こんにちは。そなてぃねです。
先日、仕事でイタリア・ローマに行くチャンスがあり、何とか時間を捻出して憧れの場所の数々を訪ねてきました。
そのひとつが、レスピーギの人気曲「ローマの噴水」で描かれた4つの噴水です。
有名な観光地になっているところだけでなく、街角の小さな噴水も含まれていて、興味深い旅となりました。
レスピーギはこんな人
最初に作曲家について簡単に触れておきましょう。
オットリーノ・レスピーギ(1879~1936)は、イタリアのボローニャ生まれ。34歳でローマに移り住み、サンタ・チェチーリア音楽院の作曲家の教授に就任します。その後、教育者・作曲家として、56歳で亡くなるまでローマで活動しました。
彼が最初にローマで名を挙げた出世作が、1916年に作曲された「ローマの噴水」です。ローマに移って4年目のことでした。
ローマ三部作
レスピーギは「ローマの噴水」を皮切りに、1924年に「ローマの松」、1928年に「ローマの祭り」を発表。これらは合わせて「ローマ三部作」と呼ばれて、レスピーギの代表作として愛され続けています。
いずれも大編成のオーケストラで演奏され、あざやかな色彩とダイナミックな表現が特徴となっています。初めてオーケストラを聴く人にも、飽きることなく楽しめる作品です。
それぞれは4つの曲からなり、ローマの名所や歴史を壮大な絵巻のように聴かせてくれます。次のような構成になっています。
「ローマの噴水」
1.夜明けのジュリアの谷の噴水
2.朝のトリトンの噴水
3.真昼のトレヴィの泉
4.黄昏のメディチ荘の噴水
「ローマの松」
1.ボルゲーゼ荘の松
2.カタコンバ付近の松
3.ジャニコロの松
4.アッピア街道の松
「ローマの祭り」
1.チルチェンセス
2.五十年祭
3.十月祭
4.主顕祭
今回は、この中から「ローマの噴水」で描かれた名所をめぐりました。
ローマには噴水がたくさん!
ローマの街を歩くと分かりますが、本当にいたるところに噴水があります。
特に有名なものを、最初にちょっとご紹介しておきましょう。
こちらは、スペイン広場の噴水です。オードリー・ヘップバーンが映画「ローマの休日」で、ジェラートを食べていた場所ですね。
観光客はたくさんいましたが、この階段は開放的な雰囲気で、とても気持ちよかったですよ。
続いて、こちら。
こちらは、ナヴォーナ広場の「四大河の噴水」。イタリア・バロックの巨匠ベルニーニ(1598~1680)の見事な彫刻に圧倒されます。
このような有名な噴水は巨大で華やかですが、街角で出会う噴水の多くは、かなり地味なんです。ただの風呂桶みたいなのも、たくさんあります。
ひとつ笑えるのを見つけたのでご紹介しましょう。じゃーん!
このおじさん、今から風呂に入るのでしょうか…?
…と、前置きが長くなり過ぎましたね。
それでは、いよいよ「ローマの噴水」で描かれた噴水を、順に訪ねていきましょう。
1.夜明けのジュリアの谷の噴水
「ローマの噴水」の大きな特徴が「時間設定」です。4つの曲がそれぞれ、夜明け、朝、昼、黄昏の時間帯を描いているのです。ローマの4つの噴水を、1日かけてめぐっていくような感じですね。
第1曲は「夜明けのジュリアの谷の噴水」。神秘的な雰囲気を持つ5分弱の曲です。
実は「ジュリアの谷に噴水」は、場所がはっきりしないと言われています。ウィキペディアには、こう書かれています。
ボルゲーゼ荘からパリオリ(イタリア語版)の丘までの間に位置する「ジュリアの谷」の噴水と夜明けの光景が表現されている。具体的にどこの噴水かははっきりしていない。牧歌的な光景にたたずむ夜明けの噴水が描かれ、朝ぼらけの中を家畜が通過する。
(引用:ウィキペディア)
「はっきりしない」とは言われていますが、レスピーギはきっと、どこか具体的な噴水をイメージして作曲したはずです。
ローマ人の友人に事前に頼んで、イタリア語のサイトをいろいろと調べてもらったところ、ひとつ有力な候補地を見つけてくれました。
ポポロ広場から徒歩10分ほどの場所に、「ジュリア通り」という路地があり、その一角に小さな噴水があったのです(地図は最後にご紹介します)。
こちらが、その噴水です。
うーん、地味! 妙な顔のおじさんの口から、ちょろちょろと水が垂れています。左右の魚の口からも。
僕は気合を入れて、夜明け前にこの場所に行ってみました。
路面電車が走る通りで、日中はそれなりに交通量も多い場所なのですが、早朝は本当に静かでした。この曲が持つ幻想的な雰囲気が実感できたような気がしました。
