【コウノドリ】2017年 第6話 妊婦と甲状腺機能亢進症 ―甲状腺クリーゼのリスクを知る―

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「コウノドリ」第2シリーズの第6話では、甲状腺クリーゼという難病によって母親が亡くなってしまう悲痛なエピソードが描かれました。甲状腺機能亢進症と妊娠・出産のリスクについて考えます。

「コウノドリ」第2シリーズ第6話のエピソード

(※以下、ネタバレの内容を含みます。ドラマをご覧になっていない方は、ご注意ください)

第6話「母と子を救え!チーム救命医療」では、主人公・鴻鳥サクラの後輩である下屋加江の挫折と新たな一歩が描かれました。

下屋は、自分と同い年の妊婦、神谷カエの持病を見抜くことができず、母体死亡に至らせてしまいます。

神谷カエの持病とは「甲状腺機能亢進症」。本人に自覚症状はあったものの、病気との認識はなく、診断もされていませんでした。

彼女のかかっていた産婦人科の担当医も病気を把握していませんでした。ヘルプで夜勤に派遣された下屋は、手の震えに気付き、甲状腺異常の兆候を疑います。しかし、切迫した状況とまでは考えず、担当医への報告のみをして勤務を終えます。

その日、急変して「甲状腺クリーゼ」を起こした神谷が、下屋の勤める聖ペルソナ総合医療センターに心停止した状態で搬送されてきます。死戦期帝王切開によって赤ちゃんは命を取り留めますが、母体はそのまま息を引き取ります。

母体死亡という産科医にとって最も苦しい経験をした下屋は、挫折と葛藤を経て、ある決断をする…というストーリーでした。

ここで妊婦・神谷カエを死に至らしめたのは、どのような病気だったのかを見ていきます。

甲状腺クリーゼとは

神谷カエの死因は「甲状腺クリーゼ」。これは、甲状腺機能亢進症が未治療、または治療が不十分の時に、急変して命にかかわる状態に陥ることを指します。「クリーゼ」とはドイツ語で、英語の「クライシス=危機的状況」と同義です。

甲状腺クリーゼに陥ると、心拍や血圧、体温が危険なレベルに上昇します。ドラマの中でも、神谷カエの血圧は、上が180に達し、搬送中に心停止。ペルソナ病院に運ばれた時には、体温39度、発汗も顕著と報告されてます。こうなってしまうと、 積極的な治療が迅速に施されなければ、多くの場合、死に至ります。

甲状腺クリーゼを引き起こす甲状腺機能亢進症について触れる前に、まず甲状腺とはどのような臓器なのかを説明しておきます。

甲状腺とは

(引用:みなみ赤塚クリニック

甲状腺とは、首の下部の中心にある蝶の形をした分泌腺です。 甲状腺では、新陳代謝を制御する2つのホルモン、トリヨードサイロニン(T3)とサイロキシン(T4)が作られます。

 

(引用:みなみ赤塚クリニック

これらのホルモンには、全身の活動性をあげる働きがあります。分泌されると、心拍数があがり、汗をかき、基礎代謝が増加します。

これが過剰に分泌されると、「甲状腺機能亢進症」の症状が現れます。

甲状腺機能亢進症とは

(引用:みなみ赤塚クリニック

甲状腺ホルモンの過剰分泌によって、以下のような症状が起こります。

・元気がよくなりすぎる
・情緒不安定
・手の指が震える
・動悸
・沢山の汗をかく
・暑がる
・皮膚が湿った感じになる
・体重減少( 基礎代謝が上がるため)
・甲状腺が腫れる
・目が飛び出す(眼球突出)

今回のドラマの中でも、患者の神谷カエには、動悸や手の指の震えが見られました。下屋医師はそのことに気付きましたが、甲状腺クリーゼに陥ることまでは予測することができませんでした。

こうした甲状腺ホルモンの異常分泌を起こす、最もよく見られる原因として「バセドウ病」が挙げられます。

バセドウ病とは

バセドウ病は人口1000人あたり3人ほどの頻度(0.3%)に起こる病気で、圧倒的に女性に多く見られます。 若い人の罹患も多いため、妊娠と合併する頻度も高いので注意が必要です。

