【自分の人生を生きる】漫画「3月のライオン」を読んで ―深く感じ、深く考えること― ※ネタバレ注意

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将棋を題材にした名作「3月のライオン」。主人公・桐山零の深く水の底に潜っていくような感性と思考は、盤面だけでなく彼の人生にも表れています。個性際立つ棋士たちとの激闘、そして大切な人たちとの絆は、僕たち読者に大切なことを教えてくれます。

映画で「3月のライオン」を知る

3月のライオン 桐山零

僕がこの作品を知ったのは、つい最近。2017年6月に、海外出張の際の機内で、実写映画版の「3月のライオン〈前編〉」を見たのがきっかけでした。

10年も前から連載され、人気漫画だったそうですが、恥ずかしながら映画を見るまで、その存在を知りませんでした。「3月のライオン」というタイトルからは、将棋をテーマにしていることも想像がつかず、機内の映画リストから何となく選んでみた感じでした。

ですが、まったく期待をせずに見始めたこの映画に、僕はすっかり夢中になってしまいました。個性的な棋士たちが繰り広げる息詰まる迫真の戦いに、思わず身を乗り出して見入ってしまいました。

豪華なキャストがそろっています。中学生でプロ棋士になった主人公・桐山零を演じたのは神木隆之介。個性的な棋士たちには、染谷将太、佐々木蔵之介、加瀬亮、伊藤英明、豊川悦司といった名優たちが居並びます。中でも胃の痛みをこらえながら魂の将棋を指す佐々木蔵之介の苦み走った演技には圧倒されました。

孤独な人生を歩んできた桐山零に、本当の家族のように接する和菓子屋の三姉妹を、倉科カナ、清原果耶、新津ちせが演じています。倉科カナさん、美しいですよね~

監督は大友啓史。元NHKのドラマ・ディレクターですね。2007年に放送されたドラマ「ハゲタカ」は、当時の金融ショックと世情を反映した衝撃的な作品で、強く印象に残っています。人間同士の緊迫した駆け引きを描き出す手腕が、映画「3月のライオン」でも発揮されています。

残念ながら、映画の〈後編)は劇場での上映が終わっていて、見逃してしまいましたが、すぐに原作の漫画を読み始めました。

そうしたら、これは当たり前のことかもしれませんが、映画をはるかにしのぐ名作でした。

羽海野チカ著「3月のライオン」の魅力

著者は羽海野チカ(うみの・ちか)。「ハチミツとクローバー」という作品で有名な方だそうです。

「3月のライオン」は2007年から連載がスタート。2017年7月現在、単行本が第12巻まで出ています。今も不連載は定期で継続中です。

 

僕は仕事と家事の合間に、睡眠時間を削りながら自分の時間を作り出し、全12巻をむさぼるように一気に読んでしまいました。

本当に素晴らしい作品。出会うことができて本当に幸せだと思える作品でした。

もちろん白眉は将棋のシーンです。僕は将棋は駒の動かし方を知っている程度で、勝負を楽しむようなレベルではありませんが、登場人物たちの戦いは、そんな僕にも迫ってくるものがありました。

印象的なのは、個々の棋士たちの人生が丁寧に描かれていることです。一見汚い手を使うように見える棋士にも、実は切なくなるような人生が背景にある。そういった人生の断片が、愛情をこめて描かれているのです。

このことは僕に大切なことを教えてくれます。僕たちは人と接するとき、相手の一面だけを見て、どういう人間かを評価・判断しようとします。だけど、相手の本当の思いを知っているのか…。そんな風に立ち止まって相手を見つめることを、僕はこの著者のあたたかい眼差しから教わりました。

もうひとつ面白かったのは、将棋の次の一手を読むことを、水に潜ることに例えている点でした。怖くなって深く潜ることをやめてしまう棋士もいる。深く潜り過ぎて戻ってこられなくなるのではないか…。潜ってみたところで何もつかめず手ぶらで浮上することになってしまうのではないか…。そんな恐怖にさいなまれる。真に強い棋士は、誰も到達したことのない深みにまで潜って、そこに新しいドアを見つける。漫画だからこそ表現できる精神世界に感嘆しました。

「深く考える」「ずっと先まで考える」ということが、将棋だけでなく人生においても重要であることを、この作品は教えてくれます。

それを示す端的なシーンが、主人公・桐山零が家族のように慕う三姉妹との重要な場面にありました。

美しい三姉妹とゲスな父親

3月のライオン 三姉妹

ここから先は、作品の肝となる部分に触れます。ネタバレの要素が含まれてしまうと思いますので、作品を読まれていない方は、ぜひ先にお読みいただくことをオススメします。

三姉妹の年齢は、長女のあかりが23歳くらい、次女のひなたが16歳くらい、三女のモモが5歳くらいでしょうか。彼女たちの母親は若くして亡くなっています。祖母も亡くなっていて、三姉妹は和菓子職人の祖父の店を手伝いながら、小さな古い家で暮らしています。

