には、初演前の「試しの演奏」という意味に加えて、貴族の邸宅で私的に演奏される「私演」の意味合いも含まれているようです。
試演・私演は、貴族が所有する私設楽団によって行われたわけですが、今回のテレマン室内オーケストラは、当時の楽団の規模を再現したというわけです。
もちろん本当の理由は、新型コロナウイルスだったのだと思います。ステージ上が密にならないよう、楽団員の人数を減らす必要に迫られたに違いありません。
でも、その苦境を逆手にとり、「貴族の邸宅での試演を再現」というコンセプトを打ち出した。素晴らしいアイデアだと思います。
▼楽器配置はこんな感じ。チェロとティンパニ以外は、全員が立って演奏していました。
こうして見ると、ほとんど室内楽ですよね。弦楽器と管楽器が人数的に対等。こんなオーケストラ、見たことありません。
この編成が、絶妙な「音のブレンド」を生み出し、思いも寄らない発見をもたらしました。
例えば、ヴィオラとファゴットの音が合わさることで苦味の効いたコーヒーのような香りが立ち上ったり、第1ヴァイオリンとフルートが重なることで青空を駆け上がっていく飛行機雲のような情景が表れたり…
弦楽器がたくさんいる通常のオーケストラでは聴こえてくることのなかった新しい響きが、あちこちから聴こえてきたのです。
最初から最後までイマジネーションを掻き立てられ、さながら「音の万華鏡」を見ているようでした。
〈下に続く〉
音の虹、音の架け橋
いよいよメインプログラムの交響曲 第3番「英雄」。ここで管楽器の配置が大きく変わりました。
見たこともない配置にびっくり! 通常は隣り合うフルートとオーボエがステージの両端に分かれ、一番遠い位置関係になっていたのです。
息の吹き込み方がまったく違うフルートとオーボエは、ただでさえ合わせるのが難しいのに、こんなに離れて演奏できるのでしょうか…?
ですが、ここでも思いがけない光景に出会うことに!
フルートとオーボエが掛け合う場面では、お互いに遠投のキャッチボールをするかのように、放物線状に音を受け渡しているのが見えたのです。
まるでステージの両端を結ぶ大きな虹が描かれるようでした。
その虹の内側で、第1ヴァイオリンと第2ヴァイオリンがもうひとつのアーチを描き、同じようにクラリネットとファゴット、そして他の楽器の間にも…
オーケストラの上空に、様々な色彩の音の架け橋がかかっていく。この光景は感動的でした。
日本テレマン協会と延原武春
指揮者の延原武春さんは、1943年生まれの77歳。大阪府出身で大阪音楽大学を卒業。
1963年、20歳で「テレマン・アンサンブル」を結成。その後、日本テレマン協会(テレマン室内オーケストラ・テレマン室内合唱団)として、全国的に知られるようになります。
以来50年以上にわたり、関西を拠点にバロック音楽の分野で独自の歩みを続けてきました。
バッハ生誕300周年記念国際音楽祭に日本の団体として唯一招かれるなど、その業績は海外でも高く評価されています。
極東の島国の地方都市でコツコツと探求し続けてきたものが、世界にも認められる…
彼らの歩んできた道のりに感動を覚えずにはいられません。
大阪市中央公会堂の歴史的空間
「貴族の邸宅での試演を再現」というコンセプトにぴったりだったのが、大阪市中央公会堂という場所でした。
大阪市中央公会堂は、1918年(大正7年)に竣工した歴史的建造物。国の重要文化財にも指定されています。
中集会室は、ヨーロッパの宮殿を思わせる意匠と優れた音響効果を持ち、クラシック音楽のコンサートに度々利用されています。
ステージはなく、聴衆とオーケストラが同じ床面にいるのは新鮮でした。
「ベートーヴェン時代のウィーン貴族の邸宅は、こんな感じだったのかなぁ…」と想像が掻き立てられるのでした
あとがき
6月下旬にオーケストラの活動が再開されるようになってから2ヶ月。
各楽団はそれぞれ模索しながら、音楽活動を続けようと努力を続けています。
僕もいくつかの演奏会を聴きに行きましたが、今日はその中でも忘れられない、感動的な体験となりました。
コロナ下の制約を逆手にとり、前向きな切り口で、新たな発見を次から次へと感じさせてくれたのですから。
いつかコロナが忘れ去られても、今日感じた喜びや驚きは心に残り続けるでしょう。
帰り道の淀屋橋、心なしか暑さが和らいできたようです。秋はもうすぐそこ。思う存分コンサートを楽しめる日が、一日も早く戻ってきますように。