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『蜜蜂と遠雷』演奏曲目リスト②栄伝亜夜 予選から本選までの全13曲の楽曲解説とおすすめの動画まとめ

「蜜蜂と遠雷」栄伝亜夜

こんにちは。えいぷりおです。

2016年に出版されベストセラーとなった恩田陸の『蜂蜜と遠雷』。2019年には映画化もされて話題になりました。

国際ピアノコンクールを舞台に、4人のピアニストがそれぞれの境遇と向き合い、葛藤を乗り越えていく長編小説です。

クラシックの名曲がたくさん登場するので、実際に音楽を聴きながら読むと、より深く楽しめます。

というわけで、4人のピアニストが演奏する全曲目をリストアップし、曲ごとに簡単な解説とおすすめ動画をご紹介します。

この記事では、再起をかけてコンクールに臨むかつての天才少女、栄伝亜夜の演奏曲目をまとめます。

▼小説『蜜蜂と遠雷』の書評はこちら。

恩田陸著『蜜蜂と遠雷』【書評・本の感想】恩田陸著『蜜蜂と遠雷』クラシック音楽を文章で描ききれるのか?

▼映画『蜜蜂と遠雷』の感想はこちら。

映画『蜜蜂と遠雷』【映画の感想】松岡茉優主演『蜜蜂と遠雷』演奏シーンは迫真の出来栄えだったが…(ネタバレあり)

▼他の3人の演奏曲目リストはこちら。

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栄伝亜夜の人物像

栄伝亜夜 演奏シーン

(公式トレイラーから引用)

最初に、栄伝亜夜(えいでん・あや)の人物像に触れておきます。

栄伝亜夜は、世界に満ちる音を「音楽」として感じ取ることができる特別な感性を持ち、幼いころ天才少女として注目されます。

しかし、大好きだった母親を亡くしてからピアノを弾く理由を見失い、表舞台から姿を消します。

それから7年。20歳になった彼女は、複雑な思いを抱えながら国際ピアノコンクールに挑み、他のピアニストたちとの出会いを通じて、音楽をする意味を取り戻していきます。

映画では松岡茉優さんが演じ、ピアノ演奏は2006年に世界最難関と言われるミュンヘン国際音楽コンクールで第2位に入賞し、国際的に活躍する河村尚子さんが担当しました。

▼企画CDには、栄伝亜夜がコンクールで演奏した曲の一部が収録されています。

栄伝亜夜の第1次予選

第1次予選では、バッハ、古典のソナタ、ロマン派を組み合わせて、20分以内のプログラムを組みます。

【栄伝亜夜の第1次予選】

  1. バッハ作曲
    平均律クラヴィーア曲集 第1巻 第5番 ニ長調
  2. ベートーベン作曲
    ピアノ・ソナタ第26番「告別」変ホ長調 作品81aから第1楽章
  3. リスト作曲
    メフィスト・ワルツ第1番「村の居酒屋の踊り」

バッハ作曲 平均律クラヴィーア曲集 第1巻 第5番 ニ長調

平均律クラヴィーア曲集は、ヨハン・セバスティアン・バッハ(1685~1750年)が鍵盤楽器のために作曲し、1742年に完成した不滅の業績。

24の調性ので書かれた「前奏曲」と「フーガ」で構成されていて、栄伝亜夜は第1巻に収められたニ長調を演奏しています。

▼日系ドイツ人のキミコ・ダグラス=イシザカ(1976年~)の演奏。一音一音が丁寧に奏でられていて、曲の構造が明晰に伝わってきます。変わった経歴の持ち主で、重量挙げの選手としてオリンピックに出場しています。(第5番が始まる17:50から再生されます)

 