この噴水、実は古い絵にも描かれているんです。こちらをご覧ください。
(引用:Roma Sparita)
この絵は1760年に書かれたものです。左端に同じ噴水が描かれていますよね。
こののどかな風景の中、朝霧の向こうから家畜の群れがゆっくりと過ぎていく幻想的な情景を、レスピーギは描いたんですね。
街角にひっそりとたたずむ小さな噴水ですが、なんと1552~1553年に造られたものなのだそうです。
さすがローマ! 歴史ある建造物が、生活の中に自然に溶け込んでいるんですね。
【参考動画】 アラン・ギルバート指揮 ニューヨーク・フィルの演奏。
(1曲目が始まる0:29から再生されます)
▼イタリアの巨匠リッカルド・ムーティとフィラデルフィア管弦楽団による名盤です。
2.朝のトリトンの噴水
2曲目は「朝のトリトンの噴水」。勇ましいホルンの響きで始まる3分弱の曲です。
トリトンの噴水があるのは、ローマの中心地の一角にあるバルベリーニ広場。交通量の多い道路に囲まれた広場に、この噴水はあります(地図は最後にご紹介します)。
トリトンはギリシア神話に登場する海神です。像は見上げるような巨大さ! 水しぶきに陽光が当たって、キラキラと輝くのが印象的でした。
彼が口に当てているのは、波を立てたり鎮めたりするためのホラ貝です。高らかに吹き鳴らされる音は、巨人たちが「強健な野獣のうなり声だ」と勘違いし逃げ出すほど恐ろしいものだったといいます。
レスピーギはそのホラ貝の音を、勇壮なホルンの音で表現し、朝日の中で踊る神々の様子を描き出しました。
【参考動画】 先程のアラン・ギルバートとフィラデルフィア管の演奏の続きです。
(2曲目が始まる5:00から再生されます)
▼イタリアの指揮者ジュゼッペ・シノーポリのCDはこちら。
3.真昼のトレヴィの泉
第3曲は「真昼のトレヴィの泉」。大編成のオケが華やかに鳴り響く3分ほどの曲です
トレヴィの泉は、言わずと知れたローマ随一の有名な観光地ですね。観光客が多すぎて、まっすぐ歩けないほどでした。
この泉には、後ろ向きにコインを投げ入れると願いが叶うという言い伝えがあります。コイン1枚だと再びローマに来ることができ、2枚だと大切な人と永遠に一緒にいることができ、3枚だと恋人や夫・妻と別れることができるんだとか。
曲は、この泉の重厚で華やかな雰囲気そのままに、壮大な盛り上がりを見せます。
【参考動画】 先程のアラン・ギルバートとフィラデルフィア管の演奏の続きです。
(3曲目が始まる7:41から再生されます)
▼イタリアの若手で最も注目される指揮者アンドレア・バッティストーニと東京フィルによるCD。びっくりするくらいの鮮やかな演奏です。
4.黄昏のメディチ荘の噴水
最後の曲は、たそがれ時から日没までを描いた、幻想的で静かな音楽です。
場所はメディチ荘。有名なのは、こちらの建物ですね。
庭園に面した壮麗なファサード(建物の正面)、メディチ家の繁栄が伝わってきますね。
ですが、曲で描かれた噴水は、この敷地内にはありません。このお屋敷の向こう側、ローマの街を一望できる道路沿いにある噴水だと言われています。それが、こちらです。
円形のシンプルなデザインの噴水。ここピンチョの丘は、知る人ぞ知る最高の夕景ポイントなのです。噴水ごしに夕日が沈んでいく幻想的な情景を見ることができます。
僕も、がんばって夕方にここを訪れました。広々と眼前に広がるローマの街並み、正面に落ちていく夕日、そして黄金に輝く噴水のしぶき。うーん、幻想的!
レスピーギが、なぜこの噴水を最後の曲に選んだのが、分かるような気がしました。夕景に溶け込む噴水としては、これ以上のものはないように感じました。
【参考動画】 先程のアラン・ギルバートとフィラデルフィア管の演奏の続きです。
(4曲目が始まる11:15から再生されます)
▼小澤征爾とボストン交響楽団のCD。ジャケットの絵は、この章でご紹介したメディチ荘の噴水です。
あとがき
レスピーギの傑作「ローマの噴水」の名所をご案内しました。
有名なトレヴィの泉やトリトンの噴水はもちろん素晴らしいのですが、個人的には、あまり知られていないジュリアの谷の噴水とメディチ荘の噴水が印象に残りました。夜明けの情景、たそがれの情景とぴったりだったからかもしれません。
あなたも、ローマに行く機会があったら、ぜひ訪ねてみてください。作品の魅力が、より実感できると思いますよ。
今回ご紹介した場所は、こちらの地図をご参照ください。
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