問題は「父親」です。

塾講師の仕事を辞めてしまい、和菓子の店にもやる気が起こらず、自堕落な生活に陥ります。それでも、妻も妻の両親も娘たちも、誰も彼のことを責めず、自ら立ち直ってくれることを信じて見守っていました。ところが、そんな状況さえ重いと感じた彼は、不倫相手を妊娠させ、妻と娘たちを残して出て行きます。

最後の最後まで夫を愛して信じていた妻は、大きなショックを受けて病に倒れ、若くして亡くなります。祖母も悲しみを抱えたまま、後を追うように亡くなります。

残された三姉妹を祖父が育ててきたわけですが、彼らの生きてきた苦労は想像を絶するものがあります。長女のあかりは、献身的に妹ふたりの母親代わりをつとめます。次女のひなたも大好きだった母親を亡くした悲しみを胸に秘めながら健気に姉を助けます。三女のモモはまだ幼いですが、いずれ父親の非道と母親の悲しい最期を知ることになるでしょう。

逃げた父親は、元妻が亡くなっても顔も出さず、娘たちに養育費さえ送りませんでした。

それが、ある日ひょっこり現れて、ニコニコ笑いながら「一緒に暮らそう」と言い出す。もっともらしい言い分を軽やかに語るものの、本当は職場で不倫をして解雇され、1か月後に社員寮を出なければならないという勝手な事情で、娘たちの家を当てにしてきたのです。病気がちの今の妻と、その妻との間にできた幼い娘の世話を三姉妹に押し付けて、自分は不倫相手のもとへ逃げようと考えている。

父親を憎みながらも愛したいと願っている三姉妹の心につけ込んで、重荷をすべて押しつけ、自分は楽な方へ逃げようとしているのです。

こんなひどい男がいるのか…と、読んでいて胸をかきむしられるような苦しさを覚えます。

ここで主人公の桐山零が三姉妹を守るために父親の前に立ちふさがります。桐山がこのひどい男に言い放つ言葉には、棋士として鍛え上げてきた洞察と落ち着きがあり、ハッとさせられます。

「もう、考えるのやめちゃってますよね。聞いたことも頭の表面で止めて、ただ僕の気持ちをザラッとさせる事だけ考えてますよね。

相手がカッとなって自滅したり、呆れ果てて戦意喪失したりするのを待ってるんだと思いますが、僕、仕事柄こーゆーの慣れてるんで、どこまでも投げませんから」

大切な三姉妹を守るために、考えて考えて、深く水の底に沈むように考えて、この言葉を発している。19歳にして、この熟慮。畏敬の念を禁じえません。

決してカッとならず、投げ出したりもせず、一手一手詰将棋のように粘り強く差し続ける。これは一番大変な道でしょう。でも大切な人を守るために、彼はその道を選び、言葉の通じないひどい男と対峙したのです。

表面的、短期的にしか考えられない僕

僕は桐山の言葉の中の「頭の表面で止めて」という言葉が、すごく引っかかりました。自分にもそういうところがあるように思ったからです。

深く感じ、深く考えることは、大変なことです。僕はその大変な道を選ばず、もっと効率的で楽な道をとるために、すごく表面的に考えるところがあるように思うのです。

僕は妻が苦しい思いをしているときに、どこまで深く感じ、深く考えてきただろうか。

娘たちの成長の過程で、どれだけ深く感じ、深く考えてきただろうか。

僕の妻が、次女の妊娠出産をきっかけに、僕に愛想を尽かしてしまったのは、僕のそういう「浅さ」「軽さ」に絶望したからではないのか…。

そんな気がするのです。

僕は、このひどい男のように、不倫をしたわけでもないし、家族から逃げ出したわけでもないし、仕事を放り投げたわけでもない。

でも、深く感じ、深く考えることができないという点で、僕はこのひどい男をただ非難だけするわけにはいかないと感じました。

どうすれば深く感じ、深く考えられるのか

桐山零という19歳の若者は、特異な人生を歩んできました。幼いころに両親と妹を交通事故でいっぺんに亡くし、同年代の姉弟のいる棋士の家に居候することになった。居場所を見出すために、自立するために、生きていくために、将棋に打ち込んだ。幼いころから一癖も二癖もある大人たちの中で戦い続けてきた。

そんな彼だから、感情に振り回されることなく、相手をしっかり見て性質を見抜き、大切な人が何を望んでいるのかを全身で感じ、次の一手をどう打つべきかを、あらゆる局面を想定しながら、深く水の底に潜るように考えることができたのだと思います。

僕にそんなことができるのか。40歳を超えて、今から感性や思考を成長させていくのは、並大抵のことではないでしょう。

でも僕は、少しでも桐山零のような精神性の高さに近づきたいと、この作品を読んで、強く願う自分に気付きました。

あのひどい男を反面教師に。そして桐山零を人生の手本に。僕の心に彼らをしっかりと存在させて、深く感じ、深く考えることに挑んでいきたいと思います。

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