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【無痛分娩】2012年11月、京都「ふるき産婦人科」の事故 母子ともに脳障害で提訴 ―局所麻酔薬中毒か―

京都の「ふるき産婦人科」で起こった、無痛分娩による医療事故の報告が相次いでいます。6月6日に続いて2件目の報道となる今回の事故でも、母親と赤ちゃんどちらもが意思疎通のできない重度障害を負っています。

2017年6月12日の新聞記事

6月6日の新聞記事では、2016年5月に起こった無痛分娩の医療事故が報じられています。母子ともに意思疎通のできない重度障害を負いました。

【無痛分娩】2016年5月、京都「ふるき産婦人科」の事故 母子ともに脳障害で提訴 ―全脊髄麻酔に陥ったか―

今回報道されたのは、2012年11月に同じ病院で起きた医療事故です。これら2つの事故には、多くの共通点があります。

まずは記事の内容を見てみましょう。

無痛分娩、別の母子も脳障害 京都の産婦人科医院を提訴

出産時の痛みを麻酔で和らげる無痛分娩(ぶんべん)の施術ミスで、2012年11月に元大学准教授のロシア人女性(40)=京都市左京区=と長女(4)が意思疎通できない重度障害を負ったとして、夫(55)らが、京都府京田辺市の産婦人科医院「ふるき産婦人科」を相手取り、計約9億4千万円の損害賠償を求める訴訟を京都地裁に起こしていたことが、12日までに分かった。

医院をめぐっては、昨年5月に同様のミスが起き、母子が低酸素脳症による重度の障害を負ったとして、家族が計約3億3千万円の損害賠償を求めて同地裁に提訴している。

訴状などによると、女性はインターネットで同医院を知り、局部麻酔を用いる無痛分娩での出産を決めた。陣痛開始後、脊髄を保護する硬膜の外側に細い管(カテーテル)を差し込んで、麻酔薬を注入する硬膜外麻酔を受けた。

その後、女性の容体が急変。一時は心肺停止となり、宇治市内の総合病院に救急搬送された。搬送先で産まれた長女は低酸素脳症となり、女性は蘇生後脳症になった。2人は現在も寝たきりで、意思疎通ができない状態という。

出産時の医療事故を補償する「産科医療補償制度」の原因分析委員会の報告書では、今回の事故を「カテーテル先端が硬膜を破って全脊椎麻酔になっていた可能性が高い」とし、「通常使用する量の2.5~4倍の麻酔薬を1回量として注入したことによる局所麻酔中毒」と結論付けている。

夫側は、報告書などの指摘を踏まえ、医師に安全に麻酔を投与する義務違反があったと主張し、長女は自発呼吸がなく24時間自宅介護する費用や日本でロシア語を教える夢を絶たれた女性の慰謝料などを求めている。

ふるき産婦人科は「取材には答えられない」と話した。

無痛分娩

日本産科麻酔学会によると、一般的な硬膜外鎮痛法では、硬膜外腔という背中の脊髄に近い場所に局所麻酔薬などを投与し、下半身の痛みだけをとる。心臓や肺が悪い妊婦などの負担を軽減するため用いる場合もある。2007年度に行われた医師による実態調査では、全国の硬膜外無痛分娩率は全分娩の2.6%だった。アメリカでは経腟分娩の約6割、フランスでは約8割が無痛分娩という。

(引用:京都新聞

硬膜外麻酔にともなうリスクとして、いくつかの可能性が想定されます。

  • 麻酔薬に対するアレルギー反応
    (アナフィラキシーショック)
  • 全脊髄麻酔状態
  • 局所麻酔薬中毒

新聞報道の情報だけでは、今回の事故で実際に何が起こっていたかを特定することはできません。同時にいくつかのトラブルが起こっていた可能性もあります。

アナフィラキシーショックについては、大阪で起こった医療事故について書いたブログ記事で検証してみました。

【無痛分娩】2017年1月、大阪「老木レディスクリニック」の事故 31歳の母親が死亡 院長が書類送検 HPの虚偽記載も

全脊髄麻酔状態については、2016年5月に京都の同じ病院で起こった医療事故について書いたブログ記事で検証してみました。

【無痛分娩】2016年5月、京都「ふるき産婦人科」の事故 母子ともに脳障害で提訴 ―全脊髄麻酔に陥ったか―

今回の記事にも「全脊髄麻酔」の記述が見られますが、もうひとつの言葉として「局所麻酔(薬)中毒」の可能性が示唆されています。

局所麻酔薬中毒とは何か

記事では、出産時の医療事故を補償する「産科医療補償制度」の原因分析委員会の報告書に触れ、今回の事故で何か起きたかについて、2つのポイントを挙げています。

  • カテーテル先端が硬膜を破って全脊椎麻酔になっていた可能性が高い。
  • 通常使用する量の2.5~4倍の麻酔薬を1回量として注入したことによる局所麻酔中毒。

2点目に書かれた「局所麻酔薬中毒」とは何でしょうか?

局所麻酔薬中毒とは、局所麻酔薬の血中濃度が徐々に高まるのに従って、以下のような症状が段階的に現れるものです。

〔①初期症状〕
・舌、口唇のしびれ
・めまい、ふらつき
・金属様の味覚
・複視、耳鳴り

〔②興奮状態〕
・多弁
・呼吸促拍
・血圧上昇
・痙攣

〔③抑制症状〕
・昏睡
・呼吸停止
・血圧低下

いったん〔興奮状態〕になるのは、麻酔薬が大脳皮質に影響を及ぼし、興奮を抑制するための神経経路が、まず先にブロックされるためだと考えられています。

〔興奮状態〕を経て、最終的にはあらゆる身体機能が麻痺していく〔抑制症状〕に移行します。ここに至ると、心肺停止状態になったり、低酸素脳症になったりして、重篤な障害を残すことになります。

今回の事故では、麻酔の針が硬膜とくも膜を突き破って「くも膜下腔」に直接注入されることによる「全脊髄麻酔状態」に陥った可能性が高いとされる一方、麻酔薬の量が多すぎたことによる「局所麻酔薬中毒」の可能性も合わせて指摘されています。

麻酔科医の手技の未熟さに加え、麻酔の量が適切に管理されていなかったこと、そして母体の状態をきちんと監視できていなかったことも推測されます。

何件もの訴訟を起こされていることからも、この病院では、かなり杜撰な麻酔管理のもとで無痛分娩が行われていたことが分かります。

分娩監視装置をつけていなかった

無痛分娩 分娩監視装置

母体の状態がきちんとモニターされていなかったことに加えて、この病院では胎児の状態をモニターするための「分娩監視装置」を装着せずに無痛分娩が行われていたことも明らかになりました。

無痛分娩では、陣痛を誘発するために子宮収縮薬(陣痛促進剤)を、点滴を使って入れるケースが多くなります。

その場合、子宮収縮薬は慎重に、きわめて少量ずつ、ゆっくり点滴しなければなりません。分娩監視装置で子宮の収縮の強さや頻度、胎児の心拍などを正確にモニターしながら、点滴の注入速度を加減することによって、安全で有効な陣痛(子宮収縮圧と収縮周期)に調節する必要があります。

そうした慎重な誘導によって、「張って来るのは分かるけれど、痛くない」という状態で分娩を進行させることができるのです。

ところが、京都の「ふるき産婦人科」では、分娩監視装置をつけていませんでした。麻酔のコントロールも杜撰で、そのうえ子宮収縮薬のコントロールも杜撰だったのです。母体も赤ちゃんも極めて危険な状態にさらされていたと言えるでしょう。

無痛分娩のリスクは数字では見えない

おそらくこの医療事故も、日本産科婦人科学会には報告されていなかったと思われます。

学会の発表している数字だけを見ると、無痛分娩は決して妊産婦の死亡率を高めるものではないと考えられます。しかし、報告されていない医療事故が他にも多数あるのではないかと僕は考えています。

【無痛分娩】2017年4月の日本産科婦人科学会で発表された「無痛分娩で13人死亡」の真相とは

僕の妻のような副作用(硬膜穿刺による脳脊髄液減少症)も含めたら、決して少なくない割合で副作用や合併症が起こっている可能性があります。

【無痛分娩を考えている人へ】メリットとデメリット、硬膜外麻酔のリスク、僕の妻が体験した医療事故

何度も口を酸っぱくして言いますが、軽い気持ちで無痛分娩を選択してはいけません。医療的な事情でやむを得なく選択する場合(母親が心臓や肺に疾患を抱えているなど)を除いては、自然分娩を選ぶべきだと僕は思っています。産科における麻酔科医の現状に、様々な構造的な問題があると思われるからです。

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