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『蜜蜂と遠雷』演奏曲目リスト③高島明石 予選から本選までの全13曲の楽曲解説とおすすめの動画まとめ

「蜜蜂と遠雷」高島明石

こんにちは。えいぷりおです。

2016年に出版されベストセラーとなった恩田陸の『蜂蜜と遠雷』。2019年には映画化もされて話題になりました。

国際ピアノコンクールを舞台に、4人のピアニストがそれぞれの境遇と向き合い、葛藤を乗り越えていく長編小説です。

クラシックの名曲がたくさん登場するので、実際に音楽を聴きながら読むと、より深く楽しめます。

というわけで、4人のピアニストが演奏する全曲目をリストアップし、曲ごとに簡単な解説とおすすめ動画をご紹介します。

この記事では、楽器店勤務のサラリーマンでラストチャンスのコンクールに挑む、高島明石の演奏曲目をまとめます。

▼小説『蜜蜂と遠雷』の書評はこちら。

恩田陸著『蜜蜂と遠雷』【書評・本の感想】恩田陸著『蜜蜂と遠雷』クラシック音楽を文章で描ききれるのか?

▼映画『蜜蜂と遠雷』の感想はこちら。

映画『蜜蜂と遠雷』【映画の感想】松岡茉優主演『蜜蜂と遠雷』演奏シーンは迫真の出来栄えだったが…(ネタバレあり)

▼他の3人の演奏曲目リストはこちら。

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高島明石の人物像

高島明石 演奏シーン

(公式トレイラーから引用)

最初に、高島明石(たかしま・あかし)の人物像に触れておきます。

年齢は28歳。コンクールの出場資格の上限ギリギリの年齢。最後のチャンスとしてエントリーしています。

楽器店に勤めるサラリーマンで、妻と幼い子供がいる中での挑戦。「最後の記念」と思いつつも、コンクールの舞台で真剣に音楽に向き合うことで、ピアニストとして生きていきたいという捨て難い思いを自覚していきます。

映画では松坂桃李さんが演じ、ピアノ演奏はクリーブランド国際コンクール第1位などの受賞歴を持つ福間洸太朗さんが担当しました。

▼企画CDには、高島明石がコンクールで演奏した曲の一部が収録されています。

高島明石の第1次予選

第1次予選では、バッハ、古典のソナタ、ロマン派を組み合わせて、20分以内のプログラムを組みます。

【高島明石の第1次予選】

  1. バッハ作曲
    平均律クラヴィーア曲集 第1巻 第2番 ハ短調
  2. ベートーベン作曲
    ピアノ・ソナタ 第3番 ハ長調 作品2-3から第1楽章
  3. ショパン作曲
    バラード第2番 ヘ長調 作品38

バッハ作曲 平均律クラヴィーア曲集 第1巻 第2番 ハ短調

平均律クラヴィーア曲集は、ヨハン・セバスティアン・バッハ(1685~1750年)が鍵盤楽器のために作曲し、1742年に完成した不滅の業績。

24の調性ので書かれた「前奏曲」と「フーガ」で構成されていて、高島明石は第1巻に収められたハ短調を演奏しています。

▼ハンガリーの名手、アンドラーシュ・シフ(1953年~)の演奏。2017年のBBCプロムスでのライブ映像です。(第2番が始まる4:39から再生されます)