ベートーベン作曲 ピアノ・ソナタ第26番「告別」変ホ長調 作品81aから第1楽章

ルートヴィヒ・ヴァン・ベートーベン(1770~1827年)は、32曲のピアノ・ソナタを残しました。

「告別」というタイトルはベートーベン自身がつけたもので、ナポレオン率いるフランス軍がオーストリアに侵攻し、友人のルドルフ大公がウィーンを脱出したことに由来しています。第2楽章には「不在」、第3楽章には「再開」と書き込まれています。

ベートーベンは20代後半から難聴を患い、この作品が書かれた39~40歳のころには、ほとんど全聾になっていたと言われています。

▼旧ソ連出身の大ピアニスト、ウラディミール・アシュケナージ(1937年~)の演奏。信じられないような美音と抜群のバランス感覚で、永久保存版にしたい名演奏です。

リスト作曲 メフィスト・ワルツ第1番「村の居酒屋の踊り」

フランツ・リスト(1811~1886年)はハンガリー出身の作曲家。超絶技巧を持つピアニストとして一世を風靡し、ヨーロッパ各地で大活躍しました。

メフィスト・ワルツ第1番は、ファウスト伝説を描いた同郷の詩人ニコラウス・レーナウによる長大な詩から霊感を得て作曲されました。次のような場面が題材となっています。

ファウストとメフィストフェレスは、農民たちが踊り集う居酒屋に現れる。楽士からヴァイオリンを取り上げたメフィストは、憑かれたかのように弾き始め、農民たちを陶酔のなかに引き込む。ファウストは黒髪の踊り子を抱いて星の夜へと連れ出し、森の中に入ってゆく。開いた戸から、夜鳴き鶯の鳴き声が聞こえてくる。(Wikipediaから引用)

▼2019年のチャイコフスキー国際コンクールで第2位になったロシア人ピアニスト、ドミトリー・シシキン(1992年~)の演奏。ネジが外れたようなスピード感で、せせら笑うメフィストの声が聴こえてきそうな怪演です。

栄伝亜夜の第2次予選

第2次予選(24人出場)では、より幅広い作曲家から計40分以内のプログラムを組みます。菱沼忠明という架空の作曲家による「春と修羅」という新曲を入れることが条件になっています。

【栄伝亜夜の第2次予選】

  1. ラフマニノフ作曲
    絵画的練習曲「音の絵」作品39-5 アパッショナート 変ホ短調
  2. リスト作曲
    超絶技巧練習曲 第5番「鬼火」
  3. 菱沼忠明作曲
    「春と修羅」
  4. ラヴェル作曲
    ソナチネ
  5. メンデルスゾーン作曲
    厳格なる変奏曲

ラフマニノフ作曲 絵画的練習曲「音の絵」作品39 第5曲 アパッショナート 変ホ短調

セルゲイ・ラフマニノフ(1873~1943年)は、ロシア出身の作曲家で、名ピアニストとしても歴史に名を刻んでいます。

重厚な和音はロシアの大聖堂の鐘のよう。濃密なロマンティシズムを湛えた作風が特徴です。

ラフマニノフは1917年のロシア革命を機にアメリカに亡命。「音の絵」作品39は、ロシアで書き上げた最後の曲集となりました。9曲からなり、栄伝亜夜が演奏したのは第5曲です。

▼モスクワ生まれのボリス・ギルトブルグ(1984年~)の演奏。2013年のエリザベート王妃国際音楽コンクールで優勝し、ラフマニノフを得意としています。手持ちのカメラで撮影されたドキュメンタリーのような映像も必見です(第5曲の始まる17:01から再生されます)。

リスト作曲 超絶技巧練習曲 第5番「鬼火」

先ほども登場したフランツ・リスト(1811~1886年)による、超絶技巧を駆使した12曲からなる練習曲集。

15歳で初稿を出版。その後2回の大幅な改訂が行われて、現在もっともよく演奏される第3稿は41歳のころ出版されました。

同世代のシューマンは、この曲集の難易度の高さを「これを弾きこなせる者は世界中探してもせいぜい10人くらいしかあるまい」と語ったと言われています。

▼「リストの再来」と呼ばれたハンガリー出身のジョルジュ・シフラ(1921~1994年)による演奏。旧ソ連軍によって3年間も投獄された後、ようやく西欧に逃れた36歳のころの録音です(第5曲の始まる15:40から再生されます)。

