【無痛分娩】2015年9月に神戸の産婦人科で起こった事故 35歳の母親が死亡 ―麻酔科医の不足が一連の事故の根底に―

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神戸市で、また無痛分娩に伴う死亡事故が明らかになりました。母親が死亡、赤ちゃんも脳に重い障害を負いました。ここ最近で関西で次々に報道されている無痛分娩の事故は、これで6件目。麻酔科医の不足が問題として挙げられています。

2017年6月29日の新聞記事

無痛分娩 神戸新聞写真

(引用:神戸新聞NEXT

報じたのは神戸新聞。他の大手全国新聞も報じましたが、さすが地元紙だけあって、ディティールがよく取材されていて、事故の背景や状況がよく分かります。上の写真はその記事から引用したもので、左側が亡くなった女性の母親、右側が夫です。

事故が起こったのは2015年9月。母親は重い障害を負い、1年8か月後の2017年5月に死亡しました。亡くなったとき、35歳でした。

帝王切開で生まれた長男も脳に重い障害を負い、2017年7月現在も入院しているといいます。医院側は昨年12月に過失を認め、遺族に示談金を支払っています。

まずは神戸新聞の記事を見てみましょう。

最期の言葉は「息できない」 神戸の無痛分娩医療事故

神戸市西区の産婦人科医院「おかざきマタニティクリニック」で起きた「無痛分娩」の際の医療事故。亡くなった女性の夫(32)=東京都港区=らは「『息ができない』と話したのが最期の言葉だった」と涙を浮かべながら経緯を打ち明けた。

初産だった女性。小柄な体形に比べ、おなかが大きくなっていた。同クリニックは実家に近く、当初は自然分娩の予定だった。遺族によると、男性院長からは、出産が困難な際に吸引カップを使う「吸引分娩」をしながら無痛分娩をすることを提案されたという。女性の母親(60)=同市西区=も止めたため、女性はためらっていたが、院長から説明を受ける中で「病院だから大丈夫だよね」と、無痛分娩での出産を決めた。

出産は朝から始まり、「硬膜外麻酔」の開始直後、院長は外来診察で呼ばれ離席。麻酔薬の投与が進むにつれ女性の体調は徐々に悪化し、おなかの子どもの心拍数も下がり始めた。

看護師らが対処し、院長も戻ってくるが、その後、女性は意識を失った。同クリニックに駆け付けた母親が目撃したのは、手術室で横たわる女性の姿と別の病院に電話する院長の姿だったという。

出産前にはおなかが動く様子を動画で撮影し、家族みんなに送っていたという女性。子どものために将来設計を練り直したり、名前を考えたりと、わが子の誕生を楽しみに待っていた。

生まれてきた長男(1)は一時は肺炎で危篤状態になり、尿を管理する脳の機能が育たないため、常に水分調整などの処置を受けなければならないなど、「いつどうなってもおかしくない状態が続いている」という。

遺族は「体制が整ってるところだったら、こんなことにはならなかったのか。分娩の痛みと引き換えに命がなくなるなんて」とうつむいた。(篠原拓真)

(引用:神戸新聞NEXT

無痛分娩 亡くなった35歳の女性

(引用:ヨミドクター

この写真は、35歳で亡くなった女性です。初産で、わが子との対面を待ち望み、おなかをけられると、いとおしそうに手を当てていたと言います。生まれてくる赤ちゃんと会えることを、どれだけ楽しみにしていただろうと思うと、胸が詰まります。その赤ちゃんは、脳細胞がほぼ死滅してしまい、肺炎も患って、重篤な状態が続いているそうです。

無痛分娩 コウノドリ綾野剛

医療漫画「コウノドリ」第10巻に、無痛分娩を扱ったエピソードがあります。総合病院の産科医である主人公は、病院の体制が万全でないことを理由に「患者希望の無痛分娩はできない」と言い切っています。それが賢明な姿勢と言えるでしょう。逆に、妊婦が心臓や肺に病気を抱えている場合には、医師としての判断で無痛分娩を選択するケースもあります。

しかし今回の事故では、妊婦に大きな疾患がないにもかかわらず、医療的な侵襲行為である「吸引分娩」を前提に、無痛分娩を医師の側から強く提案しています。これは理解に苦しみます。なぜ医師の側から、こんな安易な提案をしたのでしょうか。