ベートーベン作曲 ピアノ・ソナタ 第3番 ハ長調 作品2-3から第1楽章

ルートヴィヒ・ヴァン・ベートーベン(1770~1827年)は、32曲のピアノ・ソナタを残しました。

第3番が作曲されたのは23~25歳のころで、その直前に一時的に弟子入りしていた大作曲家ハイドン(1732~1809年)に献呈されています。

▼ダニエル・バレンボイム(1942年~)の演奏。大指揮者でもある彼の手にかかると、ピアノ・ソナタがまるで交響曲のように聴こえます。

ショパン作曲 バラード第2番 ヘ長調 作品38

「ピアノの詩人」と呼ばれたフレデリック・ショパン(1810~1849年)は、4曲の美しいバラードを残しました。

第2番は、29歳のころの作品。ジョルジュ・サンドとの恋愛関係が始まり、療養のために訪れていたスペインのマジョルカ島で書かれました。

穏やかで牧歌的な第1主題と、荒れ狂う嵐のような第2主題が交互に現れます。

▼韓国出身のチョ・ソンジン(1994年~)の演奏。2015年のショパン国際コンクールで優勝したときの第2次予選のライブ映像です。

高島明石の第2次予選

第2次予選(24人出場)では、より幅広い作曲家から計40分以内のプログラムを組みます。菱沼忠明という架空の作曲家による「春と修羅」という新曲を入れることが条件になっています。

【高島明石の第2次予選】

  1. 菱沼忠明作曲
    「春と修羅」
  2. ショパン作曲
    練習曲 作品10-5「黒鍵」
  3. リスト作曲
    パガニーニによる大練習曲 S.141 第6曲 主題と変奏
  4. シューマン作曲
    アラベスク ハ長調 作品18
  5. ストラヴィンスキー作曲
    ペトルーシュカからの3楽章

菱沼忠明作曲 「春と修羅」

架空の作曲家、菱沼忠明による課題曲「春と修羅」。宮沢賢治の同名の詩集をもとに作曲された設定になっています。

映画のための楽曲は、ロンドン在住の現代作曲家、藤倉大さんが、小説のディテールを読み込んで作曲。繊細で美しい作品に仕上がっています。

この作品の特徴は、楽曲の終盤に「自由に、宇宙を感じて」とだけ指示されたカデンツァが置かれていること。カデンツァとは、演奏者が即興で演奏することが許された白紙の部分です。

4人の登場人物によるカデンツァも藤倉さんが書き分けていて、それぞれの個性が際立っています。ぜひ映画を観てみてください。

高島明石バージョンのカデンツァは、宮沢賢治の詩「永訣の朝」から発想を得たもの。死の床にある妹の「あめゆじゅとてちてけんじゃ(雨雪を取って来てちょうだい)」という最期の言葉が、切なくも美しい音で表現されています。

▼福間洸太朗さん(1982年~)による企画CDの演奏。高島明石バージョンのカデンツァは、3:12から始まります。

ショパン作曲 練習曲 作品10-5「黒鍵」

ショパン(1810~1849年)は、それぞれ12曲からなる2つの練習曲集(作品10と作品25)を残しました。

作品10が出版されたのは23歳のころで、すでにショパンはパリの社交界で知られていました。

第5番「黒鍵」は、右手のすべての音が黒鍵で書かれています(実はひとつ白鍵の音が含まれていますが…)。

▼イタリアの大ピアニスト、マウリツィオ・ポリーニ(1942年~)の歴史的名盤。この輝かしい音色と鮮やかなテクニックは、年月を経ても色褪せることがありません。(「黒鍵」が始まる9:03から再生されます)

リスト作曲 パガニーニによる大練習曲 S.141 第6曲 主題と変奏

フランツ・リスト(1811~1886年)は、ハンガリー出身の作曲家。超絶技巧を持つピアニストとして一世を風靡し、ヨーロッパ各地で大活躍しました。

「パガニーニによる大練習曲」は、一斉を風靡したバイオリンの鬼才、ニコロ・パガニーニ(1782~1840年)の作品から6曲を抜粋してピアノ用に編曲したものです。

第6曲「主題と変奏」は、パガニーニの「24の奇想曲」の第24番が原曲となっています。

▼ロシア出身のアレクサンダー・ルビャンツェフ(1986年~)の演奏。2007年のチャイコフスキー国際コンクールで第3位。優勝を目指して挑んだ2011年には本選に残ることができず、不満を抱いた聴衆が審査員を取り囲んで抗議するという騒動になり、「聴衆によって選ばれた優勝者」として有名になりました。

シューマン作曲 アラベスク ハ長調 作品18

ロベルト・シューマン(1810~1856年)は、ドイツの作曲家。リストやショパンと同時代を生き、叙情性豊かな作品を残しました。

「アラベスク」は、29歳のころの作品。「アラビアの」を意味する言葉。軽やかで夢見るような主題と、哀愁ただよう中間部からなります。

▼ドイツの歴史的な大ピアニスト、ヴィルヘルム・ケンプ(1895~1991年)による1961年の貴重な映像記録。分厚い手、慈愛に満ちた眼差し… 古き良き時代の響きがします。

ストラヴィンスキー作曲 ペトルーシュカからの3楽章

イーゴリ・ストラヴィンスキー(1882~1971年)は、20世紀を代表するロシアの作曲家。

ロシア・バレエ団(バレエ・リュス)の創設者ディアギレフ(1872~1929年)からの依頼で、「火の鳥」「ペトルーシュカ」「春の祭典」というバレエ音楽の傑作を残しました。

「ペトルーシュカ」は、29歳のころの作品。謝肉祭を舞台に、魔術師によって命を吹き込まれた人形ペトルーシュカが、失恋した上、殺害されるという摩訶不思議な物語です。

原曲は35分ほどのオーケストラ曲で、作曲家自身がピアノ版にアレンジしました。第1楽章「ロシアの踊り」、第2楽章「ペトルーシュカの部屋」、第3楽章「謝肉祭」からなります。

▼韓国出身のソン・ヨルム(1986年~)の演奏。切れ味鋭いタッチで、この作品が持つ背筋の凍るような狂気を見事に表現しています。

高島明石の第3次予選

第3次予選(12人出場)では、60分以内のリサイタル・プログラムを自由に組みます。

【島明石の第3次予選】

  1. フォーレ作曲
    ヴァルス・カプリス 第1番 イ長調 作品30
  2. ラヴェル作曲
    水の戯れ
  3. リスト作曲
    バラード第2番 ロ短調 S.171
  4. シューマン作曲
    クライスレリアーナ

フォーレ作曲 ヴァルス・カプリス 第1番 イ長調 作品30

ガブリエル・フォーレ(1845~1924年)は、フランスの作曲家。サン・サーンス(1835~1921年)とドビュッシー(1862~1918年)のちょうど間の世代にあたり、古典的な様式を保ちつつ、洗練された和声を持つ作品を残しました。

「ヴァルス・カプリス」とは、ワルツ(ヴァルス)と奇想曲(カプリス)の性格を併せ持つ楽曲。ある音楽学者は、この作品の響きを「優雅さとオパールのように微光を放つ和声」と表現しました。

4曲からなり、第1番は37歳のころの作品です

▼フランスの名手、ジャン=フィリップ・コラール(1948年~)の演奏。真珠のような音で奏でられる清々しいワルツに心が浮き立ちます。

ラヴェル作曲 水の戯れ

モーリス・ラヴェル(1875~1937年)は、フランスの作曲家。「スイスの時計職人」とも称された精緻な書法で、色彩豊かな作品を残しました。

「水の戯れ」は、パリ音楽院に在学中の26歳のころに作曲され、師匠のフォーレ(前項で登場)に捧げられました。印象派の扉を開いた画期的な作品のひとつと言われています。

楽譜の冒頭に「水にくすぐられて笑う河神」という詩の一節が書き添えられています。初めて聴かれる方は、その圧倒的な描写力に驚くと思います。

▼フランス出身のジャン=イヴ・ティボーデ(1961年~)の演奏。光を反射しながら刻々と姿を変えていく水の粒子が見えるようです。

リスト作曲 バラード第2番 ロ短調 S.171

バラード第2番は、リスト(1811~1886年)が42歳のころの作品。傑作「ロ短調ソナタ」と同じ時期に書かれました。

ロマン派のバラードと言えば、ショパンの4曲が有名ですが、リストの作品はその次に続く作品として、近年再評価されているようです。

壮大な物語を思わせるドラマティックな展開は、リストの真骨頂。嵐のような低音のうねり、きらめく星空のような高音の響き… 物語を想像しながら聴いてみてください。

▼「リストの再来」と呼ばれたハンガリー出身のジョルジュ・シフラ(1921~1994年)の演奏。古い録音ですが、今聴いても鮮やかな名人芸に圧倒されます。

シューマン作曲 クライスレリアーナ

「クライスレリアーナ」は、シューマン(1810~1856年)が28歳のころの作品。8つの小品で構成。同い年のショパンに献呈されました。

当時シューマンは、恋人クララをの結婚を、彼女の父親から反対され、苦しんでいました。音楽の創作が唯一の救いだったシューマンは、その時期に数々の傑作を生み、「クライスレリアーナ」もそのひとつでした。

曲名は、E.T.A.ホフマン(1776~1822年)の小説に登場する「楽長クライスラー」に由来。そこに描かれた「かなわぬ恋」に、自分とクララの恋愛を重ねたと言われています。

▼旧ソ連出身のスタニスラフ・ブーニン(1966年~)の演奏。1985年のショパン国際コンクールにおいて、19歳で衝撃の優勝を飾り、日本でも「ブーニン・フィーバー」が巻き起こりました。この演奏は、その前年の1984年のスタジオ録音。彼らしいメリハリの効いた好演です。

高島明石の本選

本選(6人出場)では、オーケストラとの共演で、ピアノ協奏曲を1曲選びます。

【高島明石の本選】

  1. ショパン作曲
    ピアノ協奏曲 第1番

ショパン作曲 ピアノ協奏曲 第1番

ショパン(1810~1849年)は、2曲のピアノ協奏曲を残しました。どちらも19~20歳のころの作品で、第2番の方が先に書かれました。

この曲を最後に、ショパンは祖国の土が入った銀の杯を携えてポーランドを去ります。その後、ポーランドではロシア帝国の支配への武装反乱が失敗。彼は二度と祖国に戻ることはありませんでした。

ショパン国際コンクールの本選では、第1番か第2番のどちらかを選んでオーケストラと共演しますが、第1番の方が華やかで規模も大きいため、こちらを選ぶコンテスタントの方が多いです。

▼旧ソ連出身のエフゲニー・キーシン(1971年~)の演奏。神童として早くから注目され、王道を行く盤石の演奏で着実に大ピアニストへの道を歩んでいます。

▼キーシンが12歳でリリースしたショパンのピアノ協奏曲のCD。無垢な少年の横顔を見てください… 僕は小学生のころ、この瑞々しい演奏に感動したことを、今もはっきりと覚えています。

えいぷりお的まとめ

小説『蜜蜂と遠雷』の舞台となった芳ヶ江国際ピアノコンクールの年齢制限は28歳。最後のチャンスで挑んだ高島明石が選んだ13曲は、彼の音楽人生のすべてを詰め込んだものだったに違いありません。

「春と修羅」のカデンツァに象徴されるように、透明感のある繊細な作品を多く選んでいるように思います。

その中に、狂気をはらんだ「ペトルーシュカ」のような作品を織り交ぜているところに、並々ならぬ決意が表れているように感じます。

彼はコンクールを勝ち抜くことができたのか… ぜひ小説を読んでみてください。

▼アイキャッチのイラストを自分で書いてみました。高島明石のイメージは温かみのある木目調。眼鏡の奥では深い色を湛えた目がどこか遠くを見つめています。

「蜜蜂と遠雷」高島明石

▼このイラストについてはこちら。

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▼小説『蜜蜂と遠雷』の書評はこちら。

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▼映画『蜜蜂と遠雷』の感想はこちら。

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▼他の3人の演奏曲目リストはこちら。

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