菱沼忠明作曲 「春と修羅」

架空の作曲家、菱沼忠明による課題曲「春と修羅」。宮沢賢治の同名の詩集をもとに作曲された設定になっています。

映画のための楽曲は、ロンドン在住の現代作曲家、藤倉大さんが、小説のディテールを読み込んで作曲。繊細で美しい作品に仕上がっています。

この作品の特徴は、楽曲の終盤に「自由に、宇宙を感じて」とだけ指示されたカデンツァが置かれていること。カデンツァとは、演奏者が即興で演奏することが許された白紙の部分です。

4人の登場人物によるカデンツァも藤倉さんが書き分けていて、それぞれの個性が際立っています。ぜひ映画を観てみてください。

栄伝亜夜は事前にカデンツァを決めず、舞台上で感じたままに弾こうとします。その瞬間、降りてきたのは7年前に亡くなった母親。その存在の大きさを感じながら、母なる大地のような音楽を奏でます。

▼NHK「らららクラシック」で放送された河村尚子さんの演奏。4:12から栄伝亜夜バージョンのカデンツァが始まります。

ラヴェル作曲 ソナチネ

モーリス・ラヴェル(1875~1937年)は、フランスの作曲家。「スイスの時計職人」とも称された精緻な書法で、色彩豊かな作品を残しました。

ソナチネは、ラヴェルが28~30歳のころに作曲されました。3つの楽章からなり、第1楽章「中庸に」、第2楽章「メヌエットの動きで」、第3楽章「活き活きと」。古典的な様式美を持つ可憐な作品です。

▼ウィーン出身のフリードリヒ・グルダ(1930~2000年)の演奏。伝統を受け継ぎながらも自由な演奏スタイルが魅力の、天才肌の音楽家で、ジャズや自作も演奏しました。

メンデルスゾーン作曲 厳格なる変奏曲

フェリックス・メンデルスゾーン(1809~1847年)は、ドイツの作曲家で、指揮者、ピアニスト、オルガニストとしても活躍しました。

「厳格なる変奏曲」は、32歳のころの作品。主題と17の変奏曲、コーダ(終結部)からなります。

当時流行していた華やかな変奏曲とは一線を画し、ベートーベンを意識した重厚な音楽になっています。

▼アメリカ出身の名手、マレイ・ペライア(1947年~)の演奏。真珠のような美しい音と揺るぎない構成力で、この作品の魅力を極限まで引き出しています。

栄伝亜夜の第3次予選

第3次予選(12人出場)では、60分以内のリサイタル・プログラムを自由に組みます。

【栄伝亜夜の第3次予選】

  1. ショパン作曲
    バラード第1番 ト短調 作品23
  2. シューマン作曲
    ノヴェレッテン 作品21-2 ニ長調
  3. ブラームス作曲
    ピアノ・ソナタ第3番 ヘ短調 作品5
  4. ドビュッシー作曲
    喜びの島

ショパン作曲 バラード第1番 ト短調 作品23

バラード第1番は、「ピアノの詩人」と呼ばれたフレデリック・ショパン(1810~1849年)の人気曲のひとつ。パリに滞在していた21~24歳のころに作曲されました。

ドラマティックな曲想で、フィギュアスケートの浅田真央さんや羽生結弦さんが使用したことでも知られています。

▼ショパンと同じポーランド出身のクリスティアン・ツィマーマン(1956年~)の演奏。18歳でショパン国際ピアノコンクールで優勝。その後も着実に歩みを重ね、今や世界最高峰のピアニストの一人に数えられています。