バセドウ病は自分の細胞を刺激してしまう「自己免疫性疾患」の代表的なものです。甲状腺の細胞の表面には、ホルモン分泌をコントロールしている受容体と呼ばれる分子(レセプター)があります。このレセプターに結合して正常な機能を失わせてしまう自己抗体が作られてしまうのがバセドウ病のメカニズムです。

0.3%の罹患率は高くないと思われるかもしれませんが、日々の生活の中で異常に気付かず、適切な治療を受けないまま妊娠・出産を迎えてしまうと、急激な亢進状態、甲状腺クリーゼに陥る危険性があるのです。

大切なのは、自分の身体のサインに気付くこと。内科で診断をあおぎ、適切な治療を受けること。そうすれば、バセドウ病の治療を継続しながら妊娠・出産をすることは可能です。

甲状腺クリーゼに陥る確率

甲状腺クリーゼに陥る確率は、 甲状腺機能亢進症を持つ人1~2%と言われています。決して高い数字ではないかもしれませんが、上記のような症状がないか、意識しておく必要はあると思います。

甲状腺クリーゼの怖いところは、突然発生し一気に重篤な症状に至ることです。多くの場合、ひとりで病院に行くことができない状態になります。症状は先ほど挙げた甲状腺機能亢進症の症状を極度に重くしたような形となります。

・ 1分間に140を超える心拍(頻脈)
・心房細動
・高熱
・持続性の発汗
・震え
・動揺
・落ち着きがない
・混乱
・下痢
・意識消失

ドラマでは、まさにこの重篤な症状が突然、神谷カエを襲ったのです。

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妊娠中は分かりにくい甲状腺異常

妊娠成立から12週ころまで増加するhCGというホルモンの構造が、甲状腺機能亢進症と関わるTSHというホルモンとよく似ているため、つわりのある時期は一時的に甲状腺機能亢進症と同じような状態になります。そのため、甲状腺の異常が見抜けない場合があります。

ドラマの中でも、神谷カエが亡くなった後のカンファレンスで、産科のチームと救命のチームの間で、次のようなやり取りが交わされました。

今橋 「今回の母体死亡は血液検査と症状により、甲状腺クリーゼによるものと診断しました」
(※大森南朋さん演じる周産期医療チームのリーダー)

鴻鳥「それによって急激な心不全、そして肺水腫を来たし、搬送途中に心停止に至ったようです

加瀬「まあ要するに、甲状腺が悪かったから、あの状況が起きたんだろ?」
(※平山祐介さん演じる救命医)

鴻鳥「そうですね」

仙道「ふーん…なんでそれ、こはる産婦人科は誰も気付かなかったのわけ?」
(※古舘寛治さん演じる救命科の部長)

四宮「甲状腺機能亢進症の症状、動悸や頻脈は妊娠時によくある症状です。切迫早産で入院後にさらに状況が悪くなっていたようですが、正常範囲内、収縮抑制剤の副反応の範囲内と判断したんだと思います」
(※星野源さん演じる産科医)

仙道「ぶっちゃけ、見落としじゃないの?だって産科ってさ、毎日妊婦さん相手にお世辞言ってる感じでしょ。君たち危機感足りないんじゃないの?」

白川「ちょっと待ってくださいよ、仙道部長。今のは言い過ぎじゃないですか?」
(※坂口健太郎さん演じるNICUの医師)

今橋「産科も新生児科も日々赤ちゃんとお母さんの命に真剣に向き合っています。必要であれば十分にご説明しますが」

仙道「いいよ、そんな。救命に関係あると思えないし」

加瀬「でもさ、妊娠初期に妊婦全員をスクリーニングしたら、今回みたいなケースは防げたんじゃないのか?」

鴻鳥「甲状腺異常を持った患者さんの中でも、甲状腺クリーゼまで発症するのはごくわずかです」

今橋「その極めて稀なことのために、すべての妊婦さんをスクリーニングするべきかどうかは、コスト面や医療費などを考えると、我々の判断だけでは難しいことです」

母体死亡の悲劇は防げなかったのか

福田麻由子さん演じる神谷カエが亡くなってしまうシーンは、凄まじい緊迫感に満ちています。

心停止に陥った神谷に対して、母体蘇生処置として死戦期帝王切開が行われます。これは、赤ちゃんを取り出すことによって子宮を小さくして下大静脈と大動脈の圧迫を解除し、母体血行動態を改善することを目的としたものです。