最近の報じられた無痛分娩の事故

ここで、2017年4月から6月にかけて、相次いで報道された無痛分娩にからむ事故を、時系列で整理しておきます。

まず、2011年4月に京都の産院で起こった医療過誤訴訟。赤ちゃんが脳に重大な障害を持って生まれ、その後3歳で亡くなったという痛ましい事故でした。事故の原因のひとつとして「陣痛促進剤」の過剰投与が示唆されています。
【無痛分娩】2011年4月に京都の産婦人科で起こった事故 脳に障害、3歳で死亡 ―陣痛促進剤の過剰投与か―

次に、2012年11月に京都の同じ病院で起こった訴訟。母子ともに意思疎通のできない重大な障害を負いました。原因の可能性として「局所麻酔薬中毒」が挙げられました。
【無痛分娩】2012年11月に京都の産婦人科で起こった事故 母子ともに脳障害で提訴 ―局所麻酔薬中毒か―

2015年8月には、神戸の病院で、36歳の母親が陣痛促進剤の過剰投与と思われる子宮からの大量出血などで亡くなる事故がありました。異変が起こった後の病院側の対応にも問題があり、刑事告訴されました。
【無痛分娩】2015年8月に神戸の産婦人科で起こった事故 36歳の母親が死亡 ―陣痛促進剤の過剰投与で刑事告訴―

そして、2015年9月に、同じく神戸の別の病院で起こったのが、今回取り上げている事故です。硬膜外麻酔の手技とその後の管理に、明らかに杜撰な点が見られます。

さらに、2016年5月にも京都の同じ病院で医療事故が起こっています。この事故でも、母子ともに意思疎通のできない重大な障害を負いました。原因として「全脊髄麻酔状態」が考えられています。
【無痛分娩】2016年5月に京都の産婦人科で起こった事故 母子ともに脳障害で提訴 ―全脊髄麻酔に陥ったか―

2017年1月には、大阪の産院で、31歳の母親が出産中に呼吸不全に陥って意識不明となり、その後亡くなるという死亡事故が起こりました。僕の勝手な推測で、麻酔薬によるアレルギー反応(アナフィラキシーショック)について検証してみました。
【無痛分娩】2017年1月に大阪の産婦人科で起こった事故 31歳の母親が死亡 ※追記 2017年8月 担当した院長が書類送検へ

麻酔後に、なぜ妊婦は放置されたのか

今回の事故で驚かされるのは、硬膜外麻酔の処置を開始した後に、医師が患者を放置して病室を離れている点です。麻酔を行ったのは、麻酔科の専門医ではない産婦人科の院長です。硬膜外麻酔のリスクを甘く考えていたとしか思えません。

一連の事故を受けて、麻酔科医の不足が指摘されています。同日(2017年6月29日)の神戸新聞には、次のような記事も掲載されました。

無痛分娩、各地で事故 足りぬ麻酔医

(前略)麻酔自体は麻酔科医でなくても施せるが、十分な訓練を積んだ産婦人科医や、麻酔科医でなければトラブル時の対応が難しい。日本では産婦人科医が1人の診療所でも無痛分娩の実施を掲げることができ、麻酔科医が常勤、常駐する医療機関は限られている。

兵庫県産科婦人科学会長で、なでしこレディースホスピタル(神戸市西区)の大橋正伸院長は「日本の医療は麻酔科を重視してこなかった。問題の根本的な解決には麻酔科医を増やす必要がある」と指摘する。

(引用:神戸新聞NEXT

トラブルに対応できる体制を持たないまま、麻酔の専門医ではない産科医が安易に処置を行い、リスクを軽視して現場を離れてしまう。今回の事故は、起こるべくして起こったと言っても過言ではありません。

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麻酔科医不足の現状

麻酔科医がどの程度不足しているのか、明確な数字は分かりません。ですが、麻酔科医の方が書かれたブログ記事に、彼らのおかれた現状がリアルに記されています。ちょっと長い文章ですが、とても参考になるので、全文引用します。

麻酔科医のマンパワー不足は非常に深刻である!!

我が母校である○○大学病院の麻酔科では、一般診療科(特にマイナー診療科)からのローテーション医師のマンパワーに依存して、日常診療をなんとかこなしているのが実情だ。これは、我が母校だけではなく、当該教室の教授曰く『日本全国のどの大学病院でも見られる「当然、当たり前、どこでもやってること。」なのだ。』そうだ。

個人的には、「麻酔科」という診療科は、既に確立した他の診療科からは独立した専門的な診療科であると信じて、日々の診療に当たっている。しかし、それとは裏腹に、現実には日常的な麻酔診療は、大学病院を中心とした大病院でさえ、麻酔専門医ではなく、まだどの診療科に進むか決めかねている臨床研修医や、人手不足を理由にした他の診療科からの「ローテーション」と言う名の、非専門医の半強制的な助力に依存した麻酔診療が行われている。

しかし、よく考えてみよう。

例えば、一般診療科である「小児科」の外来が多忙であるからと言って、「産婦人科」の外来が忙しいからと言って、他の診療科からの医師の応援をもらって何とか日常診療をこなしているなどと言うことがあるだろうか。そんなこと、普通の視点から言えば、あるわけない。もしも、そんなことが行われていれば、それははっきり言って診療科名の「偽装」・「ウィンドウ・ドレッシング」である。

全国の大学病院の麻酔科がやっているのは、まさに「偽装」・「ウィンドウ・ドレッシング」・「狗肉に策」なのである。そんな「異常な事態」が、麻酔科では、当然のごとく日常診療で行われていることなど、一般市民は知る由もないだろう。

「えっ!! 私の全身麻酔を担当してくれた先生は、本当は皮膚科の先生だったの?」そんなことは、あってはならないことじゃないだろうか。患者さんは全くそんなことは知らされずに、「意識がない」ことをいい事にして、日常的な麻酔診療が行われているなんて、完全に患者の期待を裏切っている。そんな診療を日常的に行っているのが麻酔科という診療科だ。

長年かけて努力して「麻酔科」という独立した診療科としてアイデンティティを確立してきたはずの基盤を、自らが潰しにかかっているのが今の麻酔科の現状ではないだろうか?

なぜ、こんな事態が起こっているかのというと、大学病院を中心とした麻酔科医の待遇が劣悪すぎるからだ。麻酔という診療科は、自分たちで自分たちの業務のスケジュールを組み立てることができない。自分たちの努力とは無関係に長時間の麻酔診療に従事せざるを得ないのが日常である。18 時以降の自分の予定を計画できないのだ。

必然的に、「自分の時間」を大事にしたい若い麻酔科医は、大病院の勤務医としての職場を離れて、日勤だけで済む麻酔のアルバイトだけを本業とする、いわゆる「麻酔科開業医」へと流れているわけである。

本来ならば、そのような業務形態ならば、看護部と同様に、「日勤」、「準夜」、「夜勤」とはいかないまでも、せめて、「日勤」と「準夜」というように、時間帯ごとに別の麻酔担当責任者と実務者を割り当てなくてはならないはずであるが、「他の診療科がそんなことはしていない以上、麻酔科だけそんな診療形態はできない。人員が充足していないからそんなことは不可能だ。」というのがお偉いさんの言い訳かもしれない。

しかし、「救急診療科」となれば、既にそういう診療形態を取っているところもあると聞く。

「日本麻酔科学会」という 1 万人を超える会員数を誇る大きな学会組織があっても、その実情を理解していないのか?見て見ぬ振りをしているのか? 学会の重鎮は自分に被害が及ばなければそれで良し、としているのか? 疑問だらけである。

日本麻酔科学会よ、目覚めよ! 許容してよいことと、いけないことをはっきりさせるんだ!そうしてこそ、真実の医療現場の実態が、公的な視点からも明らかになり、本当に医師が不足している診療科はどの診療科なのかが明らかになるだろう。大きな声が出せるのは、権力のある立場のヒトである。

悲しいかな!!市中病院の一勤務医である私は、ブログでこんな苦言を呈することしかできない。なんと無力な存在でしかないのだろう!?

皆さん、我慢するのもいい加減にしましょうね!! 麻酔科医だからと言って、麻酔のかった患者さんと同じように黙ったままでいる必要はないんですよ。人間には我慢の限界があります。麻酔科医としてその尊厳にかけてできないことは「できない!」、適切でないことは「それはおかしい!」とはっきり言いましょう!

(引用:麻酔科勤務医のお勉強日記

一応補足しておくと、最後の呼びかけのような文章は、患者に向けてではなく、麻酔科医たちに向けて書かれています。我々はブラック企業のような扱いを甘んじて受けるべきではない!と訴えているのです。麻酔科医たちが、いかに疲弊しているかが見えてきます。

それにしても、全身麻酔を皮膚科などの医師が担当している可能性があるという記述には、心底ゾッとしますよね。ですが、これが現状なのでしょう。無痛分娩の現場でも、麻酔科医ではなく、産科医が麻酔をしているケースが、かなり多いのではないかと思われます。

「チーム・バチスタの栄光」に見る麻酔科医の疲弊

麻酔の専門医は、どれだけ過酷な状況で、日々シビアな手術現場に立ち会っているのでしょうか。そのことを考えるとき、僕は「チーム・バチスタの栄光」のテレビドラマを思い出します。

「チーム・バチスタの栄光」は、2006年に宝島社から刊行された海堂尊の長編小説です。作者のデビュー作で、第4回『このミステリーがすごい!』大賞を受賞した話題作でした。

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この作品は、2008年秋にテレビドラマとして放送され、これも大きな反響を呼びました。本当によくできた作品で、僕は何度も繰り返し見ました。

 

この物語は難易度の高い心臓手術を専門に行う凄腕ぞろいの「チーム・バチスタ」をめぐるサスペンスですが、重要人物の一人に、城田優が演じる麻酔科医がいます。

無痛分娩 チームバチスタ城田

彼は非常に優秀な麻酔科医ですが、バチスタ手術以外にもあらゆる手術に呼ばれ、カップラーメンを食べる暇もないほどの過酷な労働環境におかれています。立場は低く、執刀医からは名前ではなく「麻酔科」と呼ばれ、人として扱われていません。

あまりの過労に徐々に精神を破壊されていき、彼はついに… ここから先はぜひドラマか原作小説をお読みください。

これはあくまでフィクションですが、先に紹介した麻酔科医のブログと考え合わせると、総合病院における麻酔科医の立場は、かなりリアルに再現されているのではないでしょうか。

これだけ麻酔科医が人手不足になっている中で、個人経営の産婦人科が、潤沢に人員を確保しているとは思えません。先にご紹介した「コウノドリ」では、主人公の同僚のセリフに、こういう言葉が出てきます。

「確かに産科麻酔の専門医を雇ってわざわざ希望での無痛分娩のために24時間対応するなんて、この病院じゃあ、まぁ無理だな」

麻酔科医不足の現状で無痛分娩はすべきでない

おそらく、総合病院の産科でも、大学病院の産科でも、個人病院でも、万全の体制で麻酔科医を確保している病院は、かなり少ないのではないでしょうか。

だとすると、無痛分娩のリスクはかなり大きなものになります。麻酔の素人が硬膜外麻酔の針を刺している可能性があるのですから。産科医が麻酔を兼任することで、麻酔の監視がおろそかになっている可能性は高いと考えた方がいいと思います。

僕の妻が次女を出産したとき、麻酔科医の体制はどうだったのだろう・・・。もう数年前のことですから、今さら聞きに行くことはありませんが、麻酔時の異常と、その後の後遺症を、誰もケアしてくれなかったのです。

今回の神戸の事故は、麻酔を甘く見た医師が引き起こしました。医師自らが強く提案したにもかかわらず、です。

これから無痛分娩を選択しようとしている方は、医師を徹底的に疑ってかかってください。大切なふたつの命がかかっているのですから。

〔追記〕遺族の夫が要望書を提出

その後、2017年7月5日の新聞記事で、夫が厚生労働省や日本産科婦人科学会に「要望書」を提出したという記事が出ました。記事を見てみましょう。

無痛分娩事故の実態調査を 被害者遺族が要望書

神戸市西区の産婦人科医院で2015年9月、麻酔を使って出産の痛みを和らげる「無痛分娩」の際に起きた医療事故で、亡くなった女性の夫(32)=東京都港区=が5日、無痛分娩が原因と疑われる医療事故の実態調査などを求め、塩崎恭久厚生労働相や日本産科婦人科学会の藤井知行理事長ら宛てに要望書を出したことを明らかにした。

女性は無痛分娩の際の麻酔が脊髄の中心近くに達したとみられ、呼吸できなくなったという。脳に損傷を負い、意識不明の重体のまま事故から約1年8カ月後に死亡。生まれてきた長男(1)は脳細胞がほぼ死滅し、肺炎を患うなど重篤な状況が続いているという。

要望書では、女性の事故のほか、無痛分娩が原因と疑われる事故や「ヒヤリハット」事案などを調べて公表し、事故防止のための医療体制の充実を図るよう求めた。また女性の場合と同様、医師が外来診療をしながら「硬膜外麻酔」を使った無痛分娩をさせることがないよう訴えている。

夫は「皆に愛された妻、何の罪もないわが子がなぜ、命を失い、将来の希望を断たれたのか。無痛分娩のリスクを伝え、二度と同じような事故が起こらないようにお願いしたい」としている。(篠原拓真)

(引用:神戸新聞NEXT

厚生労働省や日本産科婦人科学会には、この遺族の思いをくみ取って、本気で実態調査と今後の方策を考えてもらいたいと思います。

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