シューマン作曲 ノヴェレッテン 作品21-2 ニ長調

ロベルト・シューマン(1810~1856年)は、ドイツの作曲家。リストやショパンと同時代を生き、叙情性豊かな歌曲やピアノ曲を残しました。

「ノヴェレッテン」は「短編小説」を意味しますが、シューマン自身は「冒険物語集」と呼んでいたそうです。8つの小品からなり、栄伝亜夜はその中の第2曲を演奏します。

▼フランス出身のジャン=ベルナール・ポミエ(1944年~)の演奏。第2曲の始まる4:57から再生されますが、8曲を連続して聴くと、より「冒険物語」を楽しめると思いますよ。

ブラームス作曲 ピアノ・ソナタ第3番 ヘ短調 作品5

ヨハネス・ブラームス(1833~1897年)は、ドイツの作曲家。バッハ、ベートーベンとともに「三大B」とも称されます。

ピアノ・ソナタ第3番は、20歳のころの作品。シューマン(当時43歳)のもとを訪ねて、講評を求めたエピソードが残っています。

ブラームスが弾き始めると、シューマンは興奮して部屋を飛び出し、妻を連れて戻ってきて「さあ、クララ、君がまだ聴いたこともないほど素晴らしい音楽を聴かせてあげるよ。君、もう一度最初から弾いてくれないか」と言ったと伝えられています。

▼エレーヌ・グリモー(1969年~)の演奏。大学で動物生態学を学び、野生オオカミの保護活動をライフワークとする彼女の、若き日の瑞々しい記録です。

ドビュッシー作曲 喜びの島

クロード・ドビュッシー(1862~1918年)は、フランスを代表する作曲家で、「印象派」に分類されます。

ドビュッシーは女性関係にだらしなく、身勝手な不倫で二人の女性をピストル自殺に追い込むという非道な面を持っていました(二人とも一命を取り留めましたが…)。

「喜びの島」は、自殺未遂をした妻を放り出して、不倫相手と逃避行していたイギリスで作曲されました。

▼フランスの天才ピアニスト、サンソン・フランソワ(1924~1970年)の貴重な映像記録。

栄伝亜夜の本選

【栄伝亜夜の本選】

プロコフィエフ作曲
ピアノ協奏曲 第2番

プロコフィエフ作曲 ピアノ協奏曲 第2番

セルゲイ・プロコフィエフ(1891~1953年)は帝政ロシアに生まれ、27歳のとき日本を経由してアメリカに亡命。45歳で再び故郷(旧ソ連)に戻り、62歳で亡くなりました。

ピアノ協奏曲 第2番は、21~22歳のころの作品。モダンでシニカルな響きと、グロテスクなまでに劇的なエナジーに圧倒されます。

(ちなみに、『蜜蜂と遠雷』の映画では、栄伝亜夜は第2番ではなく第3番を弾くことになっています)

▼中国出身のユジャ・ワン(1987年~)の演奏。パーヴォ・ヤルヴィ指揮、ベルリン・フィルとの共演。女豹のような野性味と凄まじい瞬発力に、衝撃を受けることでしょう。アンコールの「トルコ行進曲」(ヴォロドス編曲)にも、度肝を抜かれると思いますよ(36:10~)。

えいぷりお的まとめ

『蜜蜂と遠雷』の主人公、栄伝亜夜の組んだプログラムを一言で表現するのは難しいですが、あえて言えば「情熱とロマンティシズムへの憧れ」と感じました。

ピアニストの道を一度は挫折した彼女が、コンクールを通じて、心の奥底にある「音楽する意味」を見つけていく。そんな過程にふさわしい瑞々しい作品が並んでいます。

ぜひ、音源を聴きながら小説を読んでみてください。

▼アイキャッチのこのイラストを自分で描いてみました。ショートボブの可憐な少女の横顔が、僕の栄伝亜夜のイメージです。

「蜜蜂と遠雷」栄伝亜夜

▼このイラストについてはこちら。

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▼小説『蜜蜂と遠雷』の書評はこちら。

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