しかし母体の心拍は戻ることがありませんでした。

一方、取り出された35週の赤ちゃんも心停止状態。挿管の措置が迅速に行われて、こちらは一命をとりとめます。

赤ちゃんを抱くことなく命を落としてしまった母親。この悲劇を防ぐことはできなかったのでしょうか。

妊婦とその家族の意識

神谷カエとその夫がもし、日ごろから起こっていたであろう動悸や手の指の震えなどの症状が甲状腺の異常によるものかもしれないと気付くことができたら、適切な治療を受けることができたかもしれません。

そのためには甲状腺に関する知識が必要です。今回のドラマをきっかけに、これからママになる女性がそうした知識を身に着けてもらえたらと願います。

かかりつけの産科医ができること

神谷カエの通っていた「こはる産婦人科」の主治医は、本人から言及がなかったということで、甲状腺の異常を疑うことがありませんでした。

でも、このことを責めることができるでしょうか。動悸も手の震えも、妊娠時によく起こる症状と似ていて、張り止めの点滴でも同じような症状が起こることを考えると、甲状腺異常を見抜くのは、やはり難しかったのかもしれません。

だとしても、主治医以外に気付いてあげられる人がいなかったことも事実でしょう。妊婦全員に血液検査をするのは現実的でないとしても、動悸や手の震えがある妊婦には検査を行うことがもしできれば…と思ってしまいます。

鴻鳥が下屋にかけた言葉

大きな挫折を経て、救急救命医になるという新たな道に踏み出す決意をした下屋加江に、鴻鳥サクラはこんな言葉をかけます。医師ではない僕たちにとっても、考えさせられるメッセージだと思います。

「下屋、患者さんを亡くしてしまったこと、乗り越えることはできない。僕の胸にも、いろんな後悔が残ってる。あの時、もっと早く気付いていれば。もっと勇気を出していれば救えたんじゃないか。その後悔を乗り越えることはできない。忘れることもできない。悔しいこともうれしいことも、ひとつひとつ胸の中に積み重ねて、僕たちは医者として進んでいくしかない」

「コウノドリ」関連の記事

産科医療の現場を描いた名作漫画「コウノドリ」とそのドラマ。大きな感動と考えるきっかけを与えてくれるこの作品について、いくつかの記事を書いています。

〔原作漫画〕
漫画「コウノドリ」第1巻に、「切迫流産」のエピソードが紹介されました。厳しい現実に夫婦はどう向き合うのか。学ぶことのたくさんある作品、これからパパになる男性にもぜひ読んでいただきたいです。
【コウノドリ】漫画 第1巻 「切迫流産」のリスク ―症状と対処法・治療法―

無痛分娩に関して、原作漫画に描かれたエピソードについて書きました。
【コウノドリ】漫画 第10巻 「無痛分娩」が心疾患を抱える妊婦に適用されるケース

〔2017年秋のドラマ第2シリーズ〕
第3話は、産後うつの深刻な現実を突き付け、大きな反響を呼びました。原作漫画の第10巻に登場した無痛分娩のエピソードもドラマで描かれました。
【コウノドリ】2017年 第3話 産後うつの深刻な現実、そして無痛分娩が必要なケース

第4話では、第1子を帝王切開で生んだお母さんが第2子を自然分娩で生もうとトライするケースが描かれました。
【コウノドリ】2017年 第4話 トーラック(TOLAC)とは ―帝王切開後の自然分娩のリスク―

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【コウノドリ】2017年 第5話 おなかの中で亡くなった赤ちゃん ―IUFD(子宮内胎児死亡)の現実―

第6話では、甲状腺に持病を持った妊婦が急変して亡くなってしまうという痛ましいエピソード。そのリスクについて考えました。
【コウノドリ】2017年 第6話 妊婦と甲状腺機能亢進症 ―甲状腺クリーゼのリスクを知